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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑨.2

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 あ、キスされる、と思った瞬間、手刀のように目の前に白石の手が割り込んできた。

「玄野。吉良はお前がいつも遊んでる子たちとは違うんだ。簡単に手を出すな」

 白石の目は本気だ。全っ然、笑っていない。

「なんだよいいじゃん、キスくらい」
「くらい? どこがくらいだよ。吉良の許可なしにしていいことじゃない」

 さすが白石は委員長だ。友人間でも規律やルールを大切にしたいのだろう。

 そこからふたりは、「お前は軽すぎる!」「お前が奥手すぎるんだよ!」と仲の良さそうなケンカをし始めた。

 ——このふたり、ケンカップルかな。

 吉良は言い合うふたりを一歩引いた目で眺めている。
 思えばチャラい見た目の陽キャ玄野と、第一ボタンまできっちり締める委員長白石が親友だなんて面白い組み合わせだ。

「ふたりとも、そのくらいにしろよ。ふたりは正反対だもんな。なのに仲がいい。なんか気が合うところがあんの?」

 ふたりを結びつけているものはなんだろう。実は共通の趣味があったりするのだろうか。
 吉良が口を挟むと、ふたりは一斉に吉良のほうを向いた。

「恋愛の趣味が一緒なんだよ」
「そう。好きになるタイプが同じなんだ」
「えっ……! そ、そうなんだ……」

 気のせいだろうか。ふたりからものすごい圧を感じる。

「でも、その人はひとりしかいない」

 白石はなぜか吉良の手をとり、握りしめる。

「もうさ、いっそシェアするしかないって俺は思ってる」

 玄野は吉良に身体を寄せ、さりげなく腰を抱く。

「ど、どうなんだろう……恋人って普通ひとりだけかな、なんて思うけど……」
「男同士なら結婚することもないし、真ん中の人さえ頷いてくれれば三人もありじゃね?」
「さ、さぁ……」

 気がつけば、吉良はまた玄野と白石に挟まれて、左右から迫られている。

「吉良は? そういうの、どう思う?」

 白石に耳元で囁かれ、そのセクシーな吐息にゾクゾクする。

「さ、三人かぁー……」

 男三人だと、吉良、白石、玄野のうち、真ん中の人っていったい誰のことなんだろうと吉良は考える。 

 この状況からして、真ん中の人はきっと——。

「白石は……?」 

 吉良は白石のほうへと視線を向ける。 

「白石は、それでいいの?」

 白石の気持ちを聞いてみたい。そのあたり、どう思っているのだろう。
 三人ということは、真ん中の人はふたりで常に半分こ。それってさみしく思うことはないのだろうか。 

「俺は……」

 瞳を揺らし白石は少し考えたあと、言葉を続けた。

「選ばれないくらいなら、それでもいい……。手に入らないより、誰かとシェアしてでも一緒にいられるほうがいい」

 半ば諦めたような表情。いつも穏やかで笑顔な白石にしては珍しいなと思った。

「へぇ。それでいいんだ……」

 なんだろう。このモヤモヤする気持ちは。白石のはっきりしない物言いに、吉良の胸がぎゅうっと掴まれたみたいに痛みを覚える。

「白石は、目の前で俺と玄野が抱き合ってても気にしねぇの? 俺がいいって言ったら、玄野とキスしてもいいんだ……」

 吉良はうつむき、密かに唇を噛み締める。
 白石はきっと友情を重んじるタイプなのだろう。
 玄野のことも大切に思っているようだし、吉良に対しての優しさも、きっと友達だからだ。
 何の言葉も返してこない白石。どんな表情をしているのだろうと吉良が顔を上げようとしたときだ。

「吉良!」
「わわっ!」

 背後から急に玄野に抱きつかれた。しかも玄野は吉良の両膝の裏に腕を入れ、吉良を横抱きにして自分の膝の上に座らせる。

「えっ、何ッ? く、玄野っ?」
「可愛い~っ、きーらちゃんっ」
「吉良ちゃんッ?」

 いきなりなんなんだと、吉良には玄野の行動の意味がわからない。

「えっ? お前急にどしたっ? 恥ずかしいから下ろせって!」
「嫌だ。吉良。こっち向いて。白石じゃなくて、俺のほうを見て」
「は? 何言って……」

 玄野に誘われて、吉良が玄野を振り返ったとき、ふに、と柔らかいものが吉良の唇に触れた。

 ——え……? 今のって、まさか。キス……?

 呆然とする吉良の目の前に、玄野のしてやったりな笑みがある。

「吉良ちゃん、まさか今のがファーストキス?」

 軽い感じで玄野に言われても、吉良は目をしばたかせるだけ。
 玄野にとっては、キスなんて珍しいことじゃないんだろう。それこそ誰かとエッチなことをするときは、数えきれないくらいしてるんじゃないだろうか。

 でも、でも、吉良にとっては初めての経験だった。それが、こんな悪ノリみたいな感じでサクッと奪われるとは思いもしなかった。 
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