好きだから傍に居たい

麻沙綺

文字の大きさ
上 下
29 / 180

厄介事①…雅斗

しおりを挟む


「雅斗、おはよう。」
 突然、俺の所に来た親父。
「おはようございます。で、朝からどうしたんですか?」
 親父が、浮かない顔をしてるから、何かあったのかと心配になって聞いてみた。
「さっき、遥くんから電話があってな、亜耶と遥くんのご家族との顔合わせして無かったのと、学校に婚姻の報告するの忘れてたんだよ。」
 親父の言葉に、俺も誰にも言わなかった事を思い出した。
「俺から、遥の実家に連絡しましょうか?」
 俺が聞けば。
「遥くんのお姉さんから、電話が来ると思うからその時は、頼む。僕は、今日一日外回りだから。」
 と親父が言う。
 そういや、ここに居るの珍しいもんな。
「わかりました。時間とか決まりましたら、メール入れておきます。」
「ああ、頼むな。」
 親父は、それだけ言うと部屋を出て行った。

 あの姉さんと話すのか……。
 まぁ、仕方ないか……。
 こっちの落ち度だしな。
『副社長、一番に高橋カンパニー様からお電話が入ってます。』
 と、内線が入る。
 俺は直ぐに受話器を取り対応する。
「お待たせしました、鞠山雅斗です。」
『久し振りね、雅斗くん。で、早速本題に入るけど、遥が雅斗くんの妹の亜耶ちゃんと婚姻したって、本当?』
 本当、この人直球しか投げてこないなぁ。
「本当です。こちらの都合で、婚約発表も無しで、亜耶の誕生日に婚姻届けを出してしまったこと、お詫びします。すみませんでした。」
 俺は、つい頭を下げてしまった。
『そう、本当なのね。前から遥には聞いてたのだけどね。で、顔合わせはどうする?』
 直球だけど、直ぐに受け入れてくれるこの人が、俺は好きですがね。
「うちの父は、今日しか空いてないんですが、そちらの都合は?」
 俺の言葉に。
『うちは、両親と私だけ出席するわ。弟たちもとなると、騒がしいだけになってしまうからね。それと、この間の事のお詫びも兼ねて、うちの三ツ星ホテルで十九時でどう?』
 多香子さんが、提案してくれた。
 お詫びって、あの件(何処ぞの令嬢が、突撃してきた)だよな。
「わかりました。それでは、後程。」
 俺は、それだけ言って電話をきって、親父と遥、由華にメールした。



 待ち合わせの場所のホテルのロビーに俺は来ていた。
 十九時十分前には、両親と由華が到着した。
 が、当事者達が、まだ来ない。
 時間厳守のアイツが、遅れるなんてあり得ないんだが……。
「雅斗くん。」
 背後から声をかけられて、振り返れば、多香子さんとご両親が居た。
「お久し振りです。おじさん、おばさん。」
 俺は、そう声をかけた。
「久し振りだな。元気そうで何よりだ。」
 ニコヤカな笑顔で挨拶された。
「ご無沙汰してます、孝幸さん。」
 おばさんが、言う。
「本当に。今回は、こちらの不手際で申し訳ないと思ってます。」
 母さんが、頭を下げた。
「いえいえ、前々から遥からは聞いてたので、その点は大丈夫です。大切な娘さんを遥がもらったと聞いた時は、ビックリしましたけどね。亜耶ちゃんが、遥で良いかだけですから。」
 おじさんが、真顔で言う。
 両親が、互いに挨拶してる時に俺の携帯が鳴った。
「ちょっと、失礼します。」
 俺は、一言断って、その場から離れた。


