6 / 31
一難去って
しおりを挟む昼放課。
幸子とお弁当を食べ終わると屋上へ。
ハァ、憂鬱。
応じてしまった自分が悪いんだけどね。
「一緒に行こうか?」
幸子が心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だよ。折角の昼休みを私の為に潰さなくていいよ。」
そう言って断った。
廊下に出ると私の噂で持ちきりだった。
うん、予想してた以上だ。
周りからの視線が痛い。
何にもしてないのにな~。
自信、無くしそうだ。
そうこうしてるうちに屋上に到着。
ドアを開ける前に大きく深呼吸する。
ドアノブに手をかけて開けると既に何人かの女子(先輩も含めて)が、集まっていた。
一体、何人集まってるんだ?
私ごときにそんなに興味有るのか?
ただの噂だけで、これじゃあね。
私は、ドアを閉めて彼女達見渡して改めて前に立った。
「単刀直入で聞きます。蓮くんと付き合ってるんですか?」
目前にいる子が聞いてきた。
「付き合うってなんですか?」
逆に聞き返すと信じられないと言う顔をして互いに顔を見合わせてざわつき出した。
付き合う意味をよく知らない私にその質問はないよ。
「彼……大谷さんには、二日前に助けてもらっただけで、そんな感情一つも持ってないんですけど……。第一、何で彼と私が付き合ってる前提になってるんですか? おかしくないですか?」
私の口から自然と言葉が出てくる。
その言葉に、信じられないって顔を幾人かがしていた。
「大谷さんって名前を知ったのは、つい昨日ですよ。それなのにどんな感情があるんですか? 一目惚れ何てしてませんから。」
彼女達が言いそうなことを先に口にし釘を指した。
「じゃ……じゃあ、昨日の帰りと今日の朝の彼は?」
何?
それにも答えないといけないの?
「双子の兄ですが。兄とは出来が違うので別々の学校ですがね。」
慶太は、親の病院を継ぐために頑張ってるんだよね。
彼女達は、まだ納得してなさそうな顔をしている。
私みたいな冴えない女にイケメンの男が隣に居るのが、気にくわないのか?
好きで居るわけでもないのだが……。
「そんなに疑うなら、今度写真でも何でも撮って比べたらいいじゃないですか。今日の帰りにも来ますしね。」
私の提案に納得したのか。
「わかったわよ。」
何て声が上がる。
「私は、これで失礼します。」
私は一礼してその場から逃げた。
教室に戻ろうと階段を降りて俯き加減で廊下を歩いていると、突然行く手を阻まれた。
何事?
顔を上げるとそこには大谷さんが立ち塞がっていた。
「どうかしたの? 凄い恐い顔してる。」
私の顔を覗き込んできた。
流石にあなたのせいとは言え無い。
「そうですか? 何でもありません。失礼します。」
私は彼の横を通り抜けようとした。
…が、彼に腕を捕まれ壁に背中をつけられた。
えっと……。
私が戸惑ってると彼の両手が顔の両サイドの壁についていた。
自然と向き合う形になる。
これは、彼女達に見られると不味い展開ではなかろうか。
速くこの場から立ち去らなければ……。
「これは、一体何の冗談でしょうか?」
私は、彼の目を見て問いただす。
ドキドキなんてしない。
ただ、迷惑だとは思うが。
「今日の放課後。旧校舎の裏に来て欲しい。」
耳元でそう囁く。
顔、近いって……。
私は彼を睨み付ける。
「ごめんなさい。今日は無理です。」
私は、頭を下げた。
慶太が迎えに来てくれるのに遅れるわけにはいかない。
「じゃあ、いつならいいの?」
彼はめげずに聞いてくる。
「当分、無理です。」
さっき、あんな事があったばかりだから、彼の傍に居たくなかった。
「ねぇ、夏実ちゃん。俺の事避けてるでしょ?」
彼が、私の名前を知ってる?
それに凄い洞察力。
よくわかりましたねと言ってやりたいくらいだ。
……が、素直に言えるはずなく沈黙した。
その時。
キーンコーンカーンコーン…。
予鈴が鳴った。
「本当にごめんなさい」
私はそう言うと、彼の腕から逃げ出した。
授業が終わり、教科書を鞄に詰め込む。
教室の教壇の近い入り口に彼の姿が見えた。
クラスの女子がざわつく。
私は、彼に見つからないように鞄を掴んで、彼が居ないドアからそっと抜け出した。
ハァ~。
何か今日一日疲れた。
私は、正門までゆっくりと歩く。
正門には、昨日と同じように慶太が待っててくれた。
「慶太、ごめん。遅くなっちゃった。」
私が謝ると。
「いいよ。それより、この人垣どうにかなら無いか?」
慶太が面倒臭そうに言う。
「仕方ないよ。慶太、カッコいいし、それにその制服だしね。」
苦笑を浮かべて言う私に。
「夏実が誉めるなんて、珍しいなぁ。何かあったか?」
慶太が、心配そうに私を見てくる。
「う、うん。実は、皆が慶太と私の関係を “恋人” だと思ってるみたいなんだよね。」
困ってるように私が言えば。
「ハァ? こんなに似てるのに何処をどうしたら、そういう風になるんだ?」
慶太が面白そうに言う。
「じゃあ、今ここで言っておくか……。」
って慶太が呟き、皆の方に向き直る。
ちょっと一体、何を言うつもり。
「結城慶太と言います。夏実とは双子の兄です。以後お見知りおきを。」
って、華麗なお辞儀を披露し堂々と名乗る。
「ちょ、ちょっと慶太。恥ずかしいから……。」
私は、慌てて慶太の裾を引っ張る。
「何。夏実は、本当に恥ずかしがりやなんだから……。」
慶太が、私の頭をポンポンと叩く。
「ほら、親父が心配してる。」
慶太は、さっさと自転車に跨がると私に荷台に座るように促す。
「はーい。」
私が、自転車の荷台に座ると慶太がペダルを漕ぎ出す。
「今日、検診日だったろ。治ってるといいな。」
慶太が、優しい声で言う。
本当に優しいお兄ちゃん。
私が困ってるときは、何時も助けてくれる。
「うん。……ありがとう」
私は、慶太の背中越しにお礼を言う。
「お互い様だろ。」
「そうだけど、私じゃあ、慶太を自転車で送るなんて無理だよ。」
私が言うと。
「そんなの望んでないよ。俺は、好きでやってるんだし……。」
慶太が苦笑する。
どういう意味なんだろう?
「どうした、夏実。黙り込んで……。」
「なんでも無いよ、お兄ちゃん。」
私は小声でそう言った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる