3 / 44
3.仕返し
しおりを挟む
「神乃。今日、決行するぞ」
自宅マンションで、富永は高級スーツに身を包み、スイス製の高級腕時計HUBLOT《ウブロ》のビック・バンを装着する。長身で顔立ちの恐ろしく整った男が質の良いものを身に付けていると、まるで雑誌のモデルみたいに完璧だ。
富永の行動力はすごい。神乃が仁井の家を出てから僅か一週間で復讐の決行を決めた。
神乃は適当な服を着て、富永と二人、富永の愛車のBMWに乗り込んだ。
目的地は仁井行きつけの店だ。仁井は会社の帰りによくクラフトビールの専門店に立ち寄る習慣がある。神乃もクラフトビール好きで、そこは仁井と気が合うところだった。
「行くぞ」
富永と二人目配せをして頷き合う。そして富永は店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」という店員の声を聞きながら、空いている席を探しているフリをしながら仁井の位置を確認する。
いた!
仁井はカウンターで一人座っている。
だが神乃は仁井に気づかない素振りをして4人掛けのテーブル席、仁井の視界に十分入る場所を選択する。
席についた神乃がビールを注文し、口をつけた辺りで富永が行動を開始する。富永は運転手なのでビールは頼んでいない。完全なる神乃の付き添いだ。
「なぁ。神乃。よかったらこれ、貰ってくれないか?」
富永が鞄から取り出したのは、ルイヴィトンの小さな紙袋だ。
「こんな高価なものは貰えないよ。俺、お前に何もしてやれてないし……」
お世話になっているのは神乃の方だ。
「お前に似合いそうだなって思って買ったんだ。お前の財布、少し古くなってただろ? 遠慮なんか要らない。使ってくれ」
神乃が今使っている財布は使用して二年以上が経過している。仁井とお揃いで買った黒の皮財布で、確かに傷だらけだし、形もすっかり歪んでしまっている。
「でも……」
「神乃。頼む! 俺からのプレゼントを受け取ってくれ!」
富永の声のボリュームが大きいので、他の客も何事かと振り返った。そのうちの一人に仁井がいた。
仁井は神乃の存在に気がついたようで、徐にこちらにやってくる。
「よぉ、神乃! お前も来てたのか!」
あんな事があった後でも仁井は気さくに神乃に声をかけてきた。その図太い神経どうかしている。
仁井は手に持っていたビールをテーブルに置いて、神乃の隣の席に座ろうとする。
「待てよ」
富永は立ち上がり、そんな仁井を牽制した。
「俺の連れに気安く話しかけるなよ」
仁井を睨みつけ、神乃を庇うように腕を伸ばして富永は二人の間に割って入る。
「はぁ? 何言ってんだ。こいつは俺の同居人だよ。三年も一緒に暮らしてる。な? 神乃」
神乃の事をあんなに罵っておいて、それでも仁井はまだ神乃との関係性が続いていると思っているのか。そのめでたい頭に辟易する。
「仁井。俺達もう終わってるだろ」
神乃は事実を理解できていない仁井に冷ややかな視線を向けた。
「お前が仁井か!」
富永は今知ったかのような態度でわざと驚いて見せている。
「仁井。お前の悪業は全部聞いた。そして神乃は俺の恋人だ。今は俺と一緒に暮らしてる」
「え?! 神乃! お前もう恋人ができたのか?!」
仁井は富永の言葉に瞠目し、信じられないといった表情で神乃を見てきた。
「そうだ。お前に捨てられて、今はこの人と付き合ってる」
「嘘だろ?!」
「本当だよ。お前よりも優しくて俺には勿体ないくらいの人だ」
仁井は富永を値踏みするように見た。高身長イケメン、高級スーツに腕にはHUBLOTのビック・バン。ちなみにこの高級腕時計は仁井の憧れのブランドの時計だ。
見た目だけでも既に仁井は富永に完敗だろう。
「仁井、お前は一番の女と仲良くやってろよ。別れてお互い幸せになれて良かったな」
神乃は席を立ち、仁井を一瞥し、店を出ようとする。そんな神乃を優しく富永がエスコートする。仁井から見たら、神乃は金持ちイケメンを従えているように映っていることだろう。
富永は「騒がしくてすみません。ここにいる皆さんの分もお支払いします」と店長に沢山の一万円札を握らせて、神乃の後に店を出た。
店を出て、二人はその場に留まる。すると二人の思惑通り「神乃っ! 待ってくれ!」と慌てて仁井が店から飛び出してきた。その姿を見て仁井の方を振り返る。
「お前は知らないと思うけど、あれから俺は藍羅と別れたんだよっ」
藍羅と別れた……? その事実は神乃は知らなかった。
「浮気して悪かった! もうしない! 謝るから戻ってきてくれ!」
仁井は必死な顔で訴えてきた。
「お前がいなくなってから家もめちゃくちゃでさ……。家事って地味に大変なんだな。今まで全部やってくれてたお前に心から感謝するよ。これからは俺も手伝うから、また一緒に暮らそう。な? 神乃?」
今の俺には富永というハイスペック新恋人がいると知って、よく寄りを戻そうなんて言えるなと呆れてしまう。……まぁ、本当は恋人のフリをしているだけなのだが。
「浮気して、散々俺の事をコケにした奴のことなんて信じられるわけないだろ」
「頼むよ。お前を大切にしなかった俺がバカだった。何度でも謝る。許してくれっ! 俺の元に帰ってきてくれ! 好きだっ神乃っ! 愛してるから……」
何を今さら。付き合ってる時には言いもしなかった「好き」だの「愛してる」だの叫んでるんだよ……。
しかもみっともなく仁井は泣き出した。
「さっき言っただろ? 俺にはもう恋人が出来たんだ。お前と寄りを戻すなんてことはあり得ないんだよ。じゃあな!」
仁井に背をむけ、その場を立ち去った。
自宅マンションで、富永は高級スーツに身を包み、スイス製の高級腕時計HUBLOT《ウブロ》のビック・バンを装着する。長身で顔立ちの恐ろしく整った男が質の良いものを身に付けていると、まるで雑誌のモデルみたいに完璧だ。
富永の行動力はすごい。神乃が仁井の家を出てから僅か一週間で復讐の決行を決めた。
神乃は適当な服を着て、富永と二人、富永の愛車のBMWに乗り込んだ。
目的地は仁井行きつけの店だ。仁井は会社の帰りによくクラフトビールの専門店に立ち寄る習慣がある。神乃もクラフトビール好きで、そこは仁井と気が合うところだった。
「行くぞ」
富永と二人目配せをして頷き合う。そして富永は店の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」という店員の声を聞きながら、空いている席を探しているフリをしながら仁井の位置を確認する。
いた!
仁井はカウンターで一人座っている。
だが神乃は仁井に気づかない素振りをして4人掛けのテーブル席、仁井の視界に十分入る場所を選択する。
席についた神乃がビールを注文し、口をつけた辺りで富永が行動を開始する。富永は運転手なのでビールは頼んでいない。完全なる神乃の付き添いだ。
「なぁ。神乃。よかったらこれ、貰ってくれないか?」
富永が鞄から取り出したのは、ルイヴィトンの小さな紙袋だ。
「こんな高価なものは貰えないよ。俺、お前に何もしてやれてないし……」
お世話になっているのは神乃の方だ。
「お前に似合いそうだなって思って買ったんだ。お前の財布、少し古くなってただろ? 遠慮なんか要らない。使ってくれ」
神乃が今使っている財布は使用して二年以上が経過している。仁井とお揃いで買った黒の皮財布で、確かに傷だらけだし、形もすっかり歪んでしまっている。
「でも……」
「神乃。頼む! 俺からのプレゼントを受け取ってくれ!」
富永の声のボリュームが大きいので、他の客も何事かと振り返った。そのうちの一人に仁井がいた。
仁井は神乃の存在に気がついたようで、徐にこちらにやってくる。
「よぉ、神乃! お前も来てたのか!」
あんな事があった後でも仁井は気さくに神乃に声をかけてきた。その図太い神経どうかしている。
仁井は手に持っていたビールをテーブルに置いて、神乃の隣の席に座ろうとする。
「待てよ」
富永は立ち上がり、そんな仁井を牽制した。
「俺の連れに気安く話しかけるなよ」
仁井を睨みつけ、神乃を庇うように腕を伸ばして富永は二人の間に割って入る。
「はぁ? 何言ってんだ。こいつは俺の同居人だよ。三年も一緒に暮らしてる。な? 神乃」
神乃の事をあんなに罵っておいて、それでも仁井はまだ神乃との関係性が続いていると思っているのか。そのめでたい頭に辟易する。
「仁井。俺達もう終わってるだろ」
神乃は事実を理解できていない仁井に冷ややかな視線を向けた。
「お前が仁井か!」
富永は今知ったかのような態度でわざと驚いて見せている。
「仁井。お前の悪業は全部聞いた。そして神乃は俺の恋人だ。今は俺と一緒に暮らしてる」
「え?! 神乃! お前もう恋人ができたのか?!」
仁井は富永の言葉に瞠目し、信じられないといった表情で神乃を見てきた。
「そうだ。お前に捨てられて、今はこの人と付き合ってる」
「嘘だろ?!」
「本当だよ。お前よりも優しくて俺には勿体ないくらいの人だ」
仁井は富永を値踏みするように見た。高身長イケメン、高級スーツに腕にはHUBLOTのビック・バン。ちなみにこの高級腕時計は仁井の憧れのブランドの時計だ。
見た目だけでも既に仁井は富永に完敗だろう。
「仁井、お前は一番の女と仲良くやってろよ。別れてお互い幸せになれて良かったな」
神乃は席を立ち、仁井を一瞥し、店を出ようとする。そんな神乃を優しく富永がエスコートする。仁井から見たら、神乃は金持ちイケメンを従えているように映っていることだろう。
富永は「騒がしくてすみません。ここにいる皆さんの分もお支払いします」と店長に沢山の一万円札を握らせて、神乃の後に店を出た。
店を出て、二人はその場に留まる。すると二人の思惑通り「神乃っ! 待ってくれ!」と慌てて仁井が店から飛び出してきた。その姿を見て仁井の方を振り返る。
「お前は知らないと思うけど、あれから俺は藍羅と別れたんだよっ」
藍羅と別れた……? その事実は神乃は知らなかった。
「浮気して悪かった! もうしない! 謝るから戻ってきてくれ!」
仁井は必死な顔で訴えてきた。
「お前がいなくなってから家もめちゃくちゃでさ……。家事って地味に大変なんだな。今まで全部やってくれてたお前に心から感謝するよ。これからは俺も手伝うから、また一緒に暮らそう。な? 神乃?」
今の俺には富永というハイスペック新恋人がいると知って、よく寄りを戻そうなんて言えるなと呆れてしまう。……まぁ、本当は恋人のフリをしているだけなのだが。
「浮気して、散々俺の事をコケにした奴のことなんて信じられるわけないだろ」
「頼むよ。お前を大切にしなかった俺がバカだった。何度でも謝る。許してくれっ! 俺の元に帰ってきてくれ! 好きだっ神乃っ! 愛してるから……」
何を今さら。付き合ってる時には言いもしなかった「好き」だの「愛してる」だの叫んでるんだよ……。
しかもみっともなく仁井は泣き出した。
「さっき言っただろ? 俺にはもう恋人が出来たんだ。お前と寄りを戻すなんてことはあり得ないんだよ。じゃあな!」
仁井に背をむけ、その場を立ち去った。
55
お気に入りに追加
779
あなたにおすすめの小説
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
たしかに私は『聞き上手令嬢』ですが、何でも言うことを聞くだなんて誤解ですわよ?
来住野つかさ
恋愛
シンシアは静かに怒っていた。目の前の男が、『自分と婚約した暁には浮気を了承し、婚姻後、伯爵家の仕事は全て君に任せたい』などとふざけたことを言ってきたからだ。たしかに私は『聞き上手令嬢』と呼ばれ、人の話をよく聞きますが、何でも言うことを聞くとは言ってませんけど? 反論しようにも、先に話すのは僕だ、と言って悦に入った顔で滔々と戯言を述べている男は止まらない。次のターンでは絶対反撃してやる! あの方が来る前に······。
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました
との
恋愛
「有罪判決を受けた貴様とは婚約破棄だ!」
大勢の生徒が見守る中で行われた突然の婚約破棄⋯⋯不貞行為による有罪判決が出たのが理由だと言われたが、身に覚えのないシャーロットは呆然としたまま学園を強制的に追い出されてしまう。
不貞がらみの婚約破棄が横行し他国から散々笑いものになったこの国は、前国王時代から不貞・不倫は重罪とされ悪質な場合は終身刑になることも⋯⋯。
人見知りで引っ込み思案、友達ゼロでコミュ障のシャーロットは両親と妹に騙され女子収容所にドナドナされたが、冤罪を認めさせて自由を取り戻す事だけを目標に過酷な強制労働二年を耐えた。
(18歳になったら離籍して冤罪を証明してみせるから!!)
辛い収容所生活を耐え抜いたシャーロットだが、出所前日に両親と妹の借金返済のために会ったこともない伯爵と結婚させられていた事を知る。
収容所で鍛えられたシャーロットはどんな虐めにも負けない強さを身につけて⋯⋯。
「ふふっ、それが虐めだなんて手ぬるいですわ」
「女子収容所帰りを舐めてもらっては困りますわね」
冤罪をする為に立ち上がった⋯⋯人生を賭けたシャーロットのひとりぼっちの戦いに参戦してきたのは勝手に結婚させられていた相手ジェローム。
当初は『クソ野郎』だったはずなのに、いつの間にかデレデレに甘やかそうとするジェロームに少しずつ絆されていくシャーロット。
妹の起こした不倫騒ぎは隣国を巻き込みあわや戦争勃発かという騒ぎになったが、いつしか周りには最恐の仲間が最強の布陣を敷いてシャーロットを手助けてくれるようになっていく。
(一人じゃない。仲間が支えてくれるんだもの、絶対に負けないわ)
「なんならあなたに貞操帯をつけようかしら」
「は、母上!」
「あら、終日シャーロットと一緒にいて手を出さないと誓えるのかしら?」
「それは⋯⋯状況によりますし」
「信用できないわ。だって、アーサーの息子ですもの」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
26日(日)完結します。ありがとうございます
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる