暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

裏切り

5.

「陛下。北方の地から密入国者が七名おり、捕らえて牢獄に閉じ込めております。我が国への亡命を希望しているようですが、いかがいたしましょう」
「状況を詳しく話せ」

　堂々たる姿で玉座に座り、北方から来た騎士の話に耳を傾けるカイル。

「またオメガの亡命希望か……。まずは全員を牢獄から出して丁重に扱え。明日自分の身がどうなるかもわからない拘束された状況では本音も話せまい。その上で再度話を聞け。バラディスにもこの件について話をしよう。親書をしたためる。準備しろ」
「かしこまりました」

　ヒイラはカイルの指示に従って動きだす。
　ユリスはそれを端に控えて見ているのだが、カイルには本当に惚れ惚れする。ふたりきりのときの甘い顔じゃない、引き締まった表情にも魅了される。



「失礼いたします！　陛下！　レオンハルト王が謁見を求めていらっしゃいました！」

　城の門番をしている兵士からの突然の報告がきた。

「通せ」

　カイルはレオンハルトが来ると言っていたが、まさか本当に西国ケレンディアを訪れるとは。レオンハルトがこの地を踏むのは初めてのことだ。


「よくぞここまで来たな」

　カイルは玉座を降り、レオンハルトのもとへと歩み寄る。

「煽るようにして私を呼びつけるなど、余程のことなのだろう？　まさか戦争でも起こす気か？」

　レオンハルトは胡乱な目をカイルに向けた。
　レオンハルトの後ろには護衛が大勢控えている。余程カイルを警戒しているようだ。

「これは東西の和平のためになるかもしれんぞ。お前の態度次第ではな。ついて来い。ふたりで話をしよう」

　一方のカイルは余裕だ。レオンハルトに背を向けて先を歩くくらい、わけないことのようだ。

「ユリスもおいで」

　カイルに呼ばれて、ユリスはおずおずと前に出る。
　カイルのもとへ近づこうとしたとき、レオンハルトと目が合った。レオンハルトの冷ややかな視線がユリスに刺さる。
　レオンハルトに見られただけで身体が震え出した。

　カイルの庇護のもと、お前ばかり守られて、国を見捨てた裏切り者だと責められるのは怖い。それによって家族が断罪されるのはもっと怖い。

「大丈夫だ」

　カイルがユリスの耳元で囁いた。
　たったそれだけの言葉でこんなにも安心するのはどうしてだろう。
　カイルはユリスのすぐ隣を歩いてくれる。
　ユリスはカイルをもっとそばに感じたくて、カイルのマントの裾をぎゅっと握った。