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本編
12話 初デート
しおりを挟むデート当日。
初めてのデート。
今まで、一度もした事がなかったから、超緊張モード。
行くのは、遊園地だから、動きやすい服装の方がいいよね。
ショートパンツに、オフホワイトのブラウス。
黒のジャケット、ハイソックス。
ブレスレット(護るから貰ったもの)を身に付ける。
ピンクのリップグロスをつけて、ショルダーバックを肩にかけ、時計に目をやる。
やばいな。
時間、ギリギリだよ。
私は、慌てて自分の部屋を出た。
「デートか?」
優兄が、聞いてくる。
「うん。行ってきます。」
「気をつけてな」
私は、玄関を出ると駅まで走り出した。
駅に着く間際に一度止まり、息を整える。
そして、護の姿を探した。
あ、居た。
駅舎の出入り口の壁に背中を預けて、立っていた。
「護……。」
駆け寄ろうとして、留まった。
護を囲むようにして、女子達が群がっていたのだ。
どの子も、凄くお洒落な格好だ。
それに比べて、私の格好はシンプルスタイル。
私は、その光景を遠巻きで見ていた。
護は、楽しそうに喋っている。
その中には、見覚えのある先輩の顔が、チラホラあった。
護は、まだ私に気付いていない。
どうしようかな。
あんなに楽しそうに話してるのに、声掛けるのが忍びない。
私は、仕方がないから、護に見つからないように、駅舎のベンチに座った。
護に話しかけてる先輩達の声が、聞こえてきた。
「ねぇ、玉城くん。一緒にどっか行こうよ。」
と物凄い、甘い声で…。
「一緒に遊ぼうよ。」
あ~あ。もしかして、先輩達と行っちゃうのかな。
それにこのままだと何時まで経っても私に気付くはずないよね。
「悪いな。オレ、これでも待ち合わせしてるから……。」
護が、断りを入れてるけど。
「そんなこと言わないで、一緒に行こうよ。」
護の腕を掴んで、無理にでも連れて行こうとする、先輩達。
やっぱり私には、全然気付いてない様子。
そうだよね。
地味な格好の私じゃ、気付くはずないよね。
見つかるはずもなく、ただ時間だけが悪戯に過ぎて行く。
護……。
私、こんなに近くに居るよ。
早く、気付いてよ。
護に視線を送る。
それに気付いたのか、護が振り返った。
視線が会う。
「悪い。そこどいて。」
護が、彼女達を掻き分けて、私の方へ来る。
「詩織。何時の間にそんな所に……。」
「えーっと……。十分ぐらい前からかな。」
本当は、もっと前からだけど……。
私は、まともに護の顔が見えなかった。
だって、声が怒っていたから……。
「声掛けてくれればよかったのに……。」
優しい声音で言うから、顔をあげると。
「何時までたっても来ないから、何かあったんじゃないかって、心配してたんだぞ。」
私の額をつつく。
「だって、私の今日の格好、シンプルすぎるし、それに護が、楽しそうに話してたから、邪魔なのかなって……。」
寂しそうに言う私に対して。
「また、そんなところで遠慮しやがって……。ほら、行こうぜ。」
って、手を差し伸べしてくれる。
私は、その手を取ろうとしたら。
「待ってよ、玉城くん。私達と遊ぶんじゃなかったの!」
と、先輩達の声が飛んできた。
私は、慌てて手を引っ込めた。
「ちょっと待て。オレ、そんな事一言も言ってない。それに、今日は、彼女と前から約束してた事だから、諦めな。」
護が、はっきりと断ってくれる。
私は、嬉しかった。
その反面、苦しかった。
あんなにきらびやかな先輩達と真逆な格好の私。
どう見たって、太刀打ち出来ない。
私は、惨めな思いで、その場に居る。
本当は、逃げ出したくて仕方がない。
私は、いてもたっても居られなくって、その場から逃げようと、護の背後でベンチから立ち上がって、そーっと抜け出そうとしていた。
……が、護に手首を掴まれて、引き戻された。目の前は暗く何が起こったのかわからずにいた。
「逃げるな、オレは、お前と居たいんだから!」
頭上から聞こえてくる声に抱き締められてるんだと気付いた。しかも、先輩達の前で……。
「じゃあな」
って、先輩達に言い捨てると、私の手を引っ張って改札口へ向かった。
ホームで、電車を待つ間の沈黙をどうにかしたくて、私は。
「ごめんなさい」
と、俯いたまま一言やっと言えた。
「何のごめんなさい?」
「何のってそれは……。」
「待たせた事に対してのごめんなさい? それとも逃げようとしてのごめんなさい?」
「……」
何も言えずに居ると。
「詩織。オレ、前にも言ったよな。オレにとって、お前が一番大事だって伝えたはずだ! 何で、逃げ出す。堂々としてればいいんだよ。それに、今日の服だって、行く場所に合わせただけだろ。恥ずかしがらなくてもいいだろが。」
護が、言葉とは違い優しい声で言う。
「それに、昨日も言ったけど、オレはお前が弱点だ。お前に何かあったら、オレ、何も出来なくなる。」
