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36、その気持ちが嬉しくて
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「ただいま、晴兄」
「おかえり」
「寂しかった?」
「まぁ、それなりに…」
「にひひ、俺も!」
「うわっ」
帰ってくるなり、陽介は犬のように俺に飛びついて、嬉しそうに頭を俺の胸に擦り寄せてきた。洗い立ての頭にはピンッと立った耳が、腰には左右に振られるしっぽが、はっきりと見えるくらいの感情表現に、俺は正直すごく驚いた。
「何かあった?」
「え、何もないよ?どうして?」
「何もないならいいんだ」
陽介が心から楽しそうで、元気でならそれでいい。ただ行きの悲しそうなオーラから一変、こんなにも幸せそうにされると、何かを隠しているんじゃないかと疑ってしまう。
素直に信じてあげられればいいのだけど、俺にそこまでの自信はなかった。そんな俺の心の機微を感じたのか、陽介は安心させるように俺の頬にキスをした。
「気になってるんでしょ、俺がやけに元気なこと」
「あー…まぁ、そうだな」
「ふふ、なんか分からないんだけど、旅行に来てからずっと晴兄を視界に入れてないとずっと不安だったんだ」
「どうしてそんなことに」
「わかんないんだよね。でも思い浮かべるだけでそれが少し緩和されて、実物見たら嬉しくなっちゃって…だから今すごく元気なんだよね」
そう言って擦り寄る陽介はまるで昔にでも戻ったかのように幼く見えた。「元気」と言っていても、陽介自身にも分からない不安は今もあるのだろう。
俺はこの状況にどうしていいか分からず、何か話題を変える何かがないかあたりを見渡した。
「そういえば、その袋には何が入ってるんだ?」
「あっ、そうだった!プリン冷やさなきゃ」
陽介はハッとして勢いよく俺から離れると、部屋の冷蔵庫に何かをしまいはじめた。
一体何を買ってきたのかと思い、後ろから陽介の手元を覗くと、色々な種類のプリンに、地元の果物を使った炭酸、燻製卵、それにフロントの所にあった売店で気になっていたチーズケーキ、他にもたくさんのスイーツがあった。
「それ佐藤くんたちへのお土産?」
「違うよ、晴兄と食べようと思って買ってきたんだ」
「俺のために選んでくれたんだ。ありがとう」
俺は陽介のその行動に胸が熱くなって、後ろから抱きついた。
気になっていたスイーツを買ってきてくれたことも嬉しいけれど、何より陽介が俺のことを思って選んでくれたことが嬉しい。
いっそのことこのまま陽介と陽介が買ってきたスイーツを食べたいと思った。だけど今から夕食の時間だ。それに陽さんたちも帰ってくる時間。
離れがたくなった両腕に最後にもう1度力を入れて陽介を抱きしめた。
俺だって陽介と少しの間でも離れたくない。いつでも陽介と一緒のことを考えている。陽介は深く考えていないみたいだけど、俺はこの気持ちが果たして自分の純粋なものなのか、本能からくる執着なのか、分からないことが怖くてたまらなかった。
こんなにも平穏な日常が続くと、それはさらに根を張って俺にまとわりつく。
今は楽しまないといけないのに、また飲まれそうになる。そんな目の前がぼんやりとしはじめた頃、扉を叩く音がして、俺はまた現実へと戻ってきた。
「晴兄、ご飯運ばれてきたよ」
「あ、うん…そうだな」
「女将さんもこっち見てるよ」
「そうだな」
「晴兄がいいなら俺はいいんだけど…」
「何が…あ…」
一瞬陽介が何を言っているか分からず顔を上げると、いつの間にか陽さんも聖司さんも帰ってきていて、配膳を終えた女将さんと俺に向けて生温かい目を向けていた。
「あ…あの、これは…その…」
「晴陽くんが陽介にベッタリなの初めて見たわ」
「見るのは初めてかもね」
「いつもは陽介からだから新鮮ね」
「でも僕1回リビングで…」
「あー待って父さん!その話は内緒って言ったよね!」
「話されたくなかったら早く席に着きなさい」
「ちょっと待ってよ!2人が揶揄うから、晴兄フリーズしちゃったんだよ」
見られたこともそうだが、恥ずかしくてたまらないその会話に頭が混乱した俺は、さらに恥ずかしいことに、陽介に運ばれるまま、席に座らせられたようだ。
そこからの記憶は、お酒の力もあってあまり覚えていない。楽しかったような美味しかったような、とても幸せな時間であったのは確かだが、終始さっき見られたことが、生温かい目が頭に過ぎり、羞恥で楽しんでいる余裕なんてなかった。
