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30、もらってください 後編

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「待って違う、嬉しくて、なんて言葉にすればいいか分からなかったんだ。だから持っていかないで」
「ほ、本当にこんな形でいいの?一応初めてのプレゼントなんだけど」
「いいに決まってるだろ。それに俺がずっと欲しかったものが、その中に入ってるんだろ?」
「あ、うん…遅くなってごめんね」
「まだまだ待つ気でいたから、こんなに早くもらえて、嬉しい…」

晴兄の言葉に俺の身体からは一気に力が抜けていき、晴兄の上に覆い被さるように俺は寝転がった。

「てっきり引かれたかと思った」
「少し汚れてるからって、中身は綺麗なままだろ」
「そうだけど、やっぱり綺麗に包装されたものの方が、よかったのかもって思っちゃったんだ」
「俺はそんなこと気にしないから、陽介からもらえるものだったらたとえ道端の石だったとしても…嬉しい…と…思う…」

言い出して急に恥ずかしくなったのか、晴兄は徐々に声を小さくしていった。
 でもハッキリと最後まで聞こえてしまった俺は、その言葉に救われていた。勝手に恥ずかしいものとして決めつけて、また晴兄を待たせることになる方が余程恥ずかしいことだと、そう考え直せることができたからだ。

「お、重いからもう退けよ」
「そうだね、早くこれも開けてほしいし」

俺は晴兄の上から起き上がると、晴兄も起き上がらせ、もう一度プレゼントを渡した。
 少しの間見えなかっただけなのに、晴兄の顔は林檎のように真っ赤に染まっていて、この染まる瞬間を見逃していたかと思うと、少し残念な気持ちになった。
 その残念な視線に気付いたのか、晴兄は恥ずかしそうに俺から顔を背け、まじまじと包装を眺めていた。それからようやく包装を剥がし始めた。
 綺麗にゆっくりと、何かを噛み締めながら剥がし終えると、晴兄は無言で箱の蓋をとった。
 中身を見て、晴兄は何を思ったのだろうか、一瞬の間ののち、肩を震わせて俯いてしまった。

「もしかして気に入らなかった?」
「違うよ、その逆…本当にCollarカラーだと思って」
「まさか疑ってたの?」
「いざ開けるってなった時に、お互いに思ってる物が違ったらどうしようって一瞬頭を過ぎっちゃって…」

申し訳なさそうにそう言うと、晴兄はCollarカラーを取り出して大事そうに胸に当てていた。
 学生の俺が買える物なんて、社会人の晴兄からしたら粗末なものだろう。それなのに晴兄はそれを高価な物のように大切に扱っていた。
 その喜びようは、俺の想像を遥かに超えていて、見ている俺も幸せな気持ちになれた。

「晴兄、俺に付けさせて」
「…改まって言われると恥ずかしいな」

少しの間の後、頬を紅潮させはにかみながら、晴兄はCollarカラーを俺の前へ差し出した。

「もっと恥ずかしいことさっきしてたのに」
「そ、それとこれは別!胸の辺りがむずむずして落ち着かない」

目を泳がせながら胸の辺りを押さえて、晴兄は言い終わる前に俺に背を向けてしまった。
 こんな気持ちは初めてだと言わんばかりのその行動に、俺の胸は高鳴った。
 この小さくなって恥じらう姿も、真っ赤になったうなじを見るのも、俺が初めてなんだと思うと心臓んが痛いくらい脈打った。
 それと同時に、ほんの少しの悪戯心が俺の中で芽を伸ばしていくのがわかった。
 晴兄のいじらしくて可愛い姿をもっと見たい、もっと見せてほしい、そう思わずにはいられないほど、晴兄の今の姿は俺の情欲を掻き立てた。

「付けるよ」
「は、早く」

抱きしめるように密着して、急かす晴兄の前にCollarカラーを回し、俺はゆっくりと晴兄の首筋にそれと自分の指を触れるか触れないかのところまで持っていった。
 ゆっくりと焦らすようにCollarカラーを首に巻く時、指が、Collarカラーのレザー部分が触れるたび、晴兄の身体は小さく跳ねた。
 しっかりと触れてもらえないもどかしさと、なかなかCollarカラーを付けてもらえない焦ったさを耐える姿は、健気でいじらしく、そして愛おしく感じる。
 本当は早くCollarカラーを身に付けた晴兄を見たい、そう思うけれども、この焦ったさの中乱されている晴兄を見たいとも思ってしまう。
 それに、このCollarカラーを付けたら、晴兄が『俺のモノ』になったという紛れもない事実がうまれる。
 それを晴兄にちゃんと感じてほしいとこんな時にさらに我儘だけれど思ってしまった。
 俺は迷わず晴兄の耳元に近付き、優しく囁いた。

「これを付けたら、晴兄は正真正銘『俺のモノ』になるんだね」
「い、言わなくても…早くそうなりたい…から…」
「ちゃんと感じてね」

俺の声に晴兄はさらにうなじを真っ赤にして頷いていた。そのうなじの上でCollarカラーの金具同士を引っ掛けて、さらにその上から俺は柔らかなキスを落とした。
 これでようやく、本当に晴兄は『俺のモノ』になった。この感覚は何にも代え難いくらいの多幸感と支配欲をくれた。
 その気持ちを表すかのように、俺は後ろから抱きしめ晴兄の首筋に何度も唇を触れさせた。

「あっ…くすぐったっ…」
「晴兄の髪の色と同じ黒にして正解。雪のような肌によく映えてる。すごく可愛い」
「恥ずかしいこと言うなよ」

ツンとした物言いとは反対に、ちらりと見えた横顔は嬉しそうに口角を上げていて、その顔に俺もつられて口角が上がった。
 特別講習をズル休みして、想い人と過ごす夏休みの始まりは、背徳感と多幸感で俺を満たした。夏の暑さとは違う温かい自分の部屋で、目の前がキャンディーのような甘い色合いに染まっていくのを俺は目にした。
 その中でとめどなく溢れてくる温かいものに、少しの戸惑いもありながら、俺はこの色とりどりの世界を自然と享受していった。
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