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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール
エンディング⑤ 1.
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上杉は天才だと思う。
冬休みの間に行われたサッカー選手権で、上杉率いるサッカー部は見事に優勝。そして大会最多得点をあげて、MVPに選ばれた上杉は一躍時の人だ。
上杉がMVPとしてスピーチを終え、「ありがとうございました!」と深々と頭を下げる。どんなときも礼儀正しいところは上杉の長所だ。
吉良はその様子を会場で見守っていた。
寮で上杉とすれ違って挨拶されたあと、決勝試合を見たいと吉良がポロッと言葉をこぼした。
上杉はそれを聞き逃さずに、サッカー部枠の席があるから是非来てほしいと強く勧められ、断りきれずに再び試合を見に行くことになったのだ。
「先輩っ!」
上杉がこちらに向かって大きく手を振る。レギュラーでない、応援枠のサッカー部の生徒たちが上杉に会おうと前側の席に殺到する。吉良も皆に押されてなんとなく前に行くことになった。
「先輩! 俺、勝ちましたっ!」
上杉はかなり高揚状態にあるようで、試合後だというのにすごい速さでこちらに駆け寄ってきた。
「えっ?!」
上杉はスタンド席へと続く階段にあった柵を飛び越えてきた。普通、試合が終わったら相応の出口から控え室に戻るはずだ。
これには周りの観客も選手もみんながざわついた。
「吉良先輩っ!」
サッカー部の面々を差し置いて、上杉は吉良のもとへ一直線。思いっきり抱きついてきた。
上杉が喜んでくれているのはいい。でも、テレビカメラの中継まで上杉を追っかけているから、吉良と抱き合うこの映像が全国に流れていると思うとちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
「上杉、そろそろ離せって……!」
「嫌です。誰のために俺、ここまで頑張ったと思ってるんですか? 吉良先輩のためですよ?」
「はぁ?!」
いや、自分のためだろ?!
「先輩にひと言、褒めて欲しかったんです」
なんという理由で上杉は全国サッカーのMVPになったのだろう。
「上杉はよく頑張ったよ」
上杉の背中を叩いて労ってやる。すると上杉の身体ははぴく、と反応した。
「先輩」
上杉は身体を少しだけ離して吉良を見つめてくる。
「俺がMVP獲ったらの約束、覚えてますか?」
「……ま、まぁ……でもあんなの冗談だろ?」
「いいえ、俺は本気です」
実は試合前に上杉と約束したことがある。いくら注目の選手でも、まさか上杉がMVPなんて獲るはずないと高を括っていたら、こんなことになるなんて。
「今ここでしてもいいですか?」
「えっ……?」
あり得ないだろ。こんな大勢の人の注目を一身に浴びてるときに?!
「先輩の顔をみたらたまらなくなりました。今すぐしたい。先輩、俺を受け入れてください」
「はっ……? うそだろ?!」
上杉は顔を近づけてくる。吉良が後ずさると上杉はすぐに間をつめてきて、吉良に迫る。
『俺がMVPになったらキス、させてください』
十二月の終わり、サッカー選手権のトーナメント開始前に、上杉に言われた言葉だ。
もちろん断ることもできた。けれど吉良はそれを受け入れたのだ。
あのとき、どうして断る気にならなかったのだろう。
今だって、強引に上杉に迫られても逃げきれない自分がいる。こんなところでキスなんて絶対にあり得ないのに!
「上杉先輩!」
宇佐美が自分が羽織っていたロングベンチコートを脱ぎ、こちらに向かって投げつけてきた。
上杉とふたり、ベンチコートに覆われた瞬間、上杉は吉良の唇を奪う。
ほんの一瞬だった。でも、間違いなく、上杉にキスされた。
宇佐美のベンチコートがはらりと落ちる頃には上杉は吉良から身体を離していた。
「先輩、可愛い。なんですかその顔。その無防備な顔が男を惹きつけるんですよ」
へっ……? 顔?
「告白したい。俺のものにしたくてたまらないです」
上杉は言いたいことだけ言って、その場から踵を返して再びスタンド席の柵を越え戻っていった。
な、何だったんだ……。
上杉は嵐のように現れて去っていったな。
まだドキドキしている。約束したとはいえ、こんなあっさりと初めてのキスを奪われた。
しかも年下の上杉に、こんなにいいように振り回されるとは、先輩としてどうなんだ?!
ないだろ。ない。年下は絶対にない。
「吉良先輩。大丈夫ですか?」
ロングベンチコート拾い上げて、再びそれに袖を通しながら宇佐美が吉良を気遣ってくれた。
「あ、あぁ……」
——なんであんなに怖いものなしに迫ってくるんだよ……。
宇佐美の機転がなかったら全国放送で、衝撃的なキスシーンが流されるところだったのか。それをなんとも思わない上杉の思考はいったいどうなっているんだ?!
