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47、身体中がキモチイイ

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 夏の茹だるような暑さ、締め切られた廃工場、いくら全裸でも汗はとめどなく吹き出していた。その汗が目元を多い視界を霞ませている。
 その中で俺は裕人が戻ってくるのを楽しみに待ち続けた。

――裕人はいつ戻ってくるんだろう
――いいことって何だろう

頭は相変わらず痛いけれど、それよりも蹴られたお腹が気持ちよくて、俺は完全に忘れている何かを思い出すことを放棄した。
 しばらく経った頃、ズルズルと金属と何か大きい物を引きずる音が聞こえた。裕人は一体何を持ってくるのだろうか。期待でドキドキが止まらない。
 徐々にこちらに近付いてくる音に、俺は犬のように涎を垂らしながら、裕人の帰りを待った。

「まだその体勢でいられたんだな。えらいえらい」
「えへへ、俺えらい?」
Good Boyいい子。本当に素直で従順で、晴陽はこうでなくっちゃな」

褒められれば褒められるほど、汗は絶えず流れ出て、俺の目を覆った。嬉しいと身体が熱くなって汗が出るなんて、初めての経験だった。その初めての経験を陽介裕人と共有できたことがまた嬉しくて、溢れ出た汗を受け止めきれなくなった目からはぽたぽたと溢れ落ちていっていた。

Lookこっちを見ろ

言われるまま俺は裕人を見上げた。

Good Boyよくできました

その言葉に俺の心臓はドクンと大きく1回跳ねた。
 見上げた裕人の顔は影になっていて少し怖いけれど、声は優しくて、きっと優しい顔をしているのだと思わせた。

「晴陽、これなーんだ」

裕人は楽しそうな声で廃工場の奥から持ってきたものを俺の前に並べた。言われるがままそれらに目を向けると、錆びた鉄パイプと割れた鏡が置かれていた。

――鏡!?

それが目に入り、鏡だと確信した時、俺は本能的に目を背けた。割れていても俺の身体はしっかりと映っていた。

「きたな…みにく…い…はぁ…はぁ…」

映り込んだ自分の身体に拒否反応を示した俺は、その一瞬で気が動転し過呼吸になってしまった。
 そんな俺に裕人は優しく背中を撫でてきた。

「ごめんごめん。嫌だよな。でも俺は綺麗だと思うから、あまり気にしすぎるなよ」
「ようすけ…」

――あれ、俺どうしてまた陽介のこと…

裕人の手の大きさにまだ小さいはずの陽介を思い出した。

――そう、まだ、小さい…

その瞬間、また頭に激しい痛みが走った。ズキズキと思い出せと訴えかけてくる。
 それが辛くて苦しくて、俺は縋る思いで裕人に手を伸ばした。

「ひろ…と…っ」

あと少しで裕人の手を掴める、そう思った瞬間、裕人は鉄パイプを振りかざし、不適な笑みを浮かべると俺の腕に振り下ろした。
 声にならない痛みが、腕から全身に駆け巡る。全身から汗が吹き出て、身体が震えて、それは頭の痛みなんて忘れるほど強い快楽だった。

「なぁ、俺以外の名前なんて言ったらダメだろ。それぐらい分かるよな?」

その問いに、俺は唇を噛み締め必死に頭を上下に振った。

Good Boyいい子だ。でもお仕置きは必要だよな」

裕人は楽しそうに笑うと、また鉄パイプを振りかざし、今度は背中に振り下ろした。何度も何度も、俺の背中へと振り下ろした。
 それはイタイというよりもキモチイイほうが強く、そして息苦しいものだった。

――背中が、燃えるように熱い
――なのに汗が冷えて寒い

――視界が霞んでいく…

意識がどんどん遠のいていく。そう感じ始めた時、俺の意識は裕人のCommandコマンドによって引き戻された。

Stand Up立て
「あぁっ…はぁ…はぁ…」

――うまく足に力が入らない
――早く立たないとまたお仕置きされちゃう

そう思った時にはもう遅かったようで、ようやく立ち上がれたと思った時には裕人はもう俺に向かって鉄パイプを振り下ろしていた。

「かはっ」

今のは腹に当たったのだろうか、鳩尾みぞおちと肋骨にわずかな違和感を感じる。
 身体中がゾクゾクして高揚感を感じて、それから一気に力が抜けていく。何かを吐き出したようなスッキリ感と気持ちよさが、全身を駆け巡った。
 『すごくきもちよかった』そう思っている時には、俺はさっきとは少し離れた場所で、また地面に横たわっていた。

「こんなに殴られても、痛いより気持ち良いが勝つなんて、Subサブってやつは本当哀れな生き物だな」

――視界が霞んでる
――裕人の口が動いている
――だけど耳がぼーっとしてうまく聞き取ることができない

Roll仰向けになれ

俺は言われるがまま力を振り絞り仰向けになる。

――Commandコマンドだけはハッキリ聞こえてよかった

俺は裕人の命令をきちんと聞けたことに安堵した。

「こいつ殴られてイったのかよ。しかも身体中の痛みでまだ勃たせてるとか、本当、最高に惨めなヤツ」

――あ、ひろとがわらってる
――おれがちゃんとできたから、よろこんでいるのかな

裕人が笑っていると俺も嬉しくて、俺も裕人に向かって笑いかけた。

「良い笑顔じゃん。これもお前のパートナーに送ってやるよ」

 カシャッ

「俺のしたことで達した晴陽を見たら、きっと腸が煮えくり返るだろうな」

――裕人、楽しそうだな…よかった…

「あーその顔を拝めないのは残念だ!」

――もっと笑って

「たくさん撮ったからいっぱい送ってやろうな、晴陽」

――あ、撫でてくれた、嬉しい…
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