「おかえり」
「寂しかった?」
「まぁ、それなりに…」
「にひひ、俺も!」
「うわっ」
帰ってくるなり、陽介は犬のように俺に飛びついて、嬉しそうに頭を俺の胸に擦り寄せてきた。洗い立ての頭にはピンッと立った耳が、腰には左右に振られるしっぽが、はっきりと見えるくらいの感情表現に、俺は正直すごく驚いた。
「何かあった?」
「え、何もないよ?どうして?」
「何もないならいいんだ」
陽介が心から楽しそうで、元気でならそれでいい。ただ行きの悲しそうなオーラから一変、こんなにも幸せそうにされると、何かを隠しているんじゃないかと疑ってしまう。
素直に信じてあげられればいいのだけど、俺にそこまでの自信はなかった。そんな俺の心の機微を感じたのか、陽介は安心させるように俺の頬にキスをした。
「気になってるんでしょ、俺がやけに元気なこと」
「あー…まぁ、そうだな」
「ふふ、なんか分からないんだけど、旅行に来てからずっと晴兄を視界に入れてないとずっと不安だったんだ」
「どうしてそんなことに」
「わかんないんだよね。でも思い浮かべるだけでそれが少し緩和されて、実物見たら嬉しくなっちゃって…だから今すごく元気なんだよね」
そう言って擦り寄る陽介はまるで昔にでも戻ったかのように幼く見えた。「元気」と言っていても、陽介自身にも分からない不安は今もあるのだろう。
俺はこの状況にどうしていいか分からず、何か話題を変える何かがないかあたりを見渡した。
「そういえば、その袋には何が入ってるんだ?」
「あっ、そうだった!プリン冷やさなきゃ」
陽介はハッとして勢いよく俺から離れると、部屋の冷蔵庫に何かをしまいはじめた。
一体何を買ってきたのかと思い、後ろから陽介の手元を覗くと、色々な種類のプリンに、地元の果物を使った炭酸、燻製卵、それにフロントの所にあった売店で気になっていたチーズケーキ、他にもたくさんのスイーツがあった。
「それ佐藤くんたちへのお土産?」
「違うよ、晴兄と食べようと思って買ってきたんだ」
「俺のために選んでくれたんだ。ありがとう」
俺は陽介のその行動に胸が熱くなって、後ろから抱きついた。
気になっていたスイーツを買ってきてくれたことも嬉しいけれど、何より陽介が俺のことを思って選んでくれたことが嬉しい。
いっそのことこのまま陽介と陽介が買ってきたスイーツを食べたいと思った。だけど今から夕食の時間だ。それに陽さんたちも帰ってくる時間。
離れがたくなった両腕に最後にもう1度力を入れて陽介を抱きしめた。
俺だって陽介と少しの間でも離れたくない。いつでも陽介と一緒のことを考えている。陽介は深く考えていないみたいだけど、俺はこの気持ちが果たして自分の純粋なものなのか、本能からくる執着なのか、分からないことが怖くてたまらなかった。
こんなにも平穏な日常が続くと、それはさらに根を張って俺にまとわりつく。
今は楽しまないといけないのに、また飲まれそうになる。そんな目の前がぼんやりとしはじめた頃、扉を叩く音がして、俺はまた現実へと戻ってきた。
「晴兄、ご飯運ばれてきたよ」
「あ、うん…そうだな」
「女将さんもこっち見てるよ」
「そうだな」
「晴兄がいいなら俺はいいんだけど…」
「何が…あ…」
一瞬陽介が何を言っているか分からず顔を上げると、いつの間にか陽さんも聖司さんも帰ってきていて、配膳を終えた女将さんと俺に向けて生温かい目を向けていた。
「あ…あの、これは…その…」
「晴陽くんが陽介にベッタリなの初めて見たわ」
「見るのは初めてかもね」
「いつもは陽介からだから新鮮ね」
「でも僕1回リビングで…」
「あー待って父さん!その話は内緒って言ったよね!」
「話されたくなかったら早く席に着きなさい」
「ちょっと待ってよ!2人が揶揄うから、晴兄フリーズしちゃったんだよ」
見られたこともそうだが、恥ずかしくてたまらないその会話に頭が混乱した俺は、さらに恥ずかしいことに、陽介に運ばれるまま、席に座らせられたようだ。
そこからの記憶は、お酒の力もあってあまり覚えていない。楽しかったような美味しかったような、とても幸せな時間であったのは確かだが、終始さっき見られたことが、生温かい目が頭に過ぎり、羞恥で楽しんでいる余裕なんてなかった。
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