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一月 親衛隊隊長には『推し』が誰かの親衛隊に加入したとき通知がくるルール
2.
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「やっぱ浴衣ってエロいよな」
夏祭りからの帰り道、迅は突然バカを言い出した。
「出たな。迅、お前の性癖が」
しょうがない奴だ。目の前を歩く、髪を結い上げた可愛い浴衣姿の女の子を見て羨ましくなったんだろう。
「それがなんだよ、浴衣好きのどこが悪い?」
「開き直るなよ」
「だって可愛い。マジでそそられる」
「迅。大丈夫か?!」
こいつはイケメンのくせに欲求不満なのか?!
「ずっと隣で見てて、実は俺、結構ヤバかった」
「嘘だろ?!」
「いやマジ」
迅は本当に何を考えてるかわからない。浴衣女子に興味のある素振りなんて微塵もなかったのに、そんなことを考えていたのか。
「じゃあ声、かけてみれば良かったんじゃねぇの? 迅はかっこいいから上手くいくかもな」
迅は身長183センチ。モデル並みのスタイルと恐ろしく整った顔面で、性格だって明るい。
迅みたいな男から声をかけられたら、フリーの女の子なら嫌な気はしないんじゃないだろうか。
「は? 違うし」
え……? 何が違うんだよ。
「さすがの俺でも同意なしに襲ったりはしねぇから。ただ、琉平。お前ちょっとはだけ過ぎてる。そういうのは理性が吹っ飛びそうになるから自重してくれないか?」
「は?」
そんなにはだけてるか?! 涼しくていいなくらいにしか思ってなかったのに……。
時々、迅の言動は吉良の納得がいかないことがある。
◆◆◆
一月一日。年明けの瞬間を実家で迅や家族と分かち合ったあと、数時間寝た。
そしてまだ外が暗いうちに布団から這い出て、夜明け前に迅とふたりで家を出た。
「やっぱ寒いな……」
初日の出を待つ間、少しでも自分自身を温めようと、迅はジャンプをしたり無駄に身体を動かしている。
ここは家の近所の高台の公園だ。山や高層ビルなどの有名な初日の出スポットではないので二人の他には誰もいない。
「だから言っただろ? なんでこんなクソ寒いのに初日の出なんか……」
「うっるせぇな! 俺は琉平とふたりでどうしても初日の出が見たかったの!」
「……子供かよ」
十八にもなって駄々をこねる迅に、呆れた顔をしてみせる。
「あー! 寒い!」
迅は背後から吉良を抱き締めてきた。
まったく……。寒いからって人をカイロ代わりにしないでほしい。
「うわっ! 冷てっ!」
吉良の服の隙間からするすると迅が冷えた手を滑り込ませてくるものだから、その冷たさに吉良は身をよじらせた。
「琉平あったけぇ……」
「離れろよっ!」
あー、クソ。なんでこいつの手や身体をあっためてやらなきゃならないんだ。
「サイッコー。琉平、神」
「やめろって!」
調子に乗った迅は、もう片方の手も侵入させてきて、両手で吉良の身体を触り始めた。
「お。日の出じゃん」
迅の視線の方角に、眩まばゆい光が見えた。山の稜線からゆっくりと顔を出すその光は、神秘的で、心にじんときた。
「キレイだな」
吉良がぽつり感想を呟くと、「だろ?」と得意げな迅の声がすぐ耳のそばで聞こえた。
「俺、これからも毎年、琉平と正月を迎えたいな」
迅は吉良の服の中にある両手に力をこめ、吉良の身体を抱き締めた。
「まぁ。お前とはこれからも正月くらいは会うことになるだろうな」
年に一度、元旦には集まれる親族だけが祖父母の家に集まる慣例がある。吉良家もできる限りは祖父母の家に顔を出しているし、その集まりに迅も毎年参加しているのだから。
