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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング② 3.

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冬休みが終わり、吉良はまた寮に戻ってきた。

 受験勉強にいまいち身が入らず、急に机の片付けをやりたくなって、引き出しの奥まで片付けをしていたときだ。

 奥から出てきたのは、川上の名刺代わりの、プロフィールカードと呼ばれるものだ。
 高校一年のときに川上にもらってから、ずっと机の奥に埋もれていたらしい。



 その日の夜、眠る直前になって、プロフィールカードのことを思い出し、そうだ、まったく川上のインスタを見ていなかったなと反省し、覗いてみることにした。

 吉良はベッドに転がり、何の気なしに見ようとしていたのだが、その内容を見て視線が釘付けになり飛び起きた。

 さかのぼれば、高校一年生のときからだ。



 #片想いとタグが付いている投稿。

 川上は、それぞれマグネット付きで、ふたつのクマの小さなぬいぐるみ仲良くくっついている仕様のキーホルダーの写真を載せている。そのクマのお腹部分にあるイニシャルはYとRだ。
 Yは川上優希ゆうきのYかな。Rは誰だろう。



 #大好きとタグが付いている投稿。

 川上が高校のミスターコンテストで優勝したときの写真だ。寮のみんなで川上を祝って簡単なパーティーのような盛り上がりを見せているときの写真。そこには多数の仲間に混ざって吉良も写っていて、川上は吉良に絡んできて、吉良の身体に腕を回してきてはしゃいでいる。
 ハッシュタグの意味はファンや投票してくれた人に対してのお礼のようにみて取れる。だがコメントを見ると、おめでとうコメントに混ざって『DKのわちゃわちゃが可愛い』だの『川上クンの隣の子愛されてる』だのと書き込みがある。



 #ずっと一緒にいたいとタグが付いている投稿。

 二年生の修学旅行の写真だ。夜に打ち上げ花火を上げるというイベントがあって、川上はその時のためだけにネタとして浴衣持参。周囲に笑われながらも花火と浴衣の奇跡の一枚を撮っていた。
 その次の投稿で、実は修学旅行で花火大会でもなんでもないよとすぐにネタばらしをしていて笑わせている。
 浴衣を着ているのは川上だけ。花火上げてるのも生徒だし、それも個人で楽しめる用の簡易的なやつという裏方バレバレの写真。

 なぜそんな写真に#ずっと一緒にいたいなどというタグがついているのだろう。違和感がある。
 よく見ると川上以外に写っている人物はひとりだけ。背中しか見えないので誰かは特定しにくいと思うが、吉良にはそれが自分だとわかった。

 他にもそんな投稿が続く。『好きな子思い出したら急に涙出た』とか『はぁマジで尊い写真ゲット』とか、川上が強く片想いをしていることが伝わってくる。ファンももはやそれを容認していて『一途な川上クン好き』『私が代わりに癒してあげたい』などという現象が起きていた。



「念願の初デート……」

 高校三年の投稿だった。吉良と行ったカフェの写真。
 川上はさっきここに『結局一度しか行けなかった』と言ってなかったか……?

 まさかとは思う。でも、川上の三年間の片想いの相手はもしかしたら——。





 #最高の一日とタグが付けられた投稿。

 そこには冬休み前の日曜日に、川上とふたりで過ごしたことが書かれていて、表参道のカフェの写真が載せられている。


 #俺の恋人になって#毎日一緒がいいというタグの投稿が続いた。
 写真はふたりが着ていたコートの写真だった。
 川上がこのコートのことを気に入って、恋人にしたいくらい、毎日着たいくらいの気持ちだというふうにみて取れる。

