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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑨.1

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 待ってくれ。これはいったいどういう状況なのだろう。

「吉良、今日は来てくれてありがとう、嬉しいよ」

 クラスの委員長・白石は微笑みながら吉良の右耳に軽く触れるキスをする。

「マジかよ、三人でデートなんてサイッコー!」

 白石の親友で陽キャの玄野は、テンションが爆上がりしているのか、勢い余って吉良の左頬にキスをする。
 嬉しそうなふたりはさておき、吉良は戸惑っている。
 これは卒業制作のための買い出しだ。決してデートなんかじゃない。
 卒業のための仕事決めをしたときに、たまたま白石、玄野のふたりと一緒に卒業制作準備班になっただけだ。
 吉良が一番変に思っているのは、自分が常に真ん中にさせられること。白石と玄野は親友なのだからふたり並べばいいのに、真ん中のポジションは常に吉良だ。

「あのさ、これ、ただの買い物だから、これ以上俺にキスするのやめて……」
「あっ、悪ィ! つい、見るとしたくなっちゃう……」

 玄野が素直に謝ってくれるのはいいが、吉良の内心は「普通見ただけですぐにキスなんかしたくならないだろ」とモヤモヤしている。
 陽キャの玄野は、テンションが上がると、男でも女でも誰彼構わずキスをするのだろうか。

「俺も。玄野がしたぶんよりも一回でも多くしたいだけ」

 優等生白石、学校の成績を張り合うのはいいが、こんな平凡な男にキスをする回数なんて張り合ってどうする!?

 ふたりの行動の意味がわからない。
 吉良にキスをしても何も嬉しくないだろうに。

「とにかく、俺、恥ずかしくて歩けねぇから、道端でキスしないで……」

 ふたりとも、なるべくひと目のないときにしているつもりなのだろうが、さっきのは通行人に見られた。こっちを見ていて「あっ!」と何か言いたげな驚いた顔をしていたから。

「ごめん、吉良。じゃあキスじゃなくて腕組んで歩こっか」

 白石が吉良の右腕をとり、腕を絡ませてきた。

「俺も! 白石だけなんておかしいだろ! ここは平等にいこうぜ!」

 吉良の左腕は玄野に掴まれる。

 ——なんだよ、コレ、俺、悪いことして取り押さえられて連行される犯人かよ。

 絶対におかしい。左右の腕を掴まれて、歩かされて、これじゃGメンに現行犯逮捕された万引き犯みたいだ。

 結局、白石と玄野、ふたりにがっつりマークされながら買い物するハメになった。




 卒業制作のための買い物を終え、寮に帰る前に、三人でちょっとだけ寄り道をする。今はドリンクスタンドに寄って、各々飲み物を買い、テラスにある長いベンチで並んで座り、ひと息ついているところだ。

「白石は何飲んでんの?」

 白石の飲んでいる碧いフォトジェニックな飲み物が気になって、白石の手元を覗き込んだ。

「オーロラティーエイド」
「なにそれ、美味い?」

 見た目からまったく味が想像できない。すると白石は「ひと口飲む?」とストローの先を吉良に向けてきた。

「あ、いいの?」

 遠慮なくストローに口をつけて謎の飲み物・オーロラティーエイドを飲む。実は、めっちゃ爽やかな柑橘風味の紅茶に似た飲み物だった。

「うっま、いいな、俺すげぇ甘いやつ選んじゃったかも……」

 吉良が選んだのは、ホットチョコだ。生クリームも盛り盛りで、半分くらいは美味しく飲めたのにちょっとだけ味に飽きてきた。

「じゃあ俺のと交換する?」

 吉良の目の前に、玄野が自分の飲んでいたフルーツティーを差し出してきた。フルーツティーは吉良の好きな飲み物で、ホットチョコよりも味がさっぱりしそうだ。

「玄野、いいのか……? これ、結構甘いけど」
「ああ。だってそれ、吉良の味がするやつたろ?」
「んんんっ?」
「間違えた。気にすんな! いーよ、そっちちょうだい」

 玄野は吉良のホットチョコを奪い取り、吉良飲んでいた蓋の飲み口に口をつけて飲んだ。

「あっま!」

 玄野が声を上げるのも無理はない。このホットチョコは予想外に甘いのだ。

「いいよ、玄野……」
「いや。いけるいける。俺さ、まぁまぁ甘いの好きだから」

 そんなことを言うだけあって、玄野は吉良の残りのホットチョコを難なく飲み切ってしまった。

「ありがとな、交換してくれて」
「全然。でもこれ、なんか口直ししたいな……吉良、ちょっといい?」
「へっ?」

 玄野が吉良の肩を掴んで吉良の身体を自分に向けさせる。そのまま甘ったるい唇を、吉良の唇にさらりと自然に近づけてきた。
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