7 / 12
7.喧嘩
しおりを挟む
「まーしたっ!」
塔矢だ。またゼミ終わりにやって来た。塔矢の姿を見て、立ち上がりズンズン迫っていくのは一条だ。
「おい塔矢。てめぇ、ちょっと話がある」
「は? 浮気野郎と話すことなんてないけど」
うわぁ。本人に向かってはっきり言うなよ! 皆コソコソ噂をしてたのに。
「うるせぇ! ちょっと来い!」
「わかったよ。二股どころじゃないんだろ? 本当は何股かけてたのか聞かせろよ」
「塔矢、俺にぶっ殺されてぇの? これ以上俺を陥れるな!」
「何言ってんの? 全部お前が悪いんじゃん」
一触即発の空気のまま、一条と塔矢の二人はゼミの教室を出て行く。
嫌な予感しかない。
二人のことが心配で、真下も二人の後を追う。
二人は大学構内の、人気のない場所で対峙していた。傍目で険悪な雰囲気が伝わってくる。
「あの日、舞美をそそのかして俺の部屋に行くようけしかけたのは塔矢、お前だろ?! ふざけんなよ!」
やっぱり。眼鏡と黒マスクの男は塔矢だったんだ。
「俺ね、誰にでもいい顔する奴、好きじゃない。知らねぇの? 恋人ってひとりだけなんだよっ。誰彼構わず関係を持ちたいなんて盛ってんじゃねぇよ! クズ野郎が!」
うわ、どうすればいい。なんとかこの場を収めたい。
「一条、もうお前の味方なんていない。お前と付き合いたい奴なんていねぇから。ひとり寂しく泣いてろよ!」
塔矢の罵声に一条は反撃の言葉を詰まらせた。
「一条。お前だけは許さない。これでもまだわからないなら、今度はお前のSNSをめちゃくちゃにしてやる!」
塔矢……! そこまでしなくても……。
「お前がチヤホヤされるのは、見た目が理由だろ? お前には顔しかない。性格腐ってんだからよ! だったら俺がその顔をぶち壊してやろうか?」
一条の見た目に惹かれたのもあるけど、明るくていい奴だと中身にも惹かれたのは事実だ。真下は最初に一条を好きになった時のことを思い出した。
「死ねよクズ。マジで今すぐここでそのムカつく顔をフルボッコにしてやるっ!」
「塔矢! やめろ!」
もう黙っていられない。真下は塔矢と一条の間に割って入った。
「どけっ! 真下っ! 俺はこいつをぶっ殺してやるっ!」
塔矢の勢いは止まらない。
「塔矢、やめてよ。もういいから……」
もう十分だ。これ以上塔矢が一条に手を下す必要なんてない。
塔矢はチッと舌打ちした。
「わかったよ。真下がそう言うならやめる。一条覚えとけよ! 今度ふざけた真似をしたらマジでぶっ殺す!」
捨て台詞のように塔矢はそう言い残し、憤慨したままその場からさっさといなくなってしまった。
「真下……」
一条が力なく真下の名前を呼んだ。
「ごめん。お前を散々傷つけた」
しおらしく謝ってくる一条に「もういいよ」と声をかけてやる。心からそう思ってる。一条の行為は悪いことだと思うが、今の真下にとってはもう過去の話だ。
「ありがとな。俺を庇ってくれて」
「別に一条を庇ってなんかないよ」
「いや。助かった。真下、お前やっぱり優しくていい奴だな。俺がこうやってひとりきりになったときに、俺に手を差し伸べてくれたのはお前だけだ」
さすがの一条も、塔矢の猛攻に参ってたんだ。二股野郎だと噂をされていることを知りながら、ゼミにちゃんと顔を出したのもきっとかなり無理をしていたんだろう。
「それなのにお前を選ばないなんて、お前だけを愛さなかったなんて間違ってた。真下がもしまだ俺を少しでも好きでいてくれるなら、こんな俺を許してくれるなら、お前とこのまま恋人でいさせて欲しい。そして今度こそお前を大切にする。お前だけを好きでいさせてくれ。だから俺のそばにいてくれないか?」
一条は必死で真下に訴えてくる。ここ数日、塔矢のせいで辛かったのだろう。その目に少し涙が滲んでる。
「真下。大好きだ」
一条は真下をそっと抱き締める。その手は今までないくらいに優しかった。
塔矢だ。またゼミ終わりにやって来た。塔矢の姿を見て、立ち上がりズンズン迫っていくのは一条だ。
「おい塔矢。てめぇ、ちょっと話がある」
「は? 浮気野郎と話すことなんてないけど」
うわぁ。本人に向かってはっきり言うなよ! 皆コソコソ噂をしてたのに。
「うるせぇ! ちょっと来い!」
