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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑥ 2.

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 それから散々アトラクションで遊んで、パレードを観ようという話になった。
 ジャンケンで場所探し係と、食料買い出し係に分かれることになり、吉良と小田切は買い出し係になった。
 吉良は小田切とふたりで並んでパーク内を歩く。

「小田切、楽しんでる? あいつら変にテンション高いから疲れたんじゃないのか?」

 テーマパークに行こうと言い出したのは岩野だし、どのアトラクションに乗ってどう動くか計画を立てたのは紙屋だ。そこに小田切の意見なんて一切反映されていないことが気になっていた。

「ううん。楽しいよ。俺、普段から表情筋死んでるからかな。そんなにつまんなそうに見えた?」
「そんなことないだろ。小田切は嬉しいときは笑ってる。お前だって普通に怒ったり泣いたりするだろ?」

 小田切はクラスのみんなにもクールだと言われるが、そんなことはないとそばにいた吉良は知っている。
 なんとなく感じていることだが、小田切はいつも自分を抑えているように感じるのだ。

「あいつらのペースに付き合ってやってるんだろ? 文句も言わないで、俺ら三人で乗れってみんなの分のポップコーン買いに行っちゃうしさ、そんなのダメだろ、今日はみんなで楽しむんだ!」

 放っておくといつも小田切ばかりが荷物番だの、買い出しだの、自ら望んでそういうポジションになろうとする。吉良としては今日くらいは平等に楽しく過ごしてほしいという思いがあった。

「小田切、何がしたい? お前のやりたいに付き合うから。あいつらのやりたいことはほぼほぼ叶ったんだ。少しくらい小田切もワガママ言え」

 吉良は小田切にくってかかる。小田切は「ふーん」と冷めた反応を見せていたが、急にピタリと足を止めた。

「このまま吉良をさらってふたりで逃げたい」

「え……?」

 つまらない冗談を、と笑ってやろうとしたのに意外にも小田切が本気の顔をしていて吉良の動きが止まる。
 小田切は吉良の手に指を絡ませてきた。

「俺だってわかってる。でも卒業最後に吉良との思い出がほしい。少しだけ、少しの間でいから……」
「あっ、おいっ……!」

 小田切は吉良の手を引き、人混みをかき分けズンズン進んでいく。ネズミ耳のカチューシャが頭から落っこちそうになって、吉良は慌てて片手で押さえた。

「待てって!」

 なんとか小田切に追いついて早歩きの小田切をなだめる。

「慌てんな、小田切と思い出作りたいのは俺も一緒だ。俺は逃げないよ、だから手を離しても大丈夫だ」

 小田切の肩を叩いてやると、ようやく小田切は落ち着きを取り戻したようだ。いつもはこんなことをする奴じゃないのに、今日の小田切はやっぱり何かおかしい。

「……わかった。でも手は離さない。どうしても離したくない……」

 小田切は吉良の手に絡ませた指をぎゅっと固く握りしめてきた。
 いくら辺りは暗くなって来ているとはいえ、さすがに男ふたりで手を繋いでいるのは恥ずかしい。
 それに、妙にドキドキする。小田切の僅かな指の動きを感じて、それを意識すると心臓がうるさく高鳴ってきた。

「うん……」

 恥ずかしいけど、吉良もこのまま手を繋いでいたいと思った。
 理由はわからない。でもこのまま小田切と離れるのは嫌だと思った。


 小田切と手を繋いだまま無言で歩いていく。
 そういえば、運動会のときに黒田に吉良が絡まれて小田切が助けてくれたことがあった。そのあと力強く小田切は吉良の腕を引いた。あのとき初めて小田切に身体に触れられたことを思い出した。
 そんなことをぼんやり思い出していたら、小田切とのさまざまな思い出が吉良の頭の中によみがえってきた。

 数学で目も当てられないひどい点数を取って再テストになったとき、小田切は放課後に毎日吉良に付き合って根気強く勉強を教えてくれた。
 その教え方がとてもいい。「答えは違ってもここまで解法を導けたのはすごい」「計算速いな」などと誉めながらも丁寧につきっきりで教えてくれるのだ。
 
 他の奴らには塩対応のくせに、吉良が頼むと小田切は「吉良が言うならやってやる」と力を貸してくれた。
 学園祭で『他校の子に何人告白されるかチャレンジ』という、ふざけた企画があった。全然参加者が集まらなくて、企画倒れになりそうだったとき吉良が声をかけたら小田切は『参加してやるよ』と引き受けてくれた。
 そのまま小田切が優勝したのは後日談として。

 小田切は吉良のSPとあだ名がつくくらい、常にそばにいて守ってくれた。
 この高校は当たり前のように優秀な奴らばかりで、鈍臭い吉良は邪険にされてもおかしくない。でも小田切がいつも目を光らせていたから学校で嫌な目になど遭ったことがない。いつも何かトラブルが起きそうになると小田切が吉良の一歩前に出て、助けてくれるからだ。

 吉良はそれらの恩に対して何も返せない。小田切にしてあげられることなどなくて、小田切にとっては負担でしかないはずなのに、いつも静かに隣にいてくれる。

 そして今も。
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