5 / 12
5.反撃
しおりを挟む
真下side
真下が塔矢に相談をしてから数日後。
ゼミで一条と会った。でも一条の態度は相変わらずだ。恋人なのだから、少しはアイコンタクトくらいしてくれてもいいのにと思うが、一条と視線すら合わない。
「まーしたっ!」
ゼミの教室の入り口で、笑顔で真下を呼ぶのは塔矢だ。
「塔矢?! どうした?!」
塔矢がここまで来るとは思わずに、真下はまさかと目をしばたかせる。
「あ! 塔矢くん!」
ゼミの皆も塔矢のもとに集まってくる。なぜかというと塔矢の初主演映画がクランクアップしたと今朝のニュースで取り上げられていたからだ。塔矢はTVで期待の新人俳優と紹介されていた。一躍時の人だ。
「TV見たよ! すごいねー!」
あっという間に人だかりだ。塔矢はそれを適当にありがとうありがとうとあしらって、真下のそばにやって来た。
「真下、もう帰る?」
「う、うん……まぁ……」
「じゃあ俺に付き合ってよ。一緒に映画観に行かない?」
塔矢は真下に向かって言うのだが、その視線は近くにいた一条も同時に捉えている。
「お前言ってたじゃん。誰かのせいで見逃した映画があるって」
塔矢の言葉に一条がぴくりと反応した。塔矢も塔矢で、一条を見てキッと睨みつける。
「そういうクズ野郎はこっちから願い下げだろ。インスタもリムれ! 何が明治神宮で初詣だよ。どーでもいいわ」
塔矢やめろ。一条は誰のことを言ってるのか気がついたみたいだ。一条のイライラがこっちまで伝わってくる。
一条の顔色を伺おうと真下が一条の方を見ようとしたら、塔矢がそれを身体で阻止する。
「行こうぜ、真下!」
塔矢は強い力で真下を引っ張っていく。まるで強制連行だ。
「塔矢っ! いい加減離せよっ!」
「ダメだ。あと少しだけ我慢しろっ」
塔矢はゼミの教室があった建物が見えなくなるところまで行ってやっと真下を解放してくれた。
「真下。スマホを見てみろ。あいつから連絡来たか?!」
塔矢に言われてスマホを確認する。塔矢の言う通り、一条からのLINEが届いている。
『真下。今日の夜、俺の部屋に来てくれないか?』
一条からの誘いなんて、滅多にないのに一体どういうことだ?!
「貸せ」
塔矢は真下のスマホを奪い、勝手に操作している。
「おい、塔矢っ! 何してんだよ!」
「これでよし」
塔矢にスマホを返され、何をしたんだとスマホの画面を確認すると、塔矢は勝手に一条にLINEを送っていた。
『他の女を連れ込んだ部屋に誰が行くかよバーカ!』
しかも既読になってる……。今さら送信取消しても一条に見られた後だ。
「塔矢、お前さぁ……」
塔矢の行動に呆れるが、塔矢はなんだか嬉しそうだ。他人事だと思って楽しんでるのか。
「大丈夫だよ。一条は今頃お前を俺に取られたと思ってるだけだから。釣った魚に餌はやらないような奴みたいだけど、奪われた宝は取り返しにくる。人に奪われると思ったら急に惜しくなるってのはよくある話だろ?」
塔矢は何をしたいんだよ……。
「さてと。真下、どうする? さっきのは一条を焚き付けるための嘘だから、お前はこのまま帰っていいけど、本当に俺と映画、観に行っちゃう?」
塔矢はニヤッと笑っている。その笑顔を見て思い出した。塔矢は思ったことをはっきり表現するような奴だったなと。
「うん。行く。あの映画本当に観たかったから」
「お! いいね! 早速座席予約する」
塔矢はスマホであっという間に予約をしてみせる。
「早いな」
「俺ね、映画好きでしょっちゅう予約してるから」
そうだった。塔矢は演劇バカだった。観るのも演じるのもどちらも好きだったなと思い出した。
真下が塔矢に相談をしてから数日後。
ゼミで一条と会った。でも一条の態度は相変わらずだ。恋人なのだから、少しはアイコンタクトくらいしてくれてもいいのにと思うが、一条と視線すら合わない。
「まーしたっ!」
ゼミの教室の入り口で、笑顔で真下を呼ぶのは塔矢だ。
