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10話 新入生歓迎会

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 入学式の騒動の後、各自寮の案内をされ俺とマシロは一緒の部屋に案内された。女神の目を欺く魔法道具を使用した後、俺は既に二段ベットの下で寝転がってスマホを弄り出したマシロに説教をする。

「マシロ、お前なんであんな危険なことをしたんだ。人が死ぬかもしれなかったんだぞ。」
「そこに娯楽があったから……。」
「お前何言ってるの? 周りに人に被害が及ぶかよく分からない魔法を試すようなことはするな。」
「気が向いたらねー。」

 俺がマシロの適当な返事に頭を抱えた。コイツの矯正とか本当に出来るのか? 俺はベットの向かい側にある勉強机の椅子に座りながら考える。
 普通は同学年と一緒の相部屋になるものだが、案内がてら先輩から聞いたことでは留学生は少ないから、別の学年と一緒になることもあるし、兄弟と一緒に入学しているなら同じ部屋になりやすいと聞いた。

 潜入しているからそちらの方が都合がいいけど、人間的にコイツと一緒なのは嫌だ。変えてほしい。そもそも今の俺たちはイケメンとは言い難いからクソ女神の介入によって爪弾きにされてないかと邪心してしまう。いや、美幼女顔のマシロはともかく俺は平均的な日本人の地味な平凡顔だ。なんであのクソ女神、俺を異世界送りにしたの? 本当に迷惑な奴だ。

「誰も死ななかった……残念。」

 コイツ、人が死ななかったことに対して残念がってやがる……! 仮にもコイツと共同生活を送る身、人殺しを野放しにするわけにはいかない。
深い溜息を吐いてから俺は奴に注意する。

「あのなあ、人殺すのは駄目だって前にも言ったよな?」
「そういや言ってたね。」

 そういやってコイツ……。人の話聞いてなかったな? 若干苛立たしさを感じつつ、スマホをいじっているマシロの説教を続ける。スマホを奪おうとするが、マシロの方がはるかに機敏に動くため奪うことが出来ない。コイツ、寝転がったままよく避けられるな……。

「そもそもお前はなんでそこまで人を殺したがるんだ。」
「強いやつ見たらいつの間にか殺りたくなる。弱いやつはどうでもいい。」
「衝動的に殺そうとしてんの!?」
「弱っちい中村はそうならないの?」
「なったことねえよ!」
「そうなんだ。」

 マシロはスマホを弄りながら興味がなさそうに返事をする。
 どうしよう、俺はとんでもないやつと組まされたのかもしれない。頭を抱えて悩んでいると、外からノックの音が聞こえてくる。

「もうすぐ新入生歓迎会の時間だから、そろそろ準備してくれ。」

 ドアの向こうから留学生寮に案内してくれた先輩の声が聞こえてくる。この学校はイケメン以外には人権がないのか、ぶつかっても謝ってもらえなかったり、謝ろうとして顔を見た途端、舌打ちされたりなど若干扱いが酷い。不細工だからって人権がないのはどうかと思う。
 しかし、この先輩は誰にでも平等に優しく接してくれるいい先輩だ。彼には優しくしよう。マシロには特に強く言っておこう。

「あっ、はい。分かりました! すぐに向かうので待っててください。」

 俺は未だにベットで寝転がりながらスマホで遊んでいるマシロに向き直ると手を指し伸ばす。

「ほら、時間になったみたいだから新入生歓迎会行くぞ。スマホは仕舞っとけ。あと、さっきの先輩には優しくするんだぞ。」
「……うん。」

 マシロの表情は分厚い眼鏡のレンズに隠されていて見えない。しばらく俺の手を見た後、スマホを異空間に仕舞い、俺の手を取る。……意外と素直だな、もっとごねるかと思った。

 俺たちが手を繋いで部屋の外を出ると、呼びに来た先輩は微笑ましいものを見るような優しい目で俺たちを見ていた。俺たち、変装で兄弟設定になってるだけで赤の他人なんですよ。とは言えず、彼についていく。

 先輩の後について行くと、学校内の大きなホールにたどり着いた。先ほど入学式をやった場所と同じ場所だ。先ほどの入学式とは違い、豪華な飾り付けがされている。会場には俺たちと同じ新入生や在学生と思われるイケメンの生徒たちがたくさんいる。

「ここが新入生歓迎会が行われる場所だよ。」

 先輩に続いて会場に入ると、背中に身の丈を超えた花壇を背負った派手な衣装を着た耳の長い背の高い男性が一人ハイテンションにノリノリで音楽に合わせてダンスを踊っていた。
 俺は思わずマシロの手を繋いだまま、クルッと方向転換し、そのまま部屋に戻ろうとする。マシロは分厚い眼鏡のせいで表情が見えないが、「え、もう戻るの?」と言わんばかりにこちらを見ていたと思う。

「阿部屋兄弟! 何で帰ろうとするんだ! まだ何も始まってないぞ!」

 俺は先輩に肩を掴まれて止められた。俺は先輩に向き直り、サンバを踊り続けている不審者を指さしながら反論する。あのクソデカ花壇背負っててよく踊れるな!?

「いや、なんか不審者がいるじゃないですか! あんなの人の手に負えません! 帰りましょうよ!」
「あんなの!? いや、確かにあの人大分変な人だけど、この学校の魔法薬学の先生だぞ!  ちゃんと生徒に向き合って平等に接してくれるいい先生だ!」
「パッと見た感じヤバい人にしか見えないですけどね!」

 あれが教師なのかよ! この学校の人事どうなってんだ! 