「もしもし。」
 俺が出れば。
『お兄ちゃん? ごめん。学校を出る時にトラブって、少し遅れそう。』
 亜耶が、申し訳なさそうな声で言ってきた。
 学校を……って、あぁ、今日からだったか……。
 って事は、遥が生徒に絡まれたのか……。
「そうか。まぁ、遅れるのは仕方ないが、安全運転で来いよって、遥に伝えてくれ。」
『……うん、わかった。そう伝えておく。じゃあ、また後で。』
 それだけ言って、電話が切れた。
 俺は、元の場所に戻って。
「亜耶たち、遅れるって。」
 そう両親達に伝えれば。
「そうか。先に場所を移動してますか。」
 そう言って、エレベーターホールに向かうなか、由華と多香子さんが楽しそうに話してる。
 まぁ、この二人は直ぐ仲良くなると思ってた。
「雅斗。遅れる理由は聞いたか?」
 親父が小声で聞いてきた。
「なんか、トラブルがあって出るのが遅くなったって言ってた。」
 亜耶が伝えてきた言葉をそのまま伝えた。
「なるほどな。彼なら仕方ない事なのかもな。」
 親父が納得気に頷いていた。


 展望レストランの窓側の個室を貸切りにしていた。
 夜景が綺麗な場所だ。
 流石、多香子さんだ。
「料理は、二人が来てからで、先に飲みましょう。」
 おばさんがそう言うとそれぞれに飲み物が注がれる。
 俺は、車出来ているから断った。

 うちの親と遥の親は、昔から仲が良いんだよな。
 高校、大学での先輩・後輩だとか言ってたっけ……。
 その事は、亜耶は知らないんだよな。
 うちの親は、ずっと隠したがってたし……。
 それに、遥がこの事知らないみたいだし、な。
「そろそろ着くと思うので、迎えに行ってきます。」
 俺は、それだけ告げて席を立った。


 エレベーターに乗り込み一階に着くと何だか、変な空気が漂ってきた。
 そんな中に俺は、入って行く。
「遥、亜耶。遅いぞ。」
 と声をかける。
 二人の後ろに見知らぬ男が立ってはいたが、無視に限るな。
「雅斗……。」
 遥の顔が、来てくれて助かったって顔をしてる。
 あぁ、また何か言われたんだろう。
 しかも、亜耶まで巻き込んでか……。
 さっきから後ろの男が、亜耶の事を訝しげに見てるし、俺が現れた途端、驚愕している。
 こいつ、俺と遥が繋がってるって事知らなかったんだろうな。それに亜耶の事もな。
 まぁ、社交界デビューを未だしてない亜耶が、何処の令嬢かわかってないって事だよな。
「悪いな。学校を出ようとしたら、生徒に捕まってな。」
 遥が、遅れた理由を言い出す。
 まぁ、予想出来た事だし、それはいいんだ。
「そうか。今日からだったか。教師の仕事。まぁ、仕方ないか。亜耶との事で何かあったんだろう。気にするな。」
 亜耶の事も関係してるだろうな。
 しかし、後ろの男、さっきから落ち着かないのか、そわそわし過ぎじゃないのか?
 遥に対してか?
 イヤ、亜耶に対して何か言ったんだろうな。
 仕方がない、俺から仕掛けるか。
「……で、さっきから顔を青くしている後ろの方は?」
 俺は、目線だけを向ける。
 これ、他の人には怖いって言われてるんだよなぁ。
 まぁ、真顔で、射ぬく様に見れば仕方ないか……。
「あぁ、うちの系列で働いてる、多田専務。」
 遥が、面倒臭そうに言い出す。
 そうたいした相手ではないって事か……。
「そう。お初にお目にかかります、鞠山雅斗と申します。以後お見知りおきを。」
 俺は、そう言って軽く頭を下げた。
 俺は、業と会社名を伏せた。
 何故かって、それは今はプライベートの時間だし、会社の事で此所に居るわけではないから……。
「ここの系列の専務をしてます、多田泰彦と申します。こちらこそ宜しくお願いします。」
 似非笑いを浮かべて、挨拶されてもな。
 俺は、もう関わりたくない人だ。
 俺は、そいつの存在を消して亜耶に。
「亜耶。今日一日、大変だったんじゃないか?」
 と話しを振った。
 案の定奴が食らい付いた(細い目を見開いて)。
「うん。遥さん、凄くモテるんだもん。それに、お兄ちゃんが言ってたブラックな遥さん、始めて見たよ。」
 亜耶が、普通に俺に言葉を返してきた。とても楽しそうだ。
 ほう、ブラック遥が降臨したか。
 亜耶の前では、絶対見せない姿を見せたとは、これは揶揄う要素が増えたな。
 楽しくなりそうだ。
「おにい…ちゃん」
 ポツリと声が聞こえる。
 亜耶とは違う野太い声。
 そっちに目をやれば、さっきの不愉快な男が呟いた声だった。
 何だ、まだ居たのか。
 仕方ねえなぁ。
「えぇ。亜耶は、私の実妹ですが、どうかしましたか。」
 俺は、睨み付けながらそう言葉を放つ。
 その言葉に顔面蒼白になっていく。
「いいえ、別に……。」
 何か、やましい事でも言ったのか?
 俺は、ふと考えた。
 遥が、亜耶を妻として紹介したのなら、降りた時の空気に納得がいく。
 って事は、俺が言えば丸く納まるのか。
 なら、俺が取る行動は一つだな。
「あぁ。亜耶が、遥の妻ってことに納得がいってないんですね。亜耶は、高校生ですからね。年齢で釣り合いが取れてないって思ったんですね。ですが、当人同士も好きあっていますし、何より鞠山財閥の元会長が認めたとなれば、話は別でしょう。それに、この二人は約九年間、婚約者フィアンセでしたからね。頃合いだと思いますが。」
 俺の口から、するすると言葉が出てくる。
 これだけ言えば、遥の事諦めるだろう。
「それより、二人とも、皆が待ってるから行くぞ。」
 俺は、踵を返して、エレベーターのボタンを押す。
 辛うじて止まっていたそれに乗り込んだ。
「多田さんは、乗らないのですか?」
 遥が、冷静に奴に言葉を投げ掛けた。
「いえ、私は他に用を思い出しましたので、これで失礼します。」
 多田さんが、慌てて逃げていった。
 何だ?
 まぁいいか。


