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王妃の資質
1.
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「ユリス様。色気が駄々漏れですよ。気をつけてください」
カイルとふたりで朝食を食べたあと、自分の部屋に戻ってきたら、ナターシャに厳しい顔でそう指摘された。
「ふぁ?」
王妃になってからというもの、毎晩カイルに抱かれている。
アルファの精力はすごい。ユリスは毎晩めいいっぱい愛されてしまうので、朝になってもオメガのフェロモンがふわふわと漂っているのかもしれない。
「今のユリス様は危険です。あまり外に出歩かず、このお部屋で休まれたらいかがですか?」
「そうなのか。私も少し疲れたし、今日は眠ろうかな」
毎晩の夜伽のせいで寝不足だ。足元がフラフラするし、なぜかひと肌恋しくてナターシャに寄りかかった。
「ユリス様ったら、どうしたんですか?」
「ううん……少しだけ……」
「甘えたくなっちゃったんですか? 私はオメガですからそのお気持ちわかります。フェロモン量が増えてくると、オメガは誰かにくっつきたくなる生き物なんですよね。私はユリス様を襲ったりしませんからたくさん甘えてください」
ナターシャはユリスと同じくソファに座り、ユリスの身体を抱き締めて慰めてくれた。
「本当ならアルファにそばにいてもらえたらいいんですけど、カイル様は御公務がありますものね」
そうなのだ。夜は一緒にいられるが、昼間はカイルはいつも忙しない。まさか公務中までカイルにベタベタすることなどできないから、フェロモン量が増えてしまったときは、こうして部屋で従者に甘えている。
「ユリス様! カイル様からお借りしてきました!」
嬉々としてやってきたのはリュークだ。リュークの手には絢爛なブルーの衣服が握られている。そこからはユリスの大好きなアルファの匂いがする。
「リューク! 早くそれでユリス様を包んであげて!」
従者ふたりにカイルの服を身体に巻き付けられた。
ああ、気分が急に和らいでいく。この服はカイルの匂いがする。
「ユリス様、大丈夫ですか? これでなんとかしのいでくださいね!」
「ありがとうリューク。これならよく眠れそうだ」
服を貸してくれたカイルにも、借りに行ってくれたリュークにも感謝したい。
「ユリス様、少し横になってくださいっ、ユリス様のお身体に何かあったら大変ですからっ」
「うん……」
ユリスはナターシャに頬ずりする。
「ほらほら、私にくっついてばかりで……可愛すぎますよ。ベッドまで付き添いますから、少しだけ頑張ってくださいっ」
「ナターシャぁ……」
ユリスはナターシャとリュークに寄り添われながらベッドにたどり着き、カイルの服を抱き締めながら床につく。
最近はフェロモン量が多い日も増え、休んでばかりだ。
城にはアルファが大勢働いているし、フェロモンをまき散らすオメガがいると迷惑をかけてしまうので、ユリスは部屋に引きこもる。
カイルはきちんと務めを果たしているのに、ユリスはこうして休んでばかりだ。抑制薬をやめてもいっこうにヒートは訪れないし、すっかり役立たずの王妃に成り下がっている。
代々の王妃は、城の女性たちの秩序を守るために指導したり、取りまとめ役として人を招いてお茶会を開催したりするものらしい。
ユリスは人の上に立った経験がないし、体調も芳しくないため、そのどちらもできていない。
カイルと共に他の国や地方貴族のパーティーに呼ばれたら同行しなければならないのに、この前は体調不良のためカイルひとりでのパーティー参加となり、新王妃に会えると思っていた人々からは落胆の声を聞かされた。
このままでは何もできない駄目王妃の烙印を押されてしまう。
カイルとふたりで朝食を食べたあと、自分の部屋に戻ってきたら、ナターシャに厳しい顔でそう指摘された。
「ふぁ?」
王妃になってからというもの、毎晩カイルに抱かれている。
アルファの精力はすごい。ユリスは毎晩めいいっぱい愛されてしまうので、朝になってもオメガのフェロモンがふわふわと漂っているのかもしれない。
「今のユリス様は危険です。あまり外に出歩かず、このお部屋で休まれたらいかがですか?」
「そうなのか。私も少し疲れたし、今日は眠ろうかな」
毎晩の夜伽のせいで寝不足だ。足元がフラフラするし、なぜかひと肌恋しくてナターシャに寄りかかった。
「ユリス様ったら、どうしたんですか?」
「ううん……少しだけ……」
「甘えたくなっちゃったんですか? 私はオメガですからそのお気持ちわかります。フェロモン量が増えてくると、オメガは誰かにくっつきたくなる生き物なんですよね。私はユリス様を襲ったりしませんからたくさん甘えてください」
ナターシャはユリスと同じくソファに座り、ユリスの身体を抱き締めて慰めてくれた。
「本当ならアルファにそばにいてもらえたらいいんですけど、カイル様は御公務がありますものね」
そうなのだ。夜は一緒にいられるが、昼間はカイルはいつも忙しない。まさか公務中までカイルにベタベタすることなどできないから、フェロモン量が増えてしまったときは、こうして部屋で従者に甘えている。
「ユリス様! カイル様からお借りしてきました!」
嬉々としてやってきたのはリュークだ。リュークの手には絢爛なブルーの衣服が握られている。そこからはユリスの大好きなアルファの匂いがする。
「リューク! 早くそれでユリス様を包んであげて!」
従者ふたりにカイルの服を身体に巻き付けられた。
ああ、気分が急に和らいでいく。この服はカイルの匂いがする。
「ユリス様、大丈夫ですか? これでなんとかしのいでくださいね!」
「ありがとうリューク。これならよく眠れそうだ」
服を貸してくれたカイルにも、借りに行ってくれたリュークにも感謝したい。
「ユリス様、少し横になってくださいっ、ユリス様のお身体に何かあったら大変ですからっ」
「うん……」
ユリスはナターシャに頬ずりする。
「ほらほら、私にくっついてばかりで……可愛すぎますよ。ベッドまで付き添いますから、少しだけ頑張ってくださいっ」
「ナターシャぁ……」
ユリスはナターシャとリュークに寄り添われながらベッドにたどり着き、カイルの服を抱き締めながら床につく。
最近はフェロモン量が多い日も増え、休んでばかりだ。
城にはアルファが大勢働いているし、フェロモンをまき散らすオメガがいると迷惑をかけてしまうので、ユリスは部屋に引きこもる。
カイルはきちんと務めを果たしているのに、ユリスはこうして休んでばかりだ。抑制薬をやめてもいっこうにヒートは訪れないし、すっかり役立たずの王妃に成り下がっている。
代々の王妃は、城の女性たちの秩序を守るために指導したり、取りまとめ役として人を招いてお茶会を開催したりするものらしい。
ユリスは人の上に立った経験がないし、体調も芳しくないため、そのどちらもできていない。
カイルと共に他の国や地方貴族のパーティーに呼ばれたら同行しなければならないのに、この前は体調不良のためカイルひとりでのパーティー参加となり、新王妃に会えると思っていた人々からは落胆の声を聞かされた。
このままでは何もできない駄目王妃の烙印を押されてしまう。
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