愛を注いで

木陰みもり

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1、一目惚れと恋の味

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「本当に今さらだな。俺は二階堂にかいどう拓真たくま。改めてよろしく。」
「拓真さん……僕は一條いちじょうみことです。拓真さん、改めてよろしくお願いします。」
「一條尊くんだね、よろしく。というかもう下の名前で呼ぶんだ。」
「ダメ……ですか?」
うるうると子犬のような目で訴えかけてくる彼は、とてもあざとく、とても断れない。
「ダメじゃ……ないです。」
「ありがとうございます!僕のことも尊って呼んでください、拓真さん」
そう目を細めて穏やかに微笑む彼は、最初ここに入ってきた時と同じだった。これからもこの穏やかな微笑みを見られると思うと、ついつい嬉しくなってにやけてしまった。

「そういえば、拓真さん会社は大丈夫ですか?」
「あぁっ!俺会社に帰る途中だったんだった!」
はっとして時計を見ると18時になるところだった。喫茶店に入ったのは15時だったので、3時間も滞在してしまったことになる。予定通りに帰社しなかったこと、上司に詰められると思うと、大きなため息が出た。
「すみません、僕が引き止めてしまったので」
申し訳ないとしゅんとする彼はやっぱり子犬のようで、とても庇護欲をそそる。ついつい頭をポンポンと撫でてやりたくなる。
「尊くんのせいじゃないよ。だから気にしないで。そういえば俺ずっと居座っちゃってるけどお店も大丈夫?」
俺も『そういえば』なことをしていた。
「大丈夫ですよ。そもそも今日は営業中看板出してないので、本当は誰も来ないはずだったんですけど、拓真さんが来てビックリしました。」
「えぇっ、そうだったのか?なら入ってきた時に言ってくれればよかったのに」
「だって仲良くなるチャンスだと思ったんですもん!営業中だと2人きりでは話せないでしょ?」
尊くんはクスクスと笑いながら、頬にチュッとキスを落とした。
なんて策士なんだ!そう思いながらキスされたところをさすりながら呆気とられていると
「さぁ早く行かないと、余計怒られちゃいますよ!」
そう言ってカバンを拾って持たせてくれた。
まったく、いたずら好きの可愛い恋人ができてしまったと、満たされた気持ちでいっぱいだった。
「拓真さんに限り年中営業中なので、いつでも来てくださいね。また『愛情いっぱい』注いだコーヒーを振る舞います。」
「何恥ずかしいことサラッと言ってるの。尊くんも意外とロマンチストだったんだね。」
ふふふと2人で笑いあい、俺は尊くんに見送られながら喫茶店を後にした。
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