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3.進みたい

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 唯香たちと別れたあと、高月の家に遊びに来た。高月の母親とのお邪魔しますの挨拶もそこそこに、二人が今いるのは高月の部屋だ。

 映画が好きな演劇部所属の高月らしく、部屋には映画グッズがあふれている。部屋の壁の一つがブルーのアクセントウォールとなっており、そこには高月の1番好きな映画のポスターが飾られていた。

「お前ってホント映画が好きなんだな」

 高月の部屋を見た感想を呟く。

「ああ。将来映画関係の仕事に就きたいって思ってる」

 映画の話をする時の高月は楽しそうだ。
 そこからお互いの好きなものの話をしたり、お菓子を食べたり、まるで友人同士と変わらず過ごしている。
 それだって充分楽しい。
 楽しいのだけれど……。

 高月の好きな映画だと聞いて、さっきから二人で並んで映画を見ている。それが恋愛映画で、映画の中の二人がキスをし出すものだから、つい横にいる高月の顔を見てしまった。


『俺たちも、そろそろキス、しよっか』


 そんなことを高月に言われるという妄想が宮咲の脳内を占領するのだが、現実の高月は目が合ったのに「あ、カルピス飲む?」と、まるでムードがない。

 ——高月は、そういうことに興味ないのかな……。

 結局、高月との関係に進展は何もなかった。


 ◆◆◆


 それから二ヶ月ほどが過ぎ、その間も高月とのデートは重ねていたが、相変わらず高月は宮咲に手を出してくることはなく、いつも宮咲の妄想が不毛となるだけの関係性だった。

 今日も、5限まで授業を受けたあと、高月に家に「遊びに来ないか」と誘われて行くつもりでいるが、こんな調子ではこの前みたいに何もないだろう。

 それどころか高月は、付き合う以前よりも宮咲と距離を置いているようにすら感じる。付き合ったはいいものの、このままフェードアウトしていく恋愛だったらどうしようと焦りを感じてきた。

 ——せっかく高月と付き合えたのに。このまま何もなく終わるのかな……。

 高月のことばかり考えて講義に全く集中できていない自分に気づいて呆れてしまう。
 


「おい、宮咲! 俺、インスタですげぇの見つけちまったんだよっ」

 大学での講義が終わり、すぐに宮咲のもとに飛んできたのは森田だ。

「なんだよ」
「これこれっ」

 どうせくだらないんだろうと思っていたのに、森田が見せてきた写真を見て宮咲は目を見張った。

「これ、高月の彼女じゃね?」

 唯香のインスタに載せられていた写真は、高月と唯香のツーショット。ツーショットと言っても高月は横向きだが、それだけでも高月とわかるし、かなり特徴がある作りの白のカットソーは高月がよく着ている服だ。

 写真の背景には、ブルーのアクセントウォールに飾られた映画のポスターが映り込んでいることから、高月の部屋だと宮咲にはわかる。

 写真には『結構飲みましたぁ』の文字が添えられ、『#センスいい部屋』『#朝まで飲み』『#お泊り』などなどのハッシュタグ。

 なんだこれ。
 どういうことだ?

 高月は、昨日は同窓会だと言っていた。でも店の営業時間の関係で21時で終わると言っていた。その後、唯香を高月の家に呼んだのか。さらに唯香は、そのまま高月の部屋に泊まったのだろうか。

 待てよ待て。俺だってそんなのしたことないのに……。

「な? 高月は隠してるけど、これ彼女さんがインスタで暴露しちゃってる系だろ?」
「まさか……」

 信じたくない。
 高月と唯香が?!
 なんで唯香が……。あいつだけは嫌いだ。

「唯香って子、いつも高月のインスタにコメントしてるしさ、高月と仲いいのかなって思ってたんだ。見たら高月と同じ高校みたいだったぜ? 俺怪しいと思ってたんだよ、あいつちょっと前からなーんか浮かれてたんだよな。俺の誘いを断ることも多くなったし……。多分その頃から彼女と付き合ってたんじゃね?」

 森田に、高月が隠してる恋人は唯香じゃなくて俺なんだと言いたいが、そんなことはできない。

 それに。
 自分が本当に高月の恋人なのか自信がなくなってきた……。

 宮咲は、高月に告白はされたものの、やっていることはただの友達と同じことだけ。高月の手に触れたことはあるが、ちゃんと手を繋いだことすらない。

 事実だけで言えば、高月の腕に抱きついたり、高月の部屋に泊まったりしている唯香のほうがよっぽど恋人らしいのではないか。

 ——高月は、俺のこと、今でも好きでいてくれてるのかな……。もう俺に愛想尽かしたのかな……。
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