愛を注いで

木陰みもり

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2、一途な恋心

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「ようやく梅雨が明けましたね。今年は例年より梅雨の時期が長引きましたが――」

ようやくこのジメジメともおさらばか。
ニュースの声を聞きながらミルにコーヒー豆を入れ、ハンドルを持ちゆっくりと回しながら、毎年の鬱陶しい梅雨が終わることに、ようやくかとふぅと息を吐く。梅雨はコーヒー豆の保存が面倒くさいからな。今年は特に長かった。
本当に長くて、思いもよらない出来事もあった。そう色々思い出しながら挽き終わったコーヒーをミルから出し、ドリッパーに移そうとした時、「にゃぁ~」と飼い猫のフルシティが足元に擦り寄ってきた。
「こら、また寄ってきて…今からお湯を使うんだ、危ないから向こう行ってろ。」
そう言い、フルシティの頭を撫でる。だが一向に僕の元から離れようとしない。まったくと思いながら、その行為がとても嬉しく、本気で離そうという気ではない。フルシティもそれが分かっているのだろう、無視して僕の周りをうろうろする。

フルシティと出会ったのも、梅雨が始まったばかりの雨の日の出来事。
買い出しの帰り、店の向かいの路地で傘をさしてうずくまっているサラリーマンがいた。具合が悪いのかと、声をかけようとすると、傘を地面に置いて何か喋っていた。
「ごめんな、うちのマンション、ペット禁止なんだ。代わりに傘やるから、少しでも生き延びろよ。明日何か食べられるもの持って来てやるから根性見せろ。」
そう言って、スッと立ち上がり走っていった。サラリーマンが立ち去った後には、段ボール箱に入った子猫がいた。
「お前、捨てられたのか?」
「なぁ~」
「返事してるつもりか?」
「なぁ~」
「店の向かいで野垂れ死なれても迷惑なだけだから、だからな……」
はぁとため息を吐き、この子猫を連れて帰ることにした。なんだか他人事とは思えなかったからだ。僕も同じだったから……

その日を境に、あのサラリーマンとはよく出会うようになった。
初めはもちろん、猫に餌を持ってきてた時。本当に次の日、猫缶を持って現れた。一応猫を拾った時に傘を畳んで、壁に立て掛けておいた。その方が、万が一本当にサラリーマンが来た時に、誰かに拾われたと分かると思ったから。
案の定、ほっとしたように傘を回収し、去っていった。
もし、誰にも拾われずに猫がずっとあそこにいたら、毎日猫缶を持って来ていたのだろうか?そんな少しの興味を僕はサラリーマンに持った。
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