すれ違い

麻沙綺

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琉生side3

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  昨日、やっと繋がった電話だが、伊織は出ず弟君に伊織への伝言を伝えて電話を切った。

  ちゃんと伝わっていればいいのだがと思いながら、俺は重い足を会社に向けた。


  会社のあるビルに入り、一目散に自分の部所に向かう。

  部所までの通りには、伊織の部所もあり、そちらをチラリと横目で見るが、何時もの席に彼女の姿はなかった。

  どうしたんだ?
  何時もならこの時間には、出勤しているはずだ。
  何故居ないんだ?
  疑問と不安が、俺の中に渦巻いた。


  自分の部署に入れば。
「琉生、おはよう。」
  とニコヤカに俺の腕に自分の腕を絡めてくる奴が居る。
  胡散臭気に奴を見て俺は、無理矢理腕を引き抜き睨み付けた。
  ……が。
「この間は、楽しかった。琉生。」
  と、部所の入り口で意味深な言葉を他人に聞かせるような声で言う。
  その言葉で、部所内がざわつく。
  何のつもりだ。
  俺は、そんな奴に。
「何の事だ?」
  冷たくあしらう。
  俺にとっては、散々だった。
  なのにコイツは。
「えーッ。何照れてるの? この間、激しく燃え上がった仲じゃん。」
  部所内に響く声で言い放しやがった。
  何が、燃え上がるだ。
  冗談じゃない。
  コイツを見やれば、僅かに頬を染めて、俺を見上げてくるが、全然可愛くなんか無い。

  って言うか、コイツ計算してやってるんでは無かろうか。
  だが俺はコイツに一度だって、触れたいなんて思ったことない。
  そう言って、詰め寄ってくるあいつに。

「そういう誤解を招く言い方やめてくれますか? 俺は、君なんかなんとも思ってない。それどころか、本命に逃げられて大変なんですよ。あなたのせいで、要らぬ誤解させて、ね。いい加減嘘をつくのやめてください。他人の迷惑考えて行動してください。いい大人なんですから。」
  コイツとは同期だが俺は、なるべく丁寧にそう告げた。
「嘘って? 私は、琉生と付き合ってるんだからね。」
  って、 付き合ってねーって言ってるのにこの返しとは……。
   コイツの頭、大丈夫なのか?
  コイツの言動には、付き合っていられん。     
  ただでさえ伊織不足で、イライラしてるところにこの追い討ち。
  いい加減にしてくれ。
「付き合ってねぇ。俺がお前みたいな役立たずに惚れるわけないだろ!  性格ブスは嫌いだ。この間も言ったが、下の名前で呼ぶんじゃねぇよ!」
  ……って、思わず言っちまった。
  まぁ、本当の事だし、この際訂正せずにおくかな。
  奴が放心してる隙に、その場を離れた。


  あ~あ、今日は朝から最悪だ。
  こんなはずじゃなかったんだがな。

  部内が騒然となる中、俺は自分の机に向かい、パソコンの電源を入れて起動するのを待った。

「オーイ、佐木。お前、あんな事言って良かったのか?」
  そう声を掛けてきたのは、同じく同期の岸本。
  入社当初からの付き合いになるが、以外と仲良くやれてると思う。

  俺と伊織の事もこいつは知ってる。
「いいんじゃねぇ。本当の事だし、俺、あいつのせいで折角のデート、台無しにされて帰ったら、彼女に家から逃げられてたし。散々だよ。」
  俺は、深く溜め息を吐いた。
「えっ、伊織ちゃん、行方不明なのか?」
  岸本が大きな声で言うから、慌てて口を手で被った。
「バカ、声がでかい。行方はわかってるから……。ただ、俺に会いたくなくて、逃げてるんだよ。昨日電話したら、弟君のところに居るって、連絡ついてるから……。」
  そう告げれば、安心した顔をする。
「それならよかった。……けど、何で急に出ていったんだ?」
  ポツリと呟かれた言葉に俺も頭を捻る。
「俺も、その辺がわかってないんだ。ただ、キャンセルの電話をして、お詫びのデザートを購入してから家に帰れば、もぬけの殻で、伊織の荷物が全て無くなっていたんだ。跡形もなく。」
  意気消沈する俺に。
「して、そのキャンセルの理由は如何に?」
  淡々とした口調で聞いてくる、岸本。
  俺は、アイツを睨み付けながら。
「あいつが、相談したいことがあるからって……、時間が許す限り聞いてやろうとしたら、中々言い出さなくてな、気付けば待ち合わせの時間になってた。」
  俺は、あの日の事を思い出しながら口にした。
「お前、それ漬け込まれたんだろ。先約があるからって、断ればよかっただろうが……。それで彼女に逃げられてたら、意味がないだろうが……。で、待ち合わせの時間と場所は?」
  呆れ顔の岸本に問いただされ。
「今人気のフレンチの店の最寄り駅。十八時半。」
  岸本の質問に答えれば、頭の中が整理されていくのがわかった。