 でもこれは、もしかしたら……。



 川上は、ずっと一途に吉良を想ってくれていた。
 ここまで来て気がついた。川上はきっと吉良を想ってくれている。



 迅から親衛隊の承認システムについて教えてもらったばかりだ。
 そのシステムを使えば、両想いであれば川上に告白することができる。


 吉良は画面の指示に従いそれを『承認』する。
 そしてすぐに部屋を飛び出した。





 目的地は決まっている。吉良は川上と神宮寺の部屋に辿り着き、迷いなくドアをノックした。

「おー、吉良っ! どうしたこんな時間に」

 深夜にも関わらず、ドアを開けてくれたのは神宮寺だった。

「あ、あの……川上と二人きりで話がしたいんだけど……」
「は?! 川上と?!」

 神宮寺が急に険しい顔になる。

「うん……ちょっとだけ。じ、神宮寺が悪いわけじゃない。ちょっと急ぎの話があるだけで……」


 朝まで待てない。今すぐ川上と話がしたいと思った。


「神宮寺、悪いな。お前、これ持って楯山んとこに行ってろ」

 後から現れた川上は、神宮寺に枕を投げつけて、神宮寺の背中を押して無理矢理部屋から追い出し、容赦なく部屋のドアを閉めた。


「川上……あの……」

 吉良が言いかけた途端、川上に肩を抱かれて唇を奪われた。

 突然のことで吉良は何も反応できなかった。キスのあと、目をしばたかせて川上を見上げる。

「吉良……やばい。俺、どうにかなりそうだ。あの日のデートが最後だと思ってたのに……」

 川上はそんなふうに思っていたのか。あんなにたくさん吉良のことを想ってくれていたのに。

 でも、きっと吉良が川上の親衛隊に加入して、承認したことは川上にも通知が届いているはずだ。
 吉良の気持ちが誰にあるか、川上はおそらく気づいている。


「最後になんかしたくない。この前はすごく楽しかった。川上さえよければまた連れてってよ」

「うん。連れてく。何度でも連れてくよ。もう、俺なんて言ったらいいか……諦める気はなかったけど、まさか吉良が俺を選んでくれるなんてさ……っとに、マジで俺でいいの?!」

 吉良は小さく頷く。吉良だって自分の気持ちに気づいたばかりだ。でも、この気持ちに間違いはない。

 川上と一緒にいたくて、川上を見るとドキドキして、川上にもっと触れて欲しくて——。



「吉良。そんな目で見られたら俺、もう……」

 再び川上からのキス。今度はなかなか離してもらえず、吉良は息が苦しくなってきた。

「……ッ!!」

 川上は何をしようとしてる?! 舌で吉良の唇を舐め、そこをこじ開けようとする。

「待っ……」

 言葉を発しようとしたのがよくなかった。川上は吉良の口内に舌を侵入させて、吉良の舌を絡めとる。

 なんだこれは。川上といけないことをしている気持ちになる。神宮寺がいつ戻ってくるかもわからないのに、こんなこと……。

「あっ……!」

 川上に抱き締められ、そのまま押し倒されるようにしてふたりベッドに転がり込んだ。

「好きだよ、吉良。大好き。好きだってずっと言いたかった」

「へっ? あっ、ありがと…ンンッ!」

 また川上に唇を奪われ、激しいキスをされる。

「今夜は絶対に吉良を寝かせない。朝まで俺と一緒だから」

「いやっ、あの俺そんなつもりは……っ」

 両想いなのはわかった。吉良だって川上のことを拒絶するつもりはない。でも、あまりにも今日の今日で事が進みすぎてないか?!

「ごめん、俺、一度でいいから寮のベッドで吉良を抱きたかった。もう卒業間近だから手っ取り早くヤッてもいい?」
「えっ?! 今?!」
「ダメ? 手を繋いでキスしたら次、進んでもいいよね?」

 待て待て待て! 性急すぎるだろ!

「優しく抱くから。ちゃんと避妊もする。吉良が嫌だっていったらやめるから」
「いや、俺妊娠しないし……」
「えっ?! さすがにいきなりゴムなしはやばいだろ?!」
「だから男……」

 川上の目はどうなってんだ?! 俺をなんだと思ってる?!


「男? 男らしく俺に抱かれる覚悟はできてるってことだな?」
「はい?!」
「吉良。許して。俺を三年間分の想いを受け入れて」

三年分?! おい! いきなり重すぎるんだよ!

「うわっ……あっ……あぁ…ん……っ!」

 やばい。これは絶対に逃れられそうにない……。



 ——エンディング②  川上Ver. 完。
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