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十一月 親衛隊は諦めたくても脱退できずに本心に従うルール

4.

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「隠岐の気持ち、俺には少しわかるなぁ。どうせ手に入らないなら、自分のものにならないなら、他の誰のものにもなって欲しくない、自分じゃない誰かと幸せになるエンディングなんて見たくないっていう、まぁ、ちょっと自分勝手な気持ち?」

 鳴宮はこんな状況でも相変わらず飄々としている。

「だから変な噂を流してみんなを遠ざけたり、吉良に親衛隊はいないと思い込ませて吉良の気持ちが誰かに向かないように仕向けたんでしょ?」
「鳴宮っ! これ以上喋るな! なにお前勝手にっ……!」

 隠岐は立ち上がり、鳴宮の身体を押しやった。

「いいじゃんいいじゃん。隠岐。そんなに追い詰められちゃうくらいに想ってるなら、正々堂々アタックすればいいのに」
「バカっ! うるさいっ! そんなことできるわけないよ……。お前に何がわかるっ! 何も持ってない僕の気持ちなんて、鳴宮にはわからないよっ……」

 隠岐は鳴宮を突き飛ばす。それでも鳴宮はびくともせずに隠岐の攻撃を受け止めている。

「それがそうでもないんだよなぁ。俺も隠岐と同じ。俺にとっては唯一の人なのに、むこうは俺なんか目もくれない。いつもその人を想って歌ってたんだけど。今日なんて本人が聴いてくれてたからいつもよりもっと頑張ったんだけどな」

 隠岐は鳴宮を押しやるのをやめた。鳴宮を直視して「待って、鳴宮。まさか鳴宮も……?」と何度も目をしばたかせている。

「俺はもういいんだ。今日限りできっぱり諦める。でも隠岐は諦められなかったんでしょ? だから必死でもがいてみっともない真似までしてさ。まぁ、いいよね? 頭バカになるくらい夢中になるのも。俺もずっとそうだったし、片想いでも別に不幸じゃなかった。噂は俺が他の噂を広めて上書きしておいたし、吉良のスマホはさっききちんと謝って元に戻したんだから、許してもらえるよ」
「鳴宮……お前も十分じゅうぶんバカじゃん。なに都合よく本心から逃げようとしてんの。いつか膨れ上がって爆発するよ」
「大丈夫。この感情はみんな歌にのせて発散してるから」
「ふーん、そう……。まぁ、そういうことにしといてあげる」

 鳴宮と話し込んでいた隠岐が吉良のもとへ戻ってくる。だが、吉良の前で突っ立ったまま、うつむいている。

 吉良は座ったまま隠岐を見上げる。隠岐は「……吉良」と小さな声をだした。

「吉良は僕を許してくれる……?」
「スマホを盗っていじったことか? お前にも事情があったみたいだし、謝ってくれたしもういいよ」
「嘘の噂のことも謝らなくちゃ。ごめん……」

 噂というのは、以前鳴宮が言っていた『吉良は男嫌い』みたいな噂のことなのだろう。

「いいよ、気にすんな。そんなことくらいで友達やめたりしねぇよ」

 あのくらい何ともない。今の隠岐のほうが何倍も辛そうに見えるから。

「僕、もっと吉良に近づきたいよ……」

 確かに三年になって再び同じクラスになったのに、以前より距離があったかもしれないな。

「吉良のことなんて嫌いになりたいと思ってたのにな……」
「別に嫌いで構わねぇけど」

 吉良は立ち上がり、隠岐に右手を差し出した。

「隠岐は俺の何かにムカついたんだろ? それは俺が悪かった。でもその腹いせで俺に嫌がらせをしたのは、隠岐が悪い。だから両成敗。ここで一旦仲直りしないか?」
「吉良……」

 泣きそうな顔の隠岐は手をのばしてきた。そこで二人は握手を交わす。

「仲直りのハグもしたい……」

 隠岐はそっと抱き締めてきた。しょうがない奴だなと抱き合いながらバンバン背中を叩いてやる。

「おらっ、そろそろ離せよ、鳴宮も——」

 いるんだからと言葉を続けようとしたが、さっきまでいたはずの鳴宮の姿は見当たらない。

 いつの間にかいなくなってしまったんだ。本当に神出鬼没だな……。
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