上 下
34 / 60
第3章「正義のシスター」

第34話「次の標的」

しおりを挟む
 僕はまだまだあるパンの一つ、また頬張る。お腹に溜まっていく感じはあるけど、もう少し食べたい。

 リリーはまだ何か言いたそうにしていたけど、ふいにライラの方を向いた。僕もつられて見ると、寝ていたはずのライラが目を開けていた。髪が避けられていて、初めて目を見ることができた。薄紫色の宝石のような綺麗な瞳。やっと起きたらしい。どこかとろんと眠そうにしている彼女はぼやっとこっちを見ている。僕を見ているのかパンを見ているのか。どっちなのか、彼女の薄紫色の瞳の視線の先を考えていると――盛大にお腹の音が屋根裏部屋に鳴り響いた。

 どこから聞こえてきたのかは明白だった。僕が見ている先でライラはみるみる顔を真っ赤にしていった。ブランケットに顔を埋める。だが、彼女のお腹の音は何度も鳴り、とうとう一度は隠れた彼女の顔は再び姿を現わした。目だけをブランケットから出して、じっとパンを見ている。……なんだか、こっちが悪いことをしている気分になってくる。

 僕は袋からパンを一つ取り出し――パンを移動させると、彼女の紫色の眼も動く――彼女の前に置いた。

「食べていいよ。お腹空いているでしょ?」

 ライラは無言でこくっとうなずき、身体を起こした。僕の身体が限界なこともあって、まだ彼女はあの部屋にいた時と同じ黒いボロボロになった服のままだった。ライラはそのことに気付いたようでさっとブランケットで身体を包んだ。じとっと僕を見てくる。何も話してこないが無言の圧だけは感じる。

「いや、その……」

 どこから言うべきか迷っていると、彼女のお腹の音がまた鳴る。ライラは目を伏せ、そっとパンに手を伸ばした。そして、さっとパンを手に取ると、もぐもぐと食べだした。幸せそうに顔が緩む。なんだか動物に餌を上げている気分だった。パン一つがあっという間になくなる。

 じっと僕を見てくるので、またパンを一つ置くと同じようにもぐもぐと食べだす。

「ふふっ、可愛いね」

 リリーにつられて、僕も笑ってしまう。

「むう、何笑ってるの?」

 やや掠れた声で言いながら、ライラがじとっと見てくる。まだ、喉が治っていないのかもしれない。

 ライラの問いには答えず、僕はベッドを降りた。近くに適当に置いておいたテーブルの上からコップを二つ持ってくる。

 僕がベッドに戻ると、彼女は袋に入っているパンを漁っていた。このままでは僕の分までなくなりそうだ。すごい食欲だな。気持ちは分かるけど。

 僕はベッドに上がると、ライラの前に座った。ベッドにコップを置くと、手に魔力を集めて水の玉を出す。それを数回繰り返して、コップに水を入れた。

「そんなに急いで食べると、喉つまらせるぞ。……あと、俺も食うからな」

 コップを彼女の目の前に差し出すと、パンを食べるやめ、そっとコップに手を伸ばしてくる。両手でコップを掴んで、なぜかくんくんと水の匂いを嗅いでいた。

「毒なんか入れねえよ。今、目の前で入れただろ?」

 ライラは視線を水と僕を何度か行き来して、ようやく水に口を付けた。かなり警戒していたくせに、かなり喉が渇いていたらしい。こくこくっと美味しそうに喉を鳴らして水を飲んでいく。おとがいを上げていって、ついには飲み切ったようで、コップから口を離すと、けぷっと軽いゲップ音を鳴らした。

 ゲップしたことが恥ずかしかったようで、耳まで真っ赤にしている。それなのに、僕を見ながらずいっとコップを差し出してくる。水を飲みながら、一連の流れを見ていた僕は、コップから口を離すと、呆れつつも彼女のコップに水を入れた。彼女はコップに水が入るやいなや、またこくこくと水を飲みだす。

 今のうちに、と僕は彼女が持っていたパンの入った袋に手を伸ばす。手元に引き寄せ、中を覗くと明らかに数が減っていた。この速さで食べて、よく喉を詰まらせなかったな。僕がパンを取り出しつつ、ライラをちらっと見ると、すでに水は飲み干されており、空になったコップがベッドに転がっていた。彼女の視線は僕の持っている袋に注がれていた。

「食いすぎるなよ」

「うん」

 僕がライラとの間に袋を置くと、彼女は嬉しそうに返事した。二人でそうして食事をしていると、袋に大量に入っていたはずのパンはあっという間に無くなってしまった。

「二人ともよく食べたねー」

 感心半分、呆れ半分と言った様子でリリー僕の後ろで言葉を漏らした。自分で思っていたよりもお腹が減っていたらしい。かなり夢中になってしまった。

「ふうー……」

 ごくっとコップに入った水を飲み切って、僕は一心地ついた。やっと色々落ち着くと、次のことについて頭が考え始める。次の標的はナンシーだ。彼女を殺すにあたって、僕は街に勇者パーティーの黒い噂を流すのと、勇者教会を調べようと思っていた。

 黒い噂でアーサー達が孤立すれば、勇者教会からも圧力もあって、アーサーも相当苛立つだろう。そして、油断が、隙が出来る。真正面から勝てないのは分かっている。ジェナがいなくなった今、アーサーとナンシーを別々に行動させたかった。なんだかんだ言って、ナンシーは勇者教会側の人間だ。アーサーが勇者に相応しくないと判断すれば、あっさり切るはず。彼女ならそう行動する。その間に、まずはナンシーを殺す。

 ナンシーはいわば勇者パーティーの頭脳で、彼女がいなくなれば大分やりやすくなるはず。

 ナンシーはただの人間じゃない。はっきりと訊いたことはないけど、彼女は人間にも関わらず数百年は生きているはずだった。ジェナがその辺のことをいじっているのを聞いたことがあり、半ば冗談だろうと思っていたけど……、この国に置いて魔法最強と言われる聖女の彼女なら有り得そうな話だった。どういう理屈かは分からないけど、魔法で不老不死にでもなっていたら困る。いざという時に殺せない。彼女のパーティーハウス以外の拠点――勇者教会を調べれば本当なのかどうなのかも分かるかもしれない。というかそれ以外に調べようがなない。パーティーハウスは以前、散々調べて何もなかったし、なにかあるすれば勇者教会だけだ。

 それにしても、不死なのかと考えると、いくつか思い当たる節はあった。ナンシーが自信以外の治療をしているのは見たことはあるけど、大怪我をした時でさえ自分自身の治療をしているのを見たことは無かった。大抵戦闘中でナンシーを見ている暇はなく、彼女はいつの間にか復活していた。僕はてっきり、自身の魔法でどうにかしていると思っていたけど、元々不死の身体になっているとしたら話は別だ。僕の復讐の障害になる。

 だから、勇者教会を調べたいけど――まずは、街に噂を流してからになるだろうか。担ぎ上げている勇者に不信感が募れば、色々ともろくなるだろう。
しおりを挟む
毎日更新中!


【感想、お気に入りに追加】、エール、お願いいたします!m(__)m


作者が泣いて喜びます。

【Twitter】(更新報告など)
@tuzita_en(https://twitter.com/tuzita_en

【主要作品リスト・最新情報】
lit.link(https://lit.link/tuzitaen
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...