「とにかく、あの生成の名前はサンバ・ガーデニア先生だ。」

 割とそのままの名前だな……。覚えやすくていいけど。
 俺が項垂れながら会場に入ると、マシロが周りをキョロキョロと興味深そうに見ていた。何もしないならそのまま気になるところを好きに見に行ってもいいよって言いたいんだけど、コイツの場合、絶対なんかやらかす気がするから手を離そうにもできないんだよな……。

「あ、本当にいた! おーい! そこの眼鏡かけてる人たちー!」

 会場に響き渡る明るい声。その声のする方を見ると、茶髪の犬っぽい人懐こそうな印象のの青年と先ほどのサムライ君がいた。茶髪の彼は俺たちにニコニコと話しかけてくる。

「君たちも留学生だよね? 僕たちもそうなんだ! 僕の名前はエリック・マクニース。こっちのサムライはツルギって言うんだ! 同じ留学生同士仲良くしようね!」

 うわあ、陽キャだ! 陽太君と同じ陽キャだ! というかサムライって概念、異世界にもあるんだ……。俺が眩しさから目を逸らしていると、マシロが俺の後ろからエリックと名乗った青年に話しかけた。お前いつの間に俺の後ろに隠れてたの?

「エリックとツルギの顔つきが他の人と違うでやんす! 何で何で? 不思議でやんす!」
「うん、僕たちの故郷はこの国から東にあるタッメルの国だから顔つきが違うんだよ。」
「そうなんでやんすか!」

 背の低いマシロに対し、しゃがんで質問に答えるエリック。エリックって人、いい奴だな。マシロと二人きりになって殺されないようにしてね。
 一方、ツルギさんはマシロとエリックの会話を刀に手を置いたままじっと見ていた。マシロを警戒しているのか? 俺はツルギに話しかける。

「あの、ツルギさん。先ほどは助けて頂きありがとうございました。おかげさまで怪我なく済みました!」
「……そうか、君たちが無事でよかった。」

 彼は俺に対して素っ気ないが、柔らかく笑いながら返事をしてくれた。マシロに対しての警戒態勢を解いてくれなかったけど。
 マシロ、お前の本性ツルギさんにばれてない? 俺はマシロの正体を誤魔化すように彼に質問をする。

「えっと、ツルギさんとエリックさんはどのような関係なんですか?」
「拙者たちは非常に深い魂の結びつき方をした運命の相手でエリックは拙者の母上だ。」
「え?」
「ツルギ?? あっ、すみません! 僕たちちょっと急用ができてしまったのでまた後で話しましょうね!」

 ツルギさんの耳を引っ張りながら、どこかに行ってしまうエリック。……ツルギさん、すごい真剣な表情で言ってたな……。うん、聞かなかったことにしよう。深く突っ込んだらいけない気がする。
 マシロはというと、エリックたちが行った方向をじっと興味深そうに見ていた。……あまり変なことに興味を持たないでほしい。これ以上コイツの頭がおかしくなったら俺の精神がやられる。マジで辞めてくれ。

 唐突に俺後ろからトントンと肩を叩かれる感触がした。その方向を振り向くと、そこにいたのは先ほどのサンバの不審者……ではなく、サンバ・ガーデニア先生だった。

「やあ!」
「ワア!」

 俺はつい声を上げて驚いてしまう。

「ハハッ! そう驚かないでくれ! 私は噛んだりしないさ!」

 彼は快活に笑い全身を使ったおかしなポーズをしながら、俺に話しかけてきた。この人、そんな重そうなものを背負ってよく動けるな。

「君たちが阿部屋兄弟か。私は魔法薬学の教師をしているサンバ・ガーデニアだ。君の兄の方の担任になるから挨拶しに来たよ!」
「あ、ハイ……。わざわざご挨拶アリガトウゴザイマス……。」

 この人が俺の担任かよ! 嘘だろ!? 嫌なんだけど!

「このお花は何でやんすかー?」

 マシロがガーデニア先生の花壇の花を触ろうとすると、彼はいきなり背中をのけ反らせ、マシロに花を触らせようとしない。

「ノンッ! 人のレディにお触りは紳士のやることではないよ! 阿部屋弟!」
「レディって何でやんすか?」
「ムッ、レディの存在を知らない!? 君はそれでも紳士かね!?」

 ガーデニア先生はマシロにレディについておかしなポーズを決めながら説明し始める。マシロはそれに対してうんうんと熱心に聞いているフリをする。この世界は男しかいないから女の人の存在がないから、コイツは知らないフリをしてるだけですよ。とは言えず、俺は会場の隅にこっそりと移動する。
 ……ん? 何でこの人は女の人の存在知ってるんだ……?

「ハハッ! 阿部屋兄! そんな隅っこに寄らないで私たちと一緒に踊ろうじゃないか!」

 俺が会場の隅で考え事をしていると、いつの間にか目の前にいたガーデニア先生に腕を引っ張られ、会場の真ん中で彼と一緒に社交ダンスを踊らされることになった。
一度もやったことのない俺の運動神経はお世辞にもいいとは言えないが、ガーデニア先生がかなり上手いので俺が転ぶことはない。

「ハハッ! いいぞ、阿部屋兄! 初めてにしては上出来だ!」
「アッ……ゼーゼー……ハイ……? ハーハー……恐縮デス……。」
「息切れ酷いが大丈夫か!?」

 ガーデニア先生は音楽が止むと、俺を会場の休憩スペースまで連れて行ってくれた。なるほど、変な人だけど、こういう気遣いができる人なのね。そりゃあ先輩から高評価を受けるわけだ。
 あっ!? そういえばマシロはどこ行った!? そう思ってマシロの姿を探すと、奴はいつの間にか食事をとってもぐもぐと食べていた。こ、コイツ……! 呑気に高みの見物かよ!
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