あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

31話 二人の関係

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「なんだ、詩織。仕事終わり?」
  優兄が聞いてきた。
「うん。休みなのに入ったから、上がって良いって……。」
  私は、空いている護の隣に座った。
「お客様、ご注文は?」
  里沙が、空かさず注文を取りに来た。
「コーヒーを。」
  私は淡々と注文する。
「わかりました。」
 そう言って、里沙が離れていく。
  普段、コーヒーなんか飲まないのに頼んじゃった。

  っていうか、この沈黙は何?
  その沈黙を破ったのが、護だった。

「で、優基。オレに頼みたい事って?」
  まだ、何も話してなかったのか……。
「詩織から、聞け。」
  優兄が、私の方を見る。
  あっ、優兄が投げ出した。
「詩織、何?」
  そっけない態度の護。
「ごめんね。勉強の邪魔して……。」
  私は、言葉を濁す事しか出来ない。
「いいよ。詩織の頼みじゃ、断れない。」
  護の淡々とした声に、胸が軋む。
「お待たせしました。コーヒーです。」
  里沙は、注文の品を置くと直ぐに行ってしまった。

「優兄。護にあの事話した?」
「話していない。護は詩織の口から聞きたいだろうし……。」
  そう言って、優兄は護の方を見る。
  優兄の言葉に私は、覚悟を決めて、話し出した。

「護。私ね、中学の時に一人だけ付き合ったことがあるの。それが、護の前に座ってる浅井君。昨日、偶然に会って、彼氏が居るかと聞かれて、居るって答えたんだけど、信じてもらえなくて、会わせて欲しいって、言われて……。」
  そこまで言って、護が。
「わかったから、もう言わなくて良い。言いづらいよな。」
  優しい笑顔を浮かべて、私の肩を抱く。
  二人の前なのに堂々としている。
「そこ! 二人の世界を作るな!」
  優兄が、苦笑する。
「どういう事?」
  浅井君は、不思議そうな顔をする。
「ここからは、オレから話すよ。」
  護が、真顔で言う。
「実は、オレ、今謹慎処分中。隆弥さんから、詩織に会うなって言われてる。」
  少し、寂しそうな声でそれでも隆兄の言葉を粛々と受け入れてる護に私は、頭が下がる思いだ。
「じゃあ、今、俺が水沢に手を出しても良いですよね?」
  浅井君も、真剣に聞いてくる。
「それは、無理だ。」
  優兄が、護に代わって言う。
「これは、隆兄から護に対する試練だ。こいつらが、ある条件をクリアしたら、婚約するんだよ。だから、その前に隆兄が護を鍛える為にワザト試練を与えてるんだ。」
  優兄が、付け足した。
「そん、なぁ……。って事は、俺がこの二人の間を割る事、出来ないんですか?」
  浅井君が、ガックリと肩を落とす。
「悪いな。オレ、こいつだけだから、他の奴じゃ、物足りないんだ。」
  護が、真顔で答えながら私の頭を撫でる。
  それが、心地よくて、微笑む自分がいる。
「ハァ~。」
  浅井君が、大きな溜め息をついた。
「水沢の事、諦めがつきました。」
  私は、浅井君を見る。
「俺さぁ。昨日、水沢に偶然会って、これも運命だと思ってたら、彼氏が居るって聞いて、嘘だろって、信じなかった。今、こうして目の当たりにして、納得するしかないだろ。」
  私と護は、顔を見合わせて微笑む。
「そんなキラキラ笑顔を見たら、諦めるしかないだろ。」
  浅井君が、苦笑してる。
「さてと。そろそろ帰るか? 隆兄に見つかる前に……。」
  そう言って、優兄が席を立った時だった。
「詩織! 何してるんだ!」
  言ってる側から隆兄に見つかってしまった。
「詩織。お前が、俺との約束を破るとはな。何、考えてるんだ。」
  店内に響く怒号。隆兄が、頭ごなしに怒ってくる。
「ごめんなさい、隆兄。言い分けはしません。私が悪いんです。」
  私は、隆兄に頭を下げる。
  護が悪く言われるのだけは、嫌だから。
「わかった。ほら、帰るぞ。護、頑張れよ。」
  隆兄は、伝票を掴むと私の腕を引っ張る。
  会計を済ませて、店を出る。
「隆兄……。本当にごめんなさい」
  私は、もう一度頭を下げた。
「いいよ。ちゃんと理由があったんだろうし。優基の横に居た奴絡みだろ。」
  隆兄が、私の頭をクシャクシャに撫でる。
  本当、観察力だけは、あるんだから。
「今日の事は、多目に見てやる。ちゃんと、約束は守れよ。俺も、そこまで鬼じゃない。」
  隆兄の顔が歪む。
「ありがとう、隆兄。約束は、守るよ」
  私は、真顔で言った。


  そうこうしてるうちに、年を越していたのだった。








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