弱々しい言葉尻に顔を上げれば、何とも言えない顔付きで私を見ていた。
「護……。」
「今度は、ちゃんと声掛けろよ。」
「…う、うん……。」
私は、取り合えず頷いた。
「この話は、これで終わりな。今日は、楽しもう。」
護が私の手を繋ぎ直した。
その時、私が着けていてブレスレットがシャラっと鳴った。
「着けてくれてるんだな」
それに気付いた護が、ポツリと呟いた。
「うん。私のお守りだから……。」
って、答えたら、破顔をした。
遊園地に着くと。
「さぁて。何から乗る?」
護が、パンフレットを広げながら言う。
「やっぱり、最初はジェットコースターからでしょ。」
私がはしゃぎながら言うと、護の顔が少し引きつっていた。
「どうしたの? もしかして、苦手?」
「違うよ。じゃあ、そうしようか……。」
私は、護の腕に自分の腕を絡める。
そして、ジェットコースターの列に並んだ。
順番が来て、ジェットコースターに乗り込む。
護の顔が、さらに強張ってる事に気付き。
「大丈夫?」
護の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ。」
って、笑顔を見せてくれてるけど、その笑顔は引きつってる。
そうこうしてるうちに、ジェットコースターが動き出した。
「…っ…」
ジェットコースターを乗り終えて、近くのベンチに座る。
辛そうな護。
「本当に大丈夫?」
「う…ん。カッコ悪い所見せたなぁ……。」
護が、申し訳なさそうに言う。
「いいよ。誰だって、苦手なものあるから、気にしなくていいよ。それにカッコ悪いなんて、思ってないし」
私が言うと、やっと本当の笑顔が見えた。
「次、何に乗る?」
「じゃあ、バイキング!!」
って、私、張り切って言っちゃった。
でもね。
本当は、護と居れれば、乗り物に乗らなくてもいいんだけどね。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「最後にあれ乗ろう?」
護が、観覧車を指す。
「うん。」
私も頷く。
観覧車の列に並ぶ。
日が、傾いてきてる。
辺りには、夜の帳が漂い始める。
ちょっと、寒いかも。
昼間と違って、涼しくなってきた。
「詩織、大丈夫か?」
護が、後ろから抱き締めてくれる。
その温もりが、背中から伝わってくる。
その優しさが、嬉しい。
「順番だな。」
護が、そっと離れて私の肩を抱きながら、一緒に乗り込んだ。
観覧車が、ゆっくりと頂上へと向かっていく。
窓越しに、街の明かりが見えて綺麗。
「どうした?」
「……ん。綺麗だなって思って。」
私は、窓の外を指す。
「ホントだな。」
護も窓の方を見る。
「詩織。オレ、頑張ってお前を守るから、ずっと一緒に居てくれるか?」
急に真面目な顔になる、護。
「うん」
私は、思わず頷いた。
少し照れながら……。
護の満面な笑み。
私は、その笑顔につられて、笑顔になる。
「お前、可愛すぎ」
そう言って、抱き締められる。
私は、ドキドキが止まらずにいる。
護と居ることで、安心と不安が入り混ざる。
「大好き。」
私は、その一言を口にして、護の頬にキスをする。
護の顔が、みるみる赤くなる。
「不意打ちは、ダメだろ。」
護が私を睨み付ける。
私は、そんな護が可愛く思えた。
観覧車が地上に着き、私達は、手を繋いで降りた。
「そろそろ、帰るか……。」
「そうだね。」
私達は、家路に着いた。
「ねぇ、護?」
「うん?」
「これから、受験一色だよね?」
「ああ、そうだな。頑張らないとな」
そっか……。
やっぱり、これからの初めてのイベントは、全部ダメって事だよね。
私が落ち込んでると。
「どうした? 急に。」
「ううん。何でもない」
首を横に振って答える。
護の勉強の邪魔だけは、したくない。
将来がかかってるんだから……。
私が、我儘言ったらいけないよね。
「何? 急に黙って……。」
「今日は、楽しかったなって……。」
私は、ごまかすように言う。
「本当だな。詩織の笑顔が沢山見えた。」
そう言って、護の笑顔が垣間見える。
「また、デートしような。」
護が誘ってくれる。
エッ……。
驚いて彼を見れば。
「今度は、何処がいい?」
護が聞いてきた。
だから。
「デートしてもいいの?」
聞き返す。
「したくないの?」
意地悪そうな顔をして護が聞いてきた。
私は、思いっきり首を横に振る。
「でも、勉強は?」
「もちろんするさ。でも、息抜きも必要だろが……。」
護が、私の頭を撫でる。
それを聞いて、私は嬉しくなった。
「じゃあ、クリスマスイブに水族館は?」
私が、何気に口にした言葉に。
「いいねぇ。じゃあ、水族館に決定だ!」
護が、優しい瞳で見つめてくる。
思わぬ出来事に、私も笑顔になる。
大好きな人とクリスマスを一緒に居られるのは、もっとも嬉しい事だよね。
でも、その幸せも、思わぬ方向へ向いていたのだった。
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