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29.想いを重ねる
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行為のあと、へとへとになって動けない勇大の身体を、北沢は濡らしたタオルで丁寧に拭き、枕を当て、布団をかけてくれた。
北沢はすぐ隣にいる。同じベッドに寝そべり、背中にめちゃくちゃ視線を感じるが、勇大は北沢に背を向けたまま振り向けない。
北沢と散々抱き合って欲望を吐き出したまではよかった。でもいざ正気になってみると急に小っ恥ずかしくなった。
番解除について話をするために番アルファに会いに行ったのに、そいつが北沢だった。北沢は勇大に好意を寄せていると気持ちをぶつけてくれた。
勢いで勇大も本音をぶつけ、多分この状態は両想いということだ。
一般的に言う、恋人同士なのだろうかとも思うが、そんな言葉は北沢とは交わしていない。曖昧なことをいろいろ確認したいのに、勇大は言葉にするのは苦手だ。さっきみたいに身体をひらいてしまうほうがよっぽど素直になれる。
「番になったあと、勇大に逃げられて手を尽くして探しているとき、うちの会社の履歴書の中からお前をみつけたんだ」
北沢は独り言のように話し始めた。
「運命を感じたよ。たしかに勇大はうちのブランドの服を着てはいたが、まさか履歴書を送ってきていたとは思いもしなかった」
「契約社員なら経歴不問って書いてあったら」
勇大は北沢に背中を向けたまま答えた。
ダメ元で履歴書を出した会社のうちのひとつだった。採用通知が来たとき、本当に嬉しかったことを覚えている。
「お前が社長でよかったよ。ありがと。コネで入れてもらえてラッキーだったよ」
あんな履歴書で採用されるはずがないと思っていた。北沢が鶴の一声で勇大を採用してくれたのだろう。
「採用を決めたのは俺じゃない、人事部だ。俺のところに届く履歴書は、採用決定したものだけだからな」
「えっ?」
意外な答えに驚いて勇大は振り返る。
「面接でうちのブランドの服が好きだと言ったそうだな。うちに就職希望する奴はみんな言う言葉なんだが、勇大は本気だったと人事部の担当者が言っていた。勇大、実は服が好きだろ? お前の着こなしをみているとこいつは服が好きなんだなってわかる」
北沢は右手を枕にしながら勇大に微笑みかけてきた。
「自信を持てよ。俺は経営をするだけで、要は裏方だ。うちのブランドの広告塔は勇大、お前なんだからな」
北沢に髪を撫でられて胸が熱くなった。多分、北沢の言葉に嘘はない。本当に認めてくれていることが伝わったから。
「あー! でも心配だ!」
「おわっ!」
急に抱きつかれて勇大は動揺する。北沢に接触されて、さっきまでの行為を思い出しそうになった。
「お前、俺以外の男になびくなよ?」
「は……?」
「お前は自分の見た目がいいのは自覚してるよな? だから男っぽい服装にして、虚勢を張ってる。それでも色気がすごいんだ。俺はお前に誘われたとき、こんな綺麗なオメガを抱いていいのかとドキドキした」
「はぁぁっ!?」
意外すぎる。俺はエロいことに興味はありませんみたいな顔をしているくせに、実は結構好きなのか……?