冬休みの間に行われたサッカー選手権で、上杉率いるサッカー部は見事に優勝。そして大会最多得点をあげて、MVPに選ばれた上杉は一躍時の人だ。
上杉がMVPとしてスピーチを終え、「ありがとうございました!」と深々と頭を下げる。どんなときも礼儀正しいところは上杉の長所だ。
吉良はその様子を会場で見守っていた。
寮で上杉とすれ違って挨拶されたあと、決勝試合を見たいと吉良がポロッと言葉をこぼした。
上杉はそれを聞き逃さずに、サッカー部枠の席があるから是非来てほしいと強く勧められ、断りきれずに再び試合を見に行くことになったのだ。
「先輩っ!」
上杉がこちらに向かって大きく手を振る。レギュラーでない、応援枠のサッカー部の生徒たちが上杉に会おうと前側の席に殺到する。吉良も皆に押されてなんとなく前に行くことになった。
「先輩! 俺、勝ちましたっ!」
上杉はかなり高揚状態にあるようで、試合後だというのにすごい速さでこちらに駆け寄ってきた。
「えっ?!」
上杉はスタンド席へと続く階段にあった柵を飛び越えてきた。普通、試合が終わったら相応の出口から控え室に戻るはずだ。
これには周りの観客も選手もみんながざわついた。
「吉良先輩っ!」
サッカー部の面々を差し置いて、上杉は吉良のもとへ一直線。思いっきり抱きついてきた。
上杉が喜んでくれているのはいい。でも、テレビカメラの中継まで上杉を追っかけているから、吉良と抱き合うこの映像が全国に流れていると思うとちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
「上杉、そろそろ離せって……!」
「嫌です。誰のために俺、ここまで頑張ったと思ってるんですか? 吉良先輩のためですよ?」
「はぁ?!」
いや、自分のためだろ?!
「先輩にひと言、褒めて欲しかったんです」
なんという理由で上杉は全国サッカーのMVPになったのだろう。
「上杉はよく頑張ったよ」
上杉の背中を叩いて労ってやる。すると上杉の身体ははぴく、と反応した。
「先輩」
上杉は身体を少しだけ離して吉良を見つめてくる。
「俺がMVP獲ったらの約束、覚えてますか?」
「……ま、まぁ……でもあんなの冗談だろ?」
「いいえ、俺は本気です」
実は試合前に上杉と約束したことがある。いくら注目の選手でも、まさか上杉がMVPなんて獲るはずないと高を括っていたら、こんなことになるなんて。
「今ここでしてもいいですか?」
「えっ……?」
あり得ないだろ。こんな大勢の人の注目を一身に浴びてるときに?!
「先輩の顔をみたらたまらなくなりました。今すぐしたい。先輩、俺を受け入れてください」
「はっ……? うそだろ?!」
上杉は顔を近づけてくる。吉良が後ずさると上杉はすぐに間をつめてきて、吉良に迫る。
『俺がMVPになったらキス、させてください』
十二月の終わり、サッカー選手権のトーナメント開始前に、上杉に言われた言葉だ。
もちろん断ることもできた。けれど吉良はそれを受け入れたのだ。
あのとき、どうして断る気にならなかったのだろう。
今だって、強引に上杉に迫られても逃げきれない自分がいる。こんなところでキスなんて絶対にあり得ないのに!
「上杉先輩!」
宇佐美が自分が羽織っていたロングベンチコートを脱ぎ、こちらに向かって投げつけてきた。
上杉とふたり、ベンチコートに覆われた瞬間、上杉は吉良の唇を奪う。
ほんの一瞬だった。でも、間違いなく、上杉にキスされた。
宇佐美のベンチコートがはらりと落ちる頃には上杉は吉良から身体を離していた。
「先輩、可愛い。なんですかその顔。その無防備な顔が男を惹きつけるんですよ」
へっ……? 顔?
「告白したい。俺のものにしたくてたまらないです」
上杉は言いたいことだけ言って、その場から踵を返して再びスタンド席の柵を越え戻っていった。
な、何だったんだ……。
上杉は嵐のように現れて去っていったな。
まだドキドキしている。約束したとはいえ、こんなあっさりと初めてのキスを奪われた。
しかも年下の上杉に、こんなにいいように振り回されるとは、先輩としてどうなんだ?!
ないだろ。ない。年下は絶対にない。
「吉良先輩。大丈夫ですか?」
ロングベンチコート拾い上げて、再びそれに袖を通しながら宇佐美が吉良を気遣ってくれた。
「あ、あぁ……」
——なんであんなに怖いものなしに迫ってくるんだよ……。
宇佐美の機転がなかったら全国放送で、衝撃的なキスシーンが流されるところだったのか。それをなんとも思わない上杉の思考はいったいどうなっているんだ?!
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