「俺ダメだ。相当冷えた。初日の出見終わったらサウナ行こうぜ。いつもの華の湯でいいからさ」
「だから言ったろ? もっと着込んでこいよ」
「悪い。完全に油断してたわ」
こいつホントに賢いのか?! よくこんなダメダメで、T大の推薦もらえたよな……。
◆◆◆
「なぁ、琉平、俺と少し話をしないか?」
吉良の家に迅の部屋はないので、迅が寝る場所は吉良の部屋だ。
なんの変哲もない吉良の部屋に、二つの布団を並べて敷いて寝る。それが幼い頃からずっと変わらず続いている。
「いいけど、何?」
二人ともそれぞれの布団に寝ながら、互いの顔を寄せた。
「あの学校はさ、親衛隊とかいうすげぇ面倒くせぇルールがあるじゃん?」
「ああ」
「俺さ、まさか琉平があの学校に入学してくるなんて思いもしなかったからさ」
「それ。俺も自分でそう思ってるから」
あんな選ばれた者しか入れない高校に入学できることになるなんて吉良自身も思いもよらないことだった。
最初こそ不安だったが、いざ入学してみると皆いい奴らばかりで平凡だからと揶揄されるようなこともない。吉良は特段不満もなく楽しく学校生活を送れている。
「だから三年間、卒業するまで想いを伝えることができなくなった」
「えっ! お前、まさか誰かの親衛隊なのか?!」
吉良は驚いて聞き返したのに、「今の話の流れで気づけよ」と迅に謎の文句を言われた。
「そうだよ。しかも隊長」
「隊長?!」
「ああ。だから誰が隊員なのかもわかってる。俺の『推し』の親衛隊は学校一のそうそうたるメンバーが揃ってる」
「すごいな……」
「親衛隊たちには俺が隊長だってことは知られているから、そいつらの相談にのったり、いざこざがあったときはなだめたりしてるんだ」
「へぇ。隊長には仕事があるんだな」
「ああ。みんなちょっとは自分に自信があるような奴らばかりだから、『選ばれ』たくてしょうがねぇの」
迅の話によれば、迅の『推し』の親衛隊は優秀な奴ばかりのようだから、今までの人生でもなんでも自分が選ばれ続けてきたのだろう。
夏祭りからの帰り道、迅は突然バカを言い出した。
「出たな。迅、お前の性癖が」
しょうがない奴だ。目の前を歩く、髪を結い上げた可愛い浴衣姿の女の子を見て羨ましくなったんだろう。
「それがなんだよ、浴衣好きのどこが悪い?」
「開き直るなよ」
「だって可愛い。マジでそそられる」
「迅。大丈夫か?!」
こいつはイケメンのくせに欲求不満なのか?!
「ずっと隣で見てて、実は俺、結構ヤバかった」
「嘘だろ?!」
「いやマジ」
迅は本当に何を考えてるかわからない。浴衣女子に興味のある素振りなんて微塵もなかったのに、そんなことを考えていたのか。
「じゃあ声、かけてみれば良かったんじゃねぇの? 迅はかっこいいから上手くいくかもな」
迅は身長183センチ。モデル並みのスタイルと恐ろしく整った顔面で、性格だって明るい。
迅みたいな男から声をかけられたら、フリーの女の子なら嫌な気はしないんじゃないだろうか。
「は? 違うし」
え……? 何が違うんだよ。
「さすがの俺でも同意なしに襲ったりはしねぇから。ただ、琉平。お前ちょっとはだけ過ぎてる。そういうのは理性が吹っ飛びそうになるから自重してくれないか?」
「は?」
そんなにはだけてるか?! 涼しくていいなくらいにしか思ってなかったのに……。
時々、迅の言動は吉良の納得がいかないことがある。
◆◆◆
一月一日。年明けの瞬間を実家で迅や家族と分かち合ったあと、数時間寝た。
そしてまだ外が暗いうちに布団から這い出て、夜明け前に迅とふたりで家を出た。
「やっぱ寒いな……」
初日の出を待つ間、少しでも自分自身を温めようと、迅はジャンプをしたり無駄に身体を動かしている。