 俺が、気にもせずにボタンを押して扉を閉めた。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜

みおな
恋愛
 子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。  この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

ボロボロに傷ついた令嬢は初恋の彼の心に刻まれた

ミカン♬
恋愛
10歳の時に初恋のセルリアン王子を暗殺者から庇って傷ついたアリシアは、王家が責任を持ってセルリアンの婚約者とする約束であったが、幼馴染を溺愛するセルリアンは承知しなかった。 やがて婚約の話は消えてアリシアに残ったのは傷物令嬢という不名誉な二つ名だけだった。 ボロボロに傷ついていくアリシアを同情しつつ何も出来ないセルリアンは冷酷王子とよばれ、幼馴染のナターシャと婚約を果たすが互いに憂いを隠せないのであった。 一方、王家の陰謀に気づいたアリシアは密かに復讐を決心したのだった。 2024.01.05 あけおめです!後日談を追加しました。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。 フワっと設定です。他サイトにも投稿中です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。

山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。 その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。 2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

永江寧々
恋愛
二年前に婚約したばかりの幼馴染から突然、婚約破棄を受けたイベリス。 愛しすぎたが故の婚約破棄。なんとか笑顔でありがとうと告げ、別れを終えた二日後、イベリスは求婚される。相手は自国の貴族でも隣国の王子でもなく、隣の大陸に存在する大帝国テロスを統べる若き皇帝ファーディナンド・キルヒシュ。 婚約破棄の現場を見ており、幼馴染に見せた笑顔に一目惚れしたと突然家を訪ねてきた皇帝の求婚に戸惑いながらもイベリスは彼と結婚することにした。耳が聞こえない障害を理解した上での求婚だったからイベリスも両親も安心していた。 伯爵令嬢である自分が帝国に嫁ぐというのは不安もあったが、彼との明るい未来を想像していた。しかし、結婚してから事態は更に一変する。城の至る所に飾られたイベリスそっくりの女性の肖像画や写真に不気味さを感じ、服や装飾品など全て前皇妃の物を着用させられる。 自分という人間がまるで他人になるよう矯正されている感覚を覚える日々。優しさと甘さを注いでくれるはずだったファーディナンドへの不信感を抱えていたある日、イベリスは知ることになる。ファーディナンドが亡き妻の魂を降ろそうとしていること。瓜二つの自分がその器として求婚されたことを。 知られていないと思っている皇帝と、彼の計画を知りながらも妻でいることを決めた少女の行く末は──…… ※中盤辺りまで胸糞展開ございますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...