  あの日は、土曜日で、伊織は仕事が休みで駅で待ち合わせて行くことにしていた。
  伊織の事だから、二十分前には着くようにしていただろう。
  ……ということは、あの時、俺がキャンセルの電話を入れた時には、もう駅に着いていて、何処かで俺とあいつの様子を見ていたとしたら……。
  顔から、血の気が引いていく。

「ヤベェ、俺、取り返しのつかないことをした。」
  俺はポツリ溢しその言葉を岸本が拾い。
「おい、どうした。顔が真っ青だぞ。」
  と声をかけて来たが、それをスルーした。

  あの時、伊織が俺に気付いて、跡を追っていたとしたら……、あれを見られていたら……。

  考えたくもねぇ。
  でも、あり得る話だ。
  こんなんじゃ、まともに仕事できそうもない。
  どんなに言い繕っても、取り返しがつかない。
  気付けば頭を抱え込んでいた。

「佐木。取り合えず、仕事しろ。昼休みに話を聞くから。」
  岸本の肩を叩かれ、目前の仕事に打ち込んだ。



  気になり出したら、中々捗らない仕事にイライラし、ミスを何度も繰り返す。
  そんなことしているうちに昼休みに入った。

「佐木。出れるか?」
  岸本の言葉に俺は席を立った。



  会社から離れた洋食屋に入った。
「食欲無いだろうが、何か食べないと伊織ちゃんに会った時に心配させるぞ。」
  岸本の言葉に俺は、オムライスを頼んだ。


  テーブルの上に注文の品が並ぶと岸本は、直ぐに食べ始めた。

  それを見て、俺もスプーンを手にし、オムライスを掬い口にする。

「……で、その落ち込みは、何があったんだ?」
  岸本が、本題に入る。
「……もしかしたら、伊織にあいつとキスしてる所を見られたかも…」
  そう口にした。
  それを聞いた岸本は、何とも言えない顔をして俺を見る。
「あの日は、久し振りのデートだって、お前自信も楽しみにしてただろう?」
  岸本には、言ってたんだよな。
  あいつのせいで、無くなってしまったデート。

  俺は、ポツリポツリと岸本に話した。


「何で、あいつがお前が予約した店を知ってたんだ?」
  岸本の言葉にハッとした。
  確かに。

  俺は、あそこに行くなんて誰にも言ってないし、こいつにも……。
  なのに、何故あいつが知ってるんだ?
   俺は、訳がわからずに首を振る。
「それって、お前が予約してるところを見てたって事じゃないか? じゃなければ、そう都合よく "相談がある" 何て言わないだろ」
  そう言えば、予約が取れたときに後ろに誰か覗いていたような……。

  あの時は、伊織の喜ぶ顔を浮かべてて、気にも留めていなかった。

「伊織ちゃんって、生真面目だから誤解を解くの大変かもしれないな。」
  岸本の言葉に肩を落とす。
  確かに、岸本の言う通りだ。早く伊織の誤解を解かねば何処か行ってしまう。
  俺が、愛しく想ってるは、伊織だけなんだと伝えなければ……。
  だが、その相手が俺から逃げてるのだから、伝えられない。

「伊織ちゃん、今日休んでるのは体調不良だって聞いた。それって、この事とが関係してるんだろ? どうするんだ?」
  体調不良だと……。
  大丈夫なのか?
  今電話しても大丈夫だろうか?
  それより岸本こいつ、どこでその情報を聞いたんだ?
  俺だってその情報掴んでなかった。
「おーい。大丈夫か?」
「あ、ああ…。」
「……で、どうするんだ? 俺が手を貸そうか?」
  岸本の嬉しい申し出だが。
「それは、最終手段で……。取り敢えずは、自分で何とかする」
  岸本にはそう答えてた。
「そうか。どうにもいかなくなったら、俺に声を掛けろよ。」
  苦笑しながら、岸本が言う。
  俺は、それに頷いた。


  社に戻り、午前の分を取り戻すように仕事に没頭し、定時で上がり伊織に電話した。
  数コール後、留守電に変わった。

  何で、出てくれないんだよ。
  出てくれなきゃ、話せないだろうが……。

  俺は、焦り出す。
  伊織を他の男にとられたくないんだ。
  だから、電話に出てくれ。


  何度もコールして、やっと繋がったと思えば、沈黙が広がった。












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