愛を注いで

木陰みもり

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2、一途な恋心

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そのあと、このサラリーマンはすごくお人好しで優しい人なんだという出来事によく遭遇した。
店から左に少し行ったところに横断歩道で、点滅信号を渡り切れなさそうなおばあちゃんを背負って渡っていた。どうやら初めは泥棒と間違えられたらしい。おばあちゃんはお礼を言いながら、サラリーマンの背中をバシバシ叩いていた。
「こんないい人最近いないよ、ありがとうね。」
「イテテっ、当たり前ですよ。また困ったところに出くわしたら、今度は最初っから手伝わせてくださいね。」
「あぁそうするさね、さっきは疑って悪かったね。」
いえいえと会釈をして、サラリーマンは去っていった。

横断歩道を渡れないおばあちゃんのお手伝いをするなんて、物語の中のことだと思った……
そんなことを思いながら、走り去るサラリーマンを目で追った。なんだか慌ててるみたいだ。時間的に出勤時間だし、これで本当に遅刻なんてしていたら、本当に物語だなぁ、なんてちょっとワクワクしてしまった。ワクワクついでに僕は、今日からサラリーマンのことを、敬意を払って「優男さん」と呼ぶことにした。我ながら酷いネーミングセンスだが、僕の心は幸せで満たされた。

意識し始めると、その「優男さん」のことが目に入って仕方がなかった。今日はどこでどんな手伝いをしているのか、そこにうまいこと出くわせないだろうかとそんなことを考えるようになっていた。
昨日は出会えなかった、一昨日は買い出しの時に、大荷物の子連れの母親の荷物を代わりに持っているのに遭遇した。その2日前は、道に迷っていた外国人に身振り手振りで説明した後、結局目的地まで連れて行くらしいことを言って歩いていった。目的地まで一緒に行くって、どれだけお人好しなんだか。
だがそんな「優男さん」の行動を連日見ていると、心の中で温かな何かが湧き上がってくる感じがした。
そんなちょっとストーカー気味な自分に、これは人間観察と言い聞かせながら、確実に「優男さん」に好意を寄せていることに気付かないフリをした。
ふと、そもそも、見せ掛けの優しさかもしれない――
ふと、結局話したら、僕には優しくない人かもしれない――
【猫】だから、【お年寄り】だから、【子連れ】だから……こんな大柄の男のどこにも「優男さん」の優しさは必要としていないことに、とてつもなくガッカリした。もう少し背が低くて、可愛いサイズで、ちょっと頼りなさそうだったら、もう少し接点があったかも。
そんな酷いことを考えていたせいだろうか、ここ数日は1回も「優男さん」を見掛けることは無くなっていた。そもそも赤の他人なため、連日遭遇していたことの方が奇跡に近かった。急に出会わなくなると、僕の中で「優男さん」が、急に存在感を増す。
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