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本編
33話 顔会わせ2
しおりを挟む「詩織、護君。遅いよ。」
境内の入り口に着くとお母さんが、口を尖らせて言う。
「ごめんなさい。友達とばったり会っちゃって話してた。」
「そうなの。それより、早く行きましょう。予約してあるから。」
お母さんは、嬉しそうに歩き出す。
「ごめんね。なんか、お母さん浮かれてるね。」
もう、恥ずかしいな。
「いいよ。嬉しそうなお義母さんの顔を見ていたら、こっちも楽しい。」
護の楽しそうな声。
よかった。
「護、ありがとう。私、護にとって、お荷物なのかなって、思ってたんだ。けど、私は私なんだって。他の人にはなれない。それに、護に釣り合うように頑張ればいいんだって、思い知った。」
会えなかった分考える時間が出来て、よかったんだと思う。
「オレもさ。詩織の事、もっと信じることが必要だなって。自分の想いだけを表に出して、恥ずかしい思いさせたな。オレは、何時までもお前の事を大切にしたい。愛しく思ってる。」
護が、優しく肩を抱き締めてくる。
「詩織が、オレを頼ってくれるように、今は頑張るだけだ。」
寂しそうに言う護に。
「頼りにしてるよ。でも、今は重荷になるだけでしょ。受験が終わったら、一杯甘えちゃうかもよ。」
笑顔で言う、私に。
「いいよ。詩織の我儘、聞いてあげる。一杯我慢してるもんな。」
護が、私の額を軽くつつく。
エヘヘ。
「こら、そこ。何時までいちゃついてるんだよ。店に入るぞ。」
勝兄の激が飛ぶ。
「はい。」
入ったお店は、和食料理屋さんだった。
和室に案内されて、座る。
私は、護の横に座った。
会席料理が運ばれてきた。
わ~。
凄い、ご馳走だ。
「さぁ、食べようか。」
お父さんが言う。
「じゃあ、玉城さんが、乾杯の音頭をお願いします。」
お母さんが、護のお父さんに顔を向けて言う。
護のお義父さんが、頭の後ろを擦り照れながらも。
「明けましておめでとうございます。今年一年が、良い年でありますことと、私と息子共々よろしくお願いします。乾杯。」
と、挨拶する。
「乾杯!」
チィン。
カチィン。
グラスが触れ合う音。
私と護、それに優兄は烏龍茶。
護のお義父さんとうちの両親、双子の兄達は、ビールをそれぞれ口つける。
「うまい!」
隆兄が、一言呟く。
「頂きます。」
私は、手を合わせて料理に手を出す。
「おいしーい!!」
私は、次から次へと口に運ぶ。
半分ぐらい食べたところで、お腹が一杯になる。
「もう、入らない。」
私が言うと。
「勿体ないなぁー。」
優兄が、そう言って私のお膳に手を出してきた。
「どうぞ。」
私は、優兄にお膳を差し出す。
「詩織。本当に一杯?」
お母さんにも聞かれて。
「うん。もう入らないよ。」
と、即答した。
「帯の締め付けのせいじゃなくて……。」
お母さんが、心配そうに聞いてくる。
「うん、違うよ。」
帯はそんなにきついとは思わないから、満腹になってるんだと思う。
「そっか。じゃあ、皆が食べ終わるまで、散策してきたら。ここのお店の中庭、綺麗だから。」
お母さんに言われて。
「じゃあ、そうする。」
私は、席を立って、お庭を散策する事にした。
庭には、小さな池に朱色の小さな橋が架かっていた。
その奥には、寒椿が咲き乱れていた。
うわ~。
綺麗。
でも、何でお母さんは、知ってたんだろう?
私は、ゆっくりと庭を歩く。
ふと、後ろから抱き締められる。
振り向くと、護だった。
「どうしたの?」
「うん。ちょっとな。それより、詩織。着物姿、綺麗だよ。」
さっきも言ってたよね。
「ありがとう。最初は、着るつもりなかったんだけどね。」
私が言うと護が驚いた顔をする。
「だって、私、護と会えるとは思ってなかったんだよ。お母さんが急に思い立ったように着せるから……。」
「そういや会った時、オレを見て戸惑ってたもんなあ。」
「うん。両親が、やたらと時間を気にしてたけど、まさか、護のところと待ち合わせしてたなんて思わないよ。」
私は、膨れっ面をする。
「オレもさ、ビックリしたんだよ。急に隆弥さんから電話もらって “初詣、お前の親父さんとうちの家族で行かないか?“ ってきた時には、本当にビックリした。しかも、詩織のバイトの休みの日で、親父の都合がつけば……。」
隆兄…。
「まさか、私と護へのサプライズだったのかな?」
「さぁな。でも、こうして堂々と会える事になったんだし、よしとしないか。」
護の笑顔が、私を安心させる。
「なぁ、詩織。この間の奴とは、どこまでの関係だったんだ?」
護が、小声で聞いてきた。
「何処までって?」
「だから、キスとかしたのかって事だよ」
真剣な顔付きで聞いてくる。
「気になる?」
思わせ振りで私が言うと。
「そりゃあ……。」
ボソッと言う。
「私のすべての初めては、護だよ。」
誤魔化さずに言えば。
「嘘だ。」
疑いの眼で見てくる。
「何で、嘘なんかつかないといけないの? 彼とは、精々手を繋ぐぐらい。お互い幼かったから。」
私は、護の顔を覗き込む。
視線が絡み合う。
そして、お互いの顔が近づく。
軽い口づけを交わす。
「私のすべての経験は、全部護が初めての人になってるから。」
私は、もう一度護の耳元で、囁く。
「うっ……。」
そう言って、護の顔が赤くなる。
「そういうこと言うな。」
顔を背ける護。
けど私の視界にははっきりと見えていた。
「ウフフ……。護の顔、真っ赤」
笑いながら言う。
「揶揄かうな。」
私の頭をくしゃくしゃにする。
「ちょっと。やめてよ。」
私は、その手から逃れようと逃げ出す。
その時。
「お~い。お前ら、何時までじゃれあってるんだ。帰るってさ」
優兄が、呼びにきた。
「は~い。」
私が、返事をする。
護が、私の手を取って、歩き出した。
別れ際。
「今日は、本当にありがとうございました。」
護のお義父さんが言う。
「いえいえ。こちらこそ、楽しかったです。」
お父さんが答えてる。
私は、護を見つめる。
「詩織。もう少しだけ待っててくれるか? 受験が終わるまでは、会えない。」
護の決意が、伝わってくる。
「うん、大丈夫。待ってるから、受験頑張って」
私は、笑顔で言う。
返事の代わりに私の頭をポンポンと軽く叩く。
護の最高の笑顔が、最後に見えた。
「じゃあな。」
「バイバイ。」
「護。受験、頑張れよ。」
隆兄と勝兄が、護にエールを送る。
「はい! 頑張ります」
護の力強い返事が、返ってきた。
兄弟仲だけじゃなく、親子仲も良いって、いいよね。
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