すれ違い

麻沙綺

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頼side3

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  俺がテーブルに携帯を置いたとたん、彼氏さんがしでかした事の反省と姉貴への謝罪が始まった。


  ふ~ん。
  この人、相当姉貴の事が好きなんだなぁ……。言葉の端々に姉貴への気遣いが見える。
  今までの姉貴の彼氏に居ないタイプだ。
  それに、姉貴の本質を見極めている人だと思う。
  この人なら、姉貴を任せられると、確信する。


  何時の間にやら、姉貴が携帯を手にして、話していた。

  嬉しそうな顔をしながら、涙するという難しそうな芸当を披露している。
  俺は、そんな姉貴から携帯を奪い。
「もしもし、琉生さんですか? 姉貴、大泣きして大変なんですよ。直ぐにでも引き取りに来てください。」
  俺は横目で姉貴を見れば、目許に手を遣り吃驚してるし……。
  今まで気付いてなかったのか……。
  俺は、琉生さんに自分の住所を伝えると電話を切った。


  これで、あの彼は慌てて迎えに来るだろう。


「姉貴。琉生さん、直ぐ来るってさ。準備しておかなくてもいいの?」
  俺が声を掛ければ、一瞬だけキョトンとした顔になり、慌てて立ち上がり部屋に戻って行った。


  これで、少し落ち着けばいいんだけど……。


  暫くして家のチャイムがなる。
  俺は玄関に行き、ドアを開ける。
「えっと、姉貴の彼氏さん?」
  始めて会ったのだから語尾に疑問符が着くのは、仕方ないだろ。
  そして、彼を不躾ながらマジマジと見る。
  今までの彼氏とは、真逆のタイプだ。
  今までは、どちらかというと遊んでそうな感じだったんだが、今目の前に居るのは真面目で、誠実そうなタイプ。それに、嘘を付けない人だ。
  へぇー。
  姉貴にしたら、まともな人見つけたんだ。
  それが、第一印象の感想。
「君が、伊織の弟君?」
  同じように疑問符で返された。
  俺は、返事をせずに。
「どうぞ、上がってください。姉貴、今準備してますので」
  俺はそう言って、スリッパを出して上がるように促した。


  そのままリビングのソファーを勧めた。
「姉貴が、暴走してすみません。今まで散々男に振り回されていたから今回も同じだと思ったみたいです。」
  俺は、今までの姉貴の彼氏達を思い出してそう告げれば、何か言いたそうな顔で俺を見てくる彼に。
「姉貴、あんなんだから男が逃げる……違うな、男の方が自信を失くしてしまって、新しい女を作って離れていくんです。誰も姉貴の芯には触れなかったんです。」
  本当にこの人達、姉貴の見てくれにしか興味ないんだなって、毎回思わされた。
  その度に涙する姉貴をずっと見てた。
  だが、今回は違うと自信が持てる。
  彼なら、姉貴を幸せにしてくれると会ったとたん直感した。
「貴方なら、大丈夫だって思ったんです。俺の感ですけど。姉貴を大切にしてくれると、姉貴の本心を見抜いてくれると思えるんです。どうか、姉貴を宜しくお願いします」
  俺は、そう言って頭を下げた。
「頭を上げて。伊織を手放すきないから。こちらこそこれから宜しく。」
  俺が頭を下げたことに驚いたのか、声が上ずっていた。

  ふとリビングの入り口付近に、気配を感じてそちらを見れば姉貴が驚いた顔をして立っていた。
  彼には未だ気付かれてないが……。
「姉貴。何そんな所に突っ立っているのさ。こっちに来れば。」
  声を掛ければ、彼が振り返ると同時に席を立ち姉貴の方へ歩み寄って行く。
  そして、そのまま抱き付いたのだ。


  うわっーー。
  ちょ、ちょっと何してくれるの。
  独り身の前で、堂々と抱擁とか、ないわ…。
  ったく……。
  少しは、配慮してくれませんかねぇ。
  まぁ、それだけ心配していたってことだろうけどさ。

  心の中で叫びつつも暫くは、二人を見守ることにしたのだが……。

  二人の世界に入ってしまったのか、そこだけが甘い雰囲気に達していて俺の存在を忘れているようだ。
  いい加減にしてくれないかなぁ。
  ここ、俺の家なんだが……。



「うおっほん!」
  俺はできるだけ自分を主張するように、態と咳払いしてみた。
  すると二人は申し訳なさそうに俺を見る。
「あのさぁ。人の家で燃えるのやめてくれない。一人身の俺には、キツすぎるんだけど。続きをしたければ、他所でやってくれ。」
  そう言葉にすれば、二人は慌てて離れて顔を赤らめ恥ずかしそうにしてる。
「ごめん、頼。帰るね」
  姉貴が俯きそう呟けば。
「あぁ。また、喧嘩したら何時でも来れば」
  冗談混じりでそう口にしたのだが、彼の方から冷たい冷気が漂い出す。
  おー怖い。
  まぁ、もうしないだろうけどな。
「頼くん、ありがとう。伊織のこと、絶対幸せにするから。」
  と真顔で断言されてしまった。
  あはは。何時名前を教えたっけ?
「お願いします。今までの彼氏と違って、琉生さんなら任せられると信じてますよ。」
  そう答えるしかなかった。
「あぁ。伊織、行くぞ。」
  姉貴が持っていた荷物を何時の間にか手にしていた彼が、姉貴を誘導していく。
「頼、ありがとうね。」
  姉貴が、振り向き様にそう言う。
「ん。今度は大丈夫だから、心配せずに琉生さんについて行きな。」
  本当は、もうちょっとだけ自分を頼って欲しいって思うけど、彼には敵わないだろう事も気付いた。
「また来るからね。今度は、ダブルデートできたらいいな。」
  と姉貴の願望が放たれた。

  姉弟で、ダブルデートって……。
  全く……。
「……善処します」
  とだけ言ったって見送った。



  今度二人が来るときは、結婚の報告だろうなぁ。

  何て思いながら……。








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