「わかったよ。二股どころじゃないんだろ? 本当は何股かけてたのか聞かせろよ」
「塔矢、俺にぶっ殺されてぇの? これ以上俺を陥れるな!」
「何言ってんの? 全部お前が悪いんじゃん」
一触即発の空気のまま、一条と塔矢の二人はゼミの教室を出て行く。
嫌な予感しかない。
二人のことが心配で、真下も二人の後を追う。
二人は大学構内の、人気のない場所で対峙していた。傍目で険悪な雰囲気が伝わってくる。
「あの日、舞美をそそのかして俺の部屋に行くようけしかけたのは塔矢、お前だろ?! ふざけんなよ!」
やっぱり。眼鏡と黒マスクの男は塔矢だったんだ。
「俺ね、誰にでもいい顔する奴、好きじゃない。知らねぇの? 恋人ってひとりだけなんだよっ。誰彼構わず関係を持ちたいなんて盛ってんじゃねぇよ! クズ野郎が!」
うわ、どうすればいい。なんとかこの場を収めたい。
「一条、もうお前の味方なんていない。お前と付き合いたい奴なんていねぇから。ひとり寂しく泣いてろよ!」
塔矢の罵声に一条は反撃の言葉を詰まらせた。
「一条。お前だけは許さない。これでもまだわからないなら、今度はお前のSNSをめちゃくちゃにしてやる!」
塔矢……! そこまでしなくても……。
「お前がチヤホヤされるのは、見た目が理由だろ? お前には顔しかない。性格腐ってんだからよ! だったら俺がその顔をぶち壊してやろうか?」
一条の見た目に惹かれたのもあるけど、明るくていい奴だと中身にも惹かれたのは事実だ。真下は最初に一条を好きになった時のことを思い出した。
「死ねよクズ。マジで今すぐここでそのムカつく顔をフルボッコにしてやるっ!」
「塔矢! やめろ!」
もう黙っていられない。真下は塔矢と一条の間に割って入った。
「どけっ! 真下っ! 俺はこいつをぶっ殺してやるっ!」
塔矢の勢いは止まらない。
「塔矢、やめてよ。もういいから……」
もう十分だ。これ以上塔矢が一条に手を下す必要なんてない。
塔矢はチッと舌打ちした。
「わかったよ。真下がそう言うならやめる。一条覚えとけよ! 今度ふざけた真似をしたらマジでぶっ殺す!」
捨て台詞のように塔矢はそう言い残し、憤慨したままその場からさっさといなくなってしまった。
「真下……」
一条が力なく真下の名前を呼んだ。
「ごめん。お前を散々傷つけた」
しおらしく謝ってくる一条に「もういいよ」と声をかけてやる。心からそう思ってる。一条の行為は悪いことだと思うが、今の真下にとってはもう過去の話だ。
「ありがとな。俺を庇ってくれて」
「別に一条を庇ってなんかないよ」
「いや。助かった。真下、お前やっぱり優しくていい奴だな。俺がこうやってひとりきりになったときに、俺に手を差し伸べてくれたのはお前だけだ」
さすがの一条も、塔矢の猛攻に参ってたんだ。二股野郎だと噂をされていることを知りながら、ゼミにちゃんと顔を出したのもきっとかなり無理をしていたんだろう。
「それなのにお前を選ばないなんて、お前だけを愛さなかったなんて間違ってた。真下がもしまだ俺を少しでも好きでいてくれるなら、こんな俺を許してくれるなら、お前とこのまま恋人でいさせて欲しい。そして今度こそお前を大切にする。お前だけを好きでいさせてくれ。だから俺のそばにいてくれないか?」
一条は必死で真下に訴えてくる。ここ数日、塔矢のせいで辛かったのだろう。その目に少し涙が滲んでる。
「真下。大好きだ」
一条は真下をそっと抱き締める。その手は今までないくらいに優しかった。
119
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています



好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

突然現れたアイドルを家に匿うことになりました
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。
凪沢優貴(20)人気アイドル。
日向影虎(20)平凡。工場作業員。
高埜(21)日向の同僚。
久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる