愛を注いで

木陰みもり

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3、愛を教えてくれた君へ side拓真

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「う~今日も熱いな。」
手で庇を作り、梅雨明けとともに本格的な夏が来たことに辟易しながら呟いた。ジメジメした空気はもうどこにもなく、燦々と降り注ぐ太陽の光が容赦なく降り注ぐ。今年の夏は例年に比べ輪をかけて暑く、そのせいか顧客の沸点も低くネチネチと詰め寄ってきた。
「会社に帰って、報告書まとめて…あっ、会議用に資料のチェックしないとだったな。早く戻らないと!」
本当ならば、想い人である一條いちじょうみことの喫茶店によりたい気持ちをグッと堪え、足早に歩き会社に向かう。
ちょっとくらいいいだろうという気持ちを何度押し込めたかわからない。
 あの日、彼と想いを通じ合わせた次の日、自分の企画が通り、プロジェクトリーダーになった。初めてのリーダーということもあり、要領の悪い俺は終電まで働いている。
「これじゃあの時の約束が嘘になっちゃうな…」
また行くと約束したのに、この状況は確実に口だけの男だと思われているに違いない。それについ先日「NEW OPEN」の看板が出ていた。せっかくならお祝いをしてあげたかった。
「しかもどうしてあの時連絡先を交換しなかったんだー!」
自分のマヌケさに段々腹が立ち、叫びながら会社へと向かった。

「お疲れ様です、二階堂さん。帰って早速で申し訳ないんですけど、この資料確認してもらってもいいですか?」
「おっ!もうできたのか、ありがとう。すまんがデスクに置いといてくれ。」
「あ、あと…その……」
「どうした?言いづらいことならメールで相談でもいいぞ?」
「いえ、忙しいのにシークレット•モーションへの営業変わってもらってありがとうございました。俺じゃ全然相手にしてくれなくて…」
帰社早々に、後輩が申し訳なさそうに話しかけてきた。元々シークレット•モーションへの営業は後輩に引き継ぐ予定だったが、今の担当者が長年対応してきた俺から変わることを酷く嫌がったらしい。
「なんだそんなことか。いいんだよ、あそことは新卒からの付き合いだから。俺指名じゃしょうがないさ。」
後輩を安心させるように頭をポンポンと撫でる。こればかりはしょうがない。今の契約は、俺が無理を言って取る付けたようなものだ。それを急にこちらの都合で担当者を変えるなんて、向こう側からしたらたまったもんじゃないだろう。
「ありがとうございます。でも申し訳ないので、俺にできることは何でも手伝わせてください!」
そう言って胸の前でグッと握り拳を作り、キラキラした目でこちらを見てくる。後輩というものはそれだけで可愛くて仕方がないが、特にこの最近別部署から異動してきた四乃しの聖矢せいやは、小柄で元気いっぱいなサッカー少年のような見た目通り、積極的で好奇心旺盛なため、色んな仕事を引き受けている。俺の残業仲間だ。
「四乃、お前はまず自分の机の上の書類片付けろ。」
「あれはあと少~しで終わるやつです!一瞬で片付きますから、終わったら何でも手伝わせてください!」
「分かったから回れ右!GO!」
「はい~!」
四乃の両肩を持ちクルッと回して、席へと背中を押す。
ブンブンと手を振りながら、自分の席へと駆けていった。四乃の背中を見送り一息吐こうとしたら、今度は隣の席の同僚、佐藤由莉が話しかけてきた。
「すごい懐かれたね。四乃を懐柔するなんてさすがタラシだね~」
「いや別にタラシてないんだけど。ちゃんと言えば分かってくれる良い子だったよ。」
四乃は入社当初、何事にも白黒付けないと気がすまない性格だったらしく、今よりもさらに積極的に仕事について質問したり、ミスはしっかり指摘していたらしい。当時はなんにでも噛み付く狂犬と噂になっていた。だが、新卒の後輩に指摘されるのをよく思わない奴らは多い。そう言うなら自分でやれと、自分たちの仕事を四乃に押し付け、その結果、四乃は体を壊し数ヶ月休職してしまった。
心機一転という意味も込めて、うちの部署に異動になった。
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