「塔矢?! どうした?!」
塔矢がここまで来るとは思わずに、真下はまさかと目をしばたかせる。
「あ! 塔矢くん!」
ゼミの皆も塔矢のもとに集まってくる。なぜかというと塔矢の初主演映画がクランクアップしたと今朝のニュースで取り上げられていたからだ。塔矢はTVで期待の新人俳優と紹介されていた。一躍時の人だ。
「TV見たよ! すごいねー!」
あっという間に人だかりだ。塔矢はそれを適当にありがとうありがとうとあしらって、真下のそばにやって来た。
「真下、もう帰る?」
「う、うん……まぁ……」
「じゃあ俺に付き合ってよ。一緒に映画観に行かない?」
塔矢は真下に向かって言うのだが、その視線は近くにいた一条も同時に捉えている。
「お前言ってたじゃん。誰かのせいで見逃した映画があるって」
塔矢の言葉に一条がぴくりと反応した。塔矢も塔矢で、一条を見てキッと睨みつける。
「そういうクズ野郎はこっちから願い下げだろ。インスタもリムれ! 何が明治神宮で初詣だよ。どーでもいいわ」
塔矢やめろ。一条は誰のことを言ってるのか気がついたみたいだ。一条のイライラがこっちまで伝わってくる。
一条の顔色を伺おうと真下が一条の方を見ようとしたら、塔矢がそれを身体で阻止する。
「行こうぜ、真下!」
塔矢は強い力で真下を引っ張っていく。まるで強制連行だ。
「塔矢っ! いい加減離せよっ!」
「ダメだ。あと少しだけ我慢しろっ」
塔矢はゼミの教室があった建物が見えなくなるところまで行ってやっと真下を解放してくれた。
「真下。スマホを見てみろ。あいつから連絡来たか?!」
塔矢に言われてスマホを確認する。塔矢の言う通り、一条からのLINEが届いている。
『真下。今日の夜、俺の部屋に来てくれないか?』
一条からの誘いなんて、滅多にないのに一体どういうことだ?!
「貸せ」
塔矢は真下のスマホを奪い、勝手に操作している。
「おい、塔矢っ! 何してんだよ!」
「これでよし」
塔矢にスマホを返され、何をしたんだとスマホの画面を確認すると、塔矢は勝手に一条にLINEを送っていた。
『他の女を連れ込んだ部屋に誰が行くかよバーカ!』
しかも既読になってる……。今さら送信取消しても一条に見られた後だ。
「塔矢、お前さぁ……」
塔矢の行動に呆れるが、塔矢はなんだか嬉しそうだ。他人事だと思って楽しんでるのか。
「大丈夫だよ。一条は今頃お前を俺に取られたと思ってるだけだから。釣った魚に餌はやらないような奴みたいだけど、奪われた宝は取り返しにくる。人に奪われると思ったら急に惜しくなるってのはよくある話だろ?」
塔矢は何をしたいんだよ……。
「さてと。真下、どうする? さっきのは一条を焚き付けるための嘘だから、お前はこのまま帰っていいけど、本当に俺と映画、観に行っちゃう?」
塔矢はニヤッと笑っている。その笑顔を見て思い出した。塔矢は思ったことをはっきり表現するような奴だったなと。
「うん。行く。あの映画本当に観たかったから」
「お! いいね! 早速座席予約する」
塔矢はスマホであっという間に予約をしてみせる。
「早いな」
「俺ね、映画好きでしょっちゅう予約してるから」
そうだった。塔矢は演劇バカだった。観るのも演じるのもどちらも好きだったなと思い出した。
122
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
突然現れたアイドルを家に匿うことになりました
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。
凪沢優貴(20)人気アイドル。
日向影虎(20)平凡。工場作業員。
高埜(21)日向の同僚。
久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。
俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる