愛を注いで

木陰みもり

文字の大きさ
上 下
54 / 75
11、買い物デート①〜side 尊〜

しおりを挟む

「ねぇ拓真さん、このお菓子も買いたい」
「さっきからお菓子しかカゴに入れてなくない?」
「僕お菓子好きなんですよね」
「にしても食べ過ぎだろ。身体に良くないって」
「拓真さんも一緒に食べてくれたら半分で済むんだけどなー」
「はぁ…このやりとり何回め…」
そう、僕たちはさっきから、僕がお菓子を持ってきては拓真さんが止めるを繰り返していた。カレーの食材は無難なものを買い早々に帰ってもよかったのだが、それだとなんだか味気ないと思った僕は、お菓子コーナーで好みのお菓子を物色してはカゴに入れていた。
 その度にちょっと困ったように怒る拓真さんが可愛くて、いつの間にかカゴいっぱいにお菓子を入れていたのだ。流石に途中から止めるのを諦めたのか、呆れた表情で僕を見ていた。ちょっとやりすぎちゃったかなと思いながらも、このお菓子を消費するために、また僕の家に来ると言ってくれるんじゃないかと、少し期待をしている。
「お菓子は日持ちするから大丈夫です」
「まぁそうだけど…って何言っても買うんだろ」
「えへへ、これだけは譲れなくて」
昔はお菓子なんてなかなか食べられなかったしね。じいちゃんも買ってくれたことなかったし。その反動か、今は当時の心を埋めるように色んなお菓子を食べている。でもまだ満たされないんだよね。
「クッキーは俺作れるからこれは棚に戻してこいよ」
「クッキー作ってくれるんですか?」
「昔よく弟に作ってたから。まぁそのお菓子より美味しいわけじゃないけどな。嫌なら別にいいんだけど…」
「いえ、嬉しいです。じゃあクッキーは戻してきます」
まさか僕のためにクッキーを作るなんて言ってくれるとは思いもよらなかった。僕は嬉しくてスキップでクッキーを棚に戻しに行った。

 棚にクッキーを戻して拓真さんのもとへ帰ると「食材は一通り揃った」とまた手を繋いでくれた。拓真さんはきっとまた僕がお菓子を物色しに行かないように繋いでくれているんだろうけど、それでも僕は彼と手を繋げて嬉しかった。
「あっ…」
「なんだ、もうお菓子はダメだからな」
「違いますよ、帰りにコンビニ寄ってもいいですか?」
「あぁ、俺も買いたいものあったから」
「じゃあコンビニも寄りましょう。コンビニ限定の新発売のアイスが美味しくて、拓真さんにも食べて欲しいです」
「それは楽しみだな」
お菓子を持って行った時気づいたが、僕の好きなものを1つ知るたびに拓真さんは楽しそう笑う。それがまた可愛くて、ついつい色々持っていったら呆れられたわけだけど。それでも、僕のことを知ってくれることが単純に嬉しかった。だから次は拓真さんのことが知りたくなった。色々なお菓子を食べたら好みが出るかもしれない。そんな思いもあっていっぱいカゴに入れた。
「あ、ここは払います。お菓子いっぱいあるし」
「じゃあ割り勘な、2人で食べるんだし。だから1人で食べるなよ」
「そんな食い意地張ってません」
「じゃあ食べたらデコピンな」
そう言って拓真さんはニッと笑って顔の近くでポーズをとった。なんだかんだ拓真さんも2人で食べる気でいてくれたことが嬉しかった。
「それって僕だけ損じゃないですか?」
「じゃあちゃんと食べなかったら、願い事をなんでも叶えてやるよ」
「本当ですか!ちゃんと食べないよう気を付けます」
「なんでも」なんて言うものじゃないよ、拓真さん。僕が悪い人だったらどうするの。なんて絶対に教えないけどね。
 僕は「なんでも」叶えてもらうためにお菓子禁止を頑張ろうと、心の中で意気込んだ。
「はい、尊くんはこっち持って」
「え、拓真さんが持ってる方が重くないですか?」
「いいんだよ、それよりもほら」
片手で重い荷物を持ちながら、もう片方の手を僕に向けて伸ばしてきた。その手を僕は当たり前のように掴んだ。
 少し寒い店内で身体はだいぶ冷えていたけど、拓真さんの手はとても熱かった。少し赤む顔を隠すように僕を引っ張って歩く姿は、とても愛おしく思えた。隣に並び立つと嬉しそうに笑う拓真さんの顔があった。その顔を見ていたら、僕まで笑顔になってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...