上 下
31 / 60
第2章「勇敢な戦士」

第31話「ライラ」

しおりを挟む
「僕はアラン。……君は魔族なの?」

 なるべく大きな声で言ったのだが、彼女は首を傾げるだけだった。またも、彼女の唇が動くが、やはり何も聞こえてこない。

 ダメだ、ここで話していても埒が明かない。魔族なのだとしたら、協力者になってくれるのかもしれないのに。

〈アラン。……その娘、魔力が異常だわ〉

「異常? 量が多いってこと?」

〈そう。量も質も、ただの魔族じゃないわ。もっと上の――それこそ魔王に近い存在じゃないかしら〉

 そんな強いやつがこんなところに? 僕は彼女を見る。彼女は手にも足にも枷が付いていた。ただの枷にしてはやたらと堅牢で太い。あれで魔力を防がれてるのかもしれない。……いや、ジェナのことだからそんなことはしないか。本気で戦って、叩きのめすのを好むだろう。

 どうしよう。彼女を助けるべきだろうか。単純に考えれば協力者が増えるのは今後のことを考えればいいことだった。だが、この女の子が信頼できるかも分からない。勇者パーティーを倒すという意味では信頼できるかもしれないけど……、彼女は魔族だ。それだけでも、僕を恨んでもおかしくない。

 だけど……。彼女は傷だらけだった。血を流している。おそらくジェナにやられたんだろう。毎日毎日僕がやられていたように。でも、この様子だとナンシーのように誰かが傷を治してくれることは無かったようだ。耳は聞こえているのだろうか、目は見えているのか。僕は彼女を見ていると湧いてくる怒りを抑えられなかった。

 僕は痛かった。苦しかった。でも、それが魔王軍を倒すために必要なことなんだと愚かな考えで、どうにか耐えられていた。我慢できていた。

 でも、彼女は? いつから、ここにいるのかは分からない。今の所完全に壊れてしまっているようにも見えない。彼女がどのくらい暴力の嵐に晒されていたのか分からないが、短いとも思えない。

 終わってしまった過去は救えない。

 聞きたい。彼女が何をしたいのか。ジェナが死んだ今、彼女は自由だ。彼女がジェナをどうにかしたいと思っても、もう出来ない。僕が先に殺してしまった。他の勇者パーティーへの復讐くらいだ。彼女はそれを望むのか分からないけど。

 ……とにかく、ここから出そう。このままにはしたくない。

 数日経てば、ナンシーやアランがジェナが姿を消していることに気付く。ダンジョンに来る前にどこかに寄っていれば、ダンジョンに来たことも分かる。なにか情報を探ろうと思えば、この家にも来る。僕と同じように。そうすれば――この魔族の女の子もバレる。いや、ナンシーやアランたちは知っているのかもしれない。

 アランはこういうのを面倒臭がるだろうから、引き取るとしたらナンシーだろう。勇者教会にも所属している、彼女だ。正直、勇者教会にはいい印象がない。そもそもアランたちが村を襲っているのだって、彼ら教会の指示でもあるはず。……魔族が勇者教会に引き取られても碌な目に合わない気がする。

 誰かが助け出した可能性が残ると面倒だ。この子が逃げ出した風を装った方がいいか。僕は檻に手を掛ける。思いっきり鉤爪で檻の棒を切ってもいいけど、それだとこの子がやったとかどうか分からない。不審がられる。魔族は基本的に力が強いし、強引に行ったと分かれば多少は納得するはず。

 檻に掛けた手に力を込め――ぐぐっと曲げていく。今の僕ならこれくらいは簡単にできる。すぐに僕二人分は通れるくらいの大きさは開けられた。

 魔族の女の子が僕の方に顔を向ける。鼻のあたりまで髪が掛かっているけど、見ているのかな。僕が一歩、檻の中に入ると、彼女はビクッと後ずさった。怯えている。いや、なにかを嫌がっている。彼女は自身の身体を抱き抱え、僕が近付くことを拒否していた。

 彼女に繋がっている鎖は檻の四隅に繋がっていた。

「リリー、分かっていると思うけど、僕この子をここから出すよ」

〈うん……。でも、まさか、こんなことになるなんて〉

「ねえ、リリー」

〈んー?〉

「この子のこと知ってるの?」

〈なんで、そう思うの? 私はこの子のことは知らないよ?〉

「いや、なんとなく……」

〈そう。……怯えちゃっているから、早く鎖を外してあげた方がいいんじゃない?〉

「うん……」

 僕はどこか釈然としないながらも、魔族の子に繋がっている鎖に手を伸ばした。彼女は固まったまま動かない。なるべく彼女を怯えさせないように、少しだけ離れた場所で、鉤爪を思いっきり振り上げる。ガチャンっと金属音がして、鎖が一つ寸断できた。

〈アラン、力入れ過ぎじゃない?〉

「分かってるよ。ちょっと間違えちゃっただけ」

 ちらっと女の子を見るが、まだ身体を竦ませて固まったままだった。僕は一つ息を吐き、同じ要領で鎖を切っていく。最後の四本目を切っても、魔族の女の子は僕を見てすらいなかった。

 僕は彼女に近付く。一応いつでもこの檻から逃げ出せるように、羽に力を入れておく。万が一襲われても、すぐに後ろに下がることができる。

「えっと、名前はなんていうの?」

 話しかけると、彼女はようやく顔を上げた。髪の毛で目は見えないが、見られている感じはする。

「僕の名前はアラン。君の名前は?」

 もう一度訊くと、彼女の唇が動く。閉じ、開き、言葉を出す。

「ライラ……」

 小さいけど掠れた声で、そうはっきり言えるのが聞こえた。ライラ、か。

「ライラ。いいか、今から僕の言うことをしっかり聞いて」

 ライラはこくっと頷く。あまりに素直で少し心配になる。前の自分もこんな感じだったんだろうか。

〈そうだよー。素直で可愛かったなー。今はちょっとやさぐれちゃったけど〉

〈余計なお世話だ〉

 すかさず僕をからかってくるリリーに、僕は閉口する。こういう時、無駄に早い。普段は割とおっとりしているのに。
しおりを挟む
毎日更新中!


【感想、お気に入りに追加】、エール、お願いいたします!m(__)m


作者が泣いて喜びます。

【Twitter】(更新報告など)
@tuzita_en(https://twitter.com/tuzita_en

【主要作品リスト・最新情報】
lit.link(https://lit.link/tuzitaen
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...