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高校生編と再婚約の条件
避けていた理由…亜耶
しおりを挟む澄みきった青空の中、陸上競技会が開かれた。
私の出番は後の方だし、どう時間を潰そうかなぁ。
何て考えてたら。
「亜耶ちゃん、発見! 応援に来たよ。」
って、明るい声が届く。
声のした方を振り返ると、由華さんとお兄ちゃんがそこに居た。
「お義姉ちゃん。ありがとう。お兄ちゃんも。」
笑顔で二人を迎えるが。
「おいおい、俺はついでかよ。」
お兄ちゃんの顔が歪む。
「雅くんのシスコンも大概だよね。」
由華さんが苦笑する。
「そんなこと無いって。あいつよりは……な。」
真顔で受け答えするお兄ちゃん。
「確かに、先輩に比べたらね、ましですけど……。」
由華さんのニタニタ笑い。
恐いです。
「俺がどうしたって?」
私の背後から当人の声がする。
振り返ると、遥さんが間近で立っていた。
何時もと違うカジュアルスタイルの遥さん。最近は、スーツ姿しか見てないから、新鮮に思う。
「雅くんのシスコンも凄いねって言ったら、先輩の方が亜耶ちゃんにぞっこんだって、言ってたんです。」
由華さんの言葉にお兄ちゃんが頷き。
「遥の亜耶に対する気持ちは、強すぎるからな。」
って、言葉を戸惑いなく言う。
ヤバイ、顔が熱くなってくる。
二人が揶揄ってるのが良くわかる。
「そりゃあ、俺にとって亜耶は癒しの存在だからな。」
って、真顔で受け答え、私頭を撫でてくる。
うっ……。
遥さん、それ反則です。今の私にとっては、ドキドキものです。
「亜耶。お前の出番、まだなんだろ? 遥と少し話したらどうだ?」
お兄ちゃんが、意味深な笑顔で私を見る。
何かあるのかな?
「えっ……う、うん」
私が頷くのを見てから。
「由華、行くぞ。」
お兄ちゃんは、由華さんの手をとって行ってしまった。
その背中を見送った後に。
「亜耶。向こうで、少し話そうか?」
遥さんの優しい声音に頷いて、着いて行った。
人気の少ないスタンド席。
「ここならいいか……。」
遥さんがそう呟き座った。
「亜耶もここに座りな。」
隣の席をポンポンと叩いて促す。
私は、それに従って座る。
「で、俺を避けてた理由を教えてくれるんだろ?」
遥さんのストレートな聞き方に一瞬戸惑ったけど、でも言わないといけないと思った。
私は頷き。
「あのね。受験の前だったかなぁ。お兄ちゃんと昼食を食べに行った帰りにね。遥さんを見かけたの。その時、遥さんの隣に綺麗な女の人が居たんだよね。それで、わかったんだ。私じゃ、遥さんの隣に立っても釣り合わないって……。だから……遥さんへの想いを封印して、関わらないようにしてた。そしたら、胸の痛みも消えるんだって……思ってた。」
俯いて喋ってたから、最後の方の言葉は小さくなって聞こえてないかも……。
今も思い出すと胸がズキズキして、悲しくなるくらいだ。
暫くの沈黙。
でも、耐えきれなくなって、顔を上げて遥さんを見ると驚いた様な戸惑ってる様な顔をしてる。
どうして、そんな顔をするの?
「亜耶、ちょっと確認してもいいか?」
遥さんの言葉に縦に首を振る。
「亜耶は、俺の事を気になってるって事か?」
私はその言葉に素直に頷いた。
すると、遥さんが大きな溜め息を吐いた。
何で、溜め息なんか吐くの?
私の想いは、迷惑なの?
「その人と遥さんが結婚するって聞いたから、自分は諦めないといけないって思ったの。だから、近付かないようにしてた。」
私は、遥さんの目を見て言った。
本当に苦しかった。
私じゃない、他の人と結婚してしまうんだと思ったら、辛くなって泣いていた。
「うん。大体は、わかった。その人とはその日にお見合いした。姉の顔をたてる為にな。だが、姉にも兄たちにも婚約者が居る事を告げてから、その見合いをして断ったんだ。“俺には、婚約者が居るから、お断りします”って。でも、その人は諦めてくれなくて、家の再建で融資の話が上がっててな、その人を断ると融資も受けられないとか言われて……。だけど、俺の後ろ楯って鞠山家が居るから、必要ないって断ったのにも関わらず、しつこく迫ってきたんだよ。……で、この三ヶ月間家の建て直しやらで休日無しで働いて、軌道にのったところでお見合いの話がなくなった。で、俺自身が鞠山財閥に引き抜かれた。正直、ビックリしてるんだ。まさか、会長自ら俺を引き抜きたいと言ってくれるとは、思わなかったしな。」
遥さんが、近況報告してくれた。
そっか、遥さんも大変だったんだ。
でも、お爺様自らの引き抜き?
ってことは、由華さんが言ってた通りなのかなぁ?
「何、変な顔してるの? 俺の婚約者は、元から亜耶だろ?」
遥さんが、私の手を握ってくる。
えっ……。
「でも、私……。」
どうしよう……。
悠磨くんに悪いことしてる。
最初は、悠磨くんの事好きだった。だから付き合うことにした。
でも、基は遥さんの事を忘れるためだった。
付き合い初めて、気が付けば悠磨くんと遥さんを比べている自分が居て、戸惑っていたのも事実だ。
「亜耶の気持ちわかるから……。アイツにもちゃんと言わないといけないのも……。でも、それは亜耶の気持ちに整理がついてからでもいいから、俺は待ってる。」
遥さんの優しい声。
目を見ると意志の強さの中に不安が紛れ込んでいる。
「遥さん……。」
私は、どう言葉を告げるべきか解らなくて何も言えなくなった。
「何年も待ってるんだから、それぐらいは待てるよ。」
って、寂しそうに笑う。
あぁ、そうだこの人はそういう人だ。
私の為なら、いくらでも我慢できる人。そして甘やかすんだ。
だから、私は安心してしまう。ここが私の居るべき場所なんだって……。
「遥さん。ありがとう。」
私の口から、自然とその言葉が出てきた。
「ん?」
遥さんの手が、私の頭を優しく撫でる。
「亜耶。改めて言わせて。高校入学おめでとう。それから、この腕時計ありがとうな。アイツとの話がついたら、今まで会えずに渡せなかったプレゼント渡すな。」
遥さんが愛しそうに私を見る。その目に映ってる私は、泣きそうになってる。
泣きたい訳じゃない。でも、その想いが嬉しくて、そうなってしまう。
「亜耶。そんな泣きそうな顔するなよ。」
困った顔をする遥さん。
「亜耶の泣き顔、誰にも見せたくないのに……。」
呟くように言って、私の頭を胸に抱き込む。
「誰にも見せたこと無いよ。家族以外で見せているのは、遥さんだけだから……。」
私は、遥さんの背中に腕を回し呟いた。
顔を上げると遥さんの驚いた顔と笑顔が見えた。
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