「お前が誘ったら、大抵の男は落ちるってことだ。浮気は絶対に許さない。優しくされても身体を触らせるんじゃない。『ちょっとくらいいいか』なんて考えるな。番がいるからって言って突っぱねろよ?」
「いいっ……!?」
北沢は苦しいくらいに強く抱きしめてきた。勇大はまだ何もしていない。誰かを誘ってもないのに、いきなり浮気の心配をされても困惑するだけだ。
「友達なんて無理だった。番だということを隠せばそばにいられる、それでいいと思っていたのに、苦しかった。俺はお前の特別になりたかったんだ。それを思い知ったよ……」
北沢のその想いは、勇大と同じだ。勇大も番がいるのに北沢のそばにいたくてずっともがいていた。
北沢はすぐ隣にいる。同じベッドに寝そべり、背中にめちゃくちゃ視線を感じるが、勇大は北沢に背を向けたまま振り向けない。
北沢と散々抱き合って欲望を吐き出したまではよかった。でもいざ正気になってみると急に小っ恥ずかしくなった。
番解除について話をするために番アルファに会いに行ったのに、そいつが北沢だった。北沢は勇大に好意を寄せていると気持ちをぶつけてくれた。
勢いで勇大も本音をぶつけ、多分この状態は両想いということだ。
一般的に言う、恋人同士なのだろうかとも思うが、そんな言葉は北沢とは交わしていない。曖昧なことをいろいろ確認したいのに、勇大は言葉にするのは苦手だ。さっきみたいに身体をひらいてしまうほうがよっぽど素直になれる。
「番になったあと、勇大に逃げられて手を尽くして探しているとき、うちの会社の履歴書の中からお前をみつけたんだ」
北沢は独り言のように話し始めた。
「運命を感じたよ。たしかに勇大はうちのブランドの服を着てはいたが、まさか履歴書を送ってきていたとは思いもしなかった」
「契約社員なら経歴不問って書いてあったら」
勇大は北沢に背中を向けたまま答えた。
ダメ元で履歴書を出した会社のうちのひとつだった。採用通知が来たとき、本当に嬉しかったことを覚えている。
「お前が社長でよかったよ。ありがと。コネで入れてもらえてラッキーだったよ」
あんな履歴書で採用されるはずがないと思っていた。北沢が鶴の一声で勇大を採用してくれたのだろう。
「採用を決めたのは俺じゃない、人事部だ。俺のところに届く履歴書は、採用決定したものだけだからな」
「えっ?」
意外な答えに驚いて勇大は振り返る。
「面接でうちのブランドの服が好きだと言ったそうだな。うちに就職希望する奴はみんな言う言葉なんだが、勇大は本気だったと人事部の担当者が言っていた。勇大、実は服が好きだろ? お前の着こなしをみているとこいつは服が好きなんだなってわかる」
北沢は右手を枕にしながら勇大に微笑みかけてきた。
「自信を持てよ。俺は経営をするだけで、要は裏方だ。うちのブランドの広告塔は勇大、お前なんだからな」
北沢に髪を撫でられて胸が熱くなった。多分、北沢の言葉に嘘はない。本当に認めてくれていることが伝わったから。
「あー! でも心配だ!」
「おわっ!」
急に抱きつかれて勇大は動揺する。北沢に接触されて、さっきまでの行為を思い出しそうになった。
「お前、俺以外の男になびくなよ?」
「は……?」
「お前は自分の見た目がいいのは自覚してるよな? だから男っぽい服装にして、虚勢を張ってる。それでも色気がすごいんだ。俺はお前に誘われたとき、こんな綺麗なオメガを抱いていいのかとドキドキした」
「はぁぁっ!?」
意外すぎる。俺はエロいことに興味はありませんみたいな顔をしているくせに、実は結構好きなのか……?
「お前が誘ったら、大抵の男は落ちるってことだ。浮気は絶対に許さない。優しくされても身体を触らせるんじゃない。『ちょっとくらいいいか』なんて考えるな。番がいるからって言って突っぱねろよ?」
「いいっ……!?」
北沢は苦しいくらいに強く抱きしめてきた。勇大はまだ何もしていない。誰かを誘ってもないのに、いきなり浮気の心配をされても困惑するだけだ。
「友達なんて無理だった。番だということを隠せばそばにいられる、それでいいと思っていたのに、苦しかった。俺はお前の特別になりたかったんだ。それを思い知ったよ……」
北沢のその想いは、勇大と同じだ。勇大も番がいるのに北沢のそばにいたくてずっともがいていた。
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