ここは家の近所の高台の公園だ。山や高層ビルなどの有名な初日の出スポットではないので二人の他には誰もいない。
「だから言っただろ? なんでこんなクソ寒いのに初日の出なんか……」
「うっるせぇな! 俺は琉平とふたりでどうしても初日の出が見たかったの!」
「……子供かよ」
十八にもなって駄々をこねる迅に、呆れた顔をしてみせる。
「あー! 寒い!」
迅は背後から吉良を抱き締めてきた。
まったく……。寒いからって人をカイロ代わりにしないでほしい。
「うわっ! 冷てっ!」
吉良の服の隙間からするすると迅が冷えた手を滑り込ませてくるものだから、その冷たさに吉良は身をよじらせた。
「琉平あったけぇ……」
「離れろよっ!」
あー、クソ。なんでこいつの手や身体をあっためてやらなきゃならないんだ。
「サイッコー。琉平、神」
「やめろって!」
調子に乗った迅は、もう片方の手も侵入させてきて、両手で吉良の身体を触り始めた。
「お。日の出じゃん」
迅の視線の方角に、眩まばゆい光が見えた。山の稜線からゆっくりと顔を出すその光は、神秘的で、心にじんときた。
「キレイだな」
吉良がぽつり感想を呟くと、「だろ?」と得意げな迅の声がすぐ耳のそばで聞こえた。
「俺、これからも毎年、琉平と正月を迎えたいな」
迅は吉良の服の中にある両手に力をこめ、吉良の身体を抱き締めた。
「まぁ。お前とはこれからも正月くらいは会うことになるだろうな」
年に一度、元旦には集まれる親族だけが祖父母の家に集まる慣例がある。吉良家もできる限りは祖父母の家に顔を出しているし、その集まりに迅も毎年参加しているのだから。
「俺ダメだ。相当冷えた。初日の出見終わったらサウナ行こうぜ。いつもの華の湯でいいからさ」
「だから言ったろ? もっと着込んでこいよ」
「悪い。完全に油断してたわ」
こいつホントに賢いのか?! よくこんなダメダメで、T大の推薦もらえたよな……。
◆◆◆
「なぁ、琉平、俺と少し話をしないか?」
吉良の家に迅の部屋はないので、迅が寝る場所は吉良の部屋だ。
なんの変哲もない吉良の部屋に、二つの布団を並べて敷いて寝る。それが幼い頃からずっと変わらず続いている。
「いいけど、何?」
二人ともそれぞれの布団に寝ながら、互いの顔を寄せた。
「あの学校はさ、親衛隊とかいうすげぇ面倒くせぇルールがあるじゃん?」
「ああ」
「俺さ、まさか琉平があの学校に入学してくるなんて思いもしなかったからさ」
「それ。俺も自分でそう思ってるから」
あんな選ばれた者しか入れない高校に入学できることになるなんて吉良自身も思いもよらないことだった。
最初こそ不安だったが、いざ入学してみると皆いい奴らばかりで平凡だからと揶揄されるようなこともない。吉良は特段不満もなく楽しく学校生活を送れている。
「だから三年間、卒業するまで想いを伝えることができなくなった」
「えっ! お前、まさか誰かの親衛隊なのか?!」
吉良は驚いて聞き返したのに、「今の話の流れで気づけよ」と迅に謎の文句を言われた。
「そうだよ。しかも隊長」
「隊長?!」
「ああ。だから誰が隊員なのかもわかってる。俺の『推し』の親衛隊は学校一のそうそうたるメンバーが揃ってる」
「すごいな……」
「親衛隊たちには俺が隊長だってことは知られているから、そいつらの相談にのったり、いざこざがあったときはなだめたりしてるんだ」
「へぇ。隊長には仕事があるんだな」
「ああ。みんなちょっとは自分に自信があるような奴らばかりだから、『選ばれ』たくてしょうがねぇの」
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