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七月 親衛隊に転校生はその翌日から加入するルール

1.

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水李葉レイ(17)攻。転校生。ギフテッド。吉良の幼馴染。
朝日(18)攻。生徒会会長。学年トップ。特待生。
木瀬(18)攻。生徒会副会長。品行方正。
土方(17)攻。生徒会会計。眼鏡。冷静沈着。




 高校三年の7月という、ありえない時期から来た異色の転校生。

水李葉みずりはレイです」

 水李葉のことは、吉良はよく知っている。多分、この学校の誰よりも。

「水李葉君は、交換留学生枠での転入だ。卒業までの短い期間になるが、水李葉君の存在は君達にとって良い刺激になるという学長のご判断だ。彼に色々教えてもらうといい」

 担任の井上いのうえが、異例の転校生の理由を端的に伝え、朝のSHRは終了になった。




 転校生が来ると言う話が出た時から、そいつがどんな奴かについての噂は既に飛び交っていた。

子供の頃から優秀ギフテッドで、飛び級して、もう海外の大学の宇宙工学科を卒業したらしい」

「日本の医師免許が欲しいから、今度は日本の医学部受験のためにわざわざ戻ってきたらしい」

「この前の三年の一学期期末テストと同じものを転入試験として受けたら、転校生がトップの点数を叩き出したらしい」

 全て噂の範疇なのだが、吉良は水李葉ならあり得る話だなと思っている。



 水李葉に会うのはいつぶりだろう。
 水李葉は、吉良の幼馴染だ。
 まさか、こんな形で再会することになるなんて。

 あまりにも優秀すぎた水李葉の才能を伸ばすために、両親が決断し水李葉一家が日本を飛び出して行ったのは、吉良が小学生の頃だった。

 それからずっと会っていない。
 水李葉は、吉良のことを憶えているのだろうか。

 もう一つ驚いたのは、水李葉の容姿だ。子供の頃は小さくて色白で痩せっぽっちだったのに、まるで別人だ。吉良の身長を優に越え、逞しい体躯に日本人離れした綺麗な顔は、まるでハーフモデルみたいだ。



 水李葉の席は一番後ろの隅なのに、水李葉は、そちらへは行かずに真っ直ぐ吉良のもとに向かってくる。

「吉良、久しぶり。俺のこと憶えてる?」

 さすが水李葉だ。遠い昔の子供の頃の記憶しかないはずなのに、水李葉は吉良だと気付いたみたいだ。

「憶えてるよ。お前みたいな奴を忘れられる訳がないだろ、水李葉」

 恵まれた容姿に加えてなんでも出来る水李葉は、運動でも勉強でも子供の頃からとても目立っていた。吉良でなくてもみんな憶えているはずだ。

「良かった! 吉良は俺のこともう忘れちゃったかと思ってたよ」

 水李葉は、最高に嬉しそうな笑顔を向けてきた。

 まさかギフテッドの水李葉と平凡の吉良が知り合いだなんて思ってもいないクラスメイト達は、二人のやり取りを聞いて、なんだか騒ざわついている。



「水李葉。なんの偶然かわからないけど、また会えて嬉しいよ」

 吉良は立ち上がり、水李葉に友好の握手のための手を差し出す。一方で水李葉は「偶然?」と笑い出した。

「偶然なんてある訳がない。俺は吉良がこの高校にいるから、向こうの大学を卒業したのに、ここに通うことにしたんだよ」
「えっ?」

 どういう意味だ……?

「吉良。昔、俺とした約束は憶えてる?」

 水李葉は吉良に訊ねながら、吉良の手を握った。握手の形ではなくて、指と指を絡ませるような形で。

「や、約束……?」

 吉良には全く記憶がない。幼い頃の自分は水李葉と約束なんてしたのだろうか。



「吉良。俺、吉良よりも背が高くなったよ」
「あ、ああ……そうだな。見違えるくらいだよ」 
「憶えてないの?」
「……ごめん。憶えてない……」
「酷いな、吉良は。昔、俺が吉良に『俺だけのものになって』って告白した時に『自分よりチビは嫌だ』って言って断ってきたから、『じゃあ俺が吉良より大きくなったら、俺のものになってくれるの?』って聞いたら『そうなった時に返事をする』って言ってたじゃないか」
「え?! なんだそれ……」

 水李葉が、吉良に告白?! 確かに水李葉は、吉良と二人きりで遊びたいと駄々をこねていたなと昔の記憶が蘇る。吉良が他の子と遊んだり、仲間に引き入れようとすると水李葉はいつも怒っていた。

 でも、告白をされた記憶も返事をする約束をした記憶もない。全く憶えていない。子供の頃の話なのだからきっと適当な口約束なのだろう。



「吉良。あの時の返事を聞かせてくれる? 俺はそれを聞くためにここに来たんだから。俺、もうチビじゃない。だったら吉良は俺のものになってくれるんだよね?」
「ええっ?!」

 今日、久しぶりに再会したばかりでいきなりなんなんだ?!

 しかもここは学校だ。

 さっきからクラスの皆からの視線をひしひしと感じる。きっと「吉良は何やってんだ。子供とはいえ、そんな約束したのかよ!」の視線に違いない。



「なんだよ、そんな子供の頃の話……」
「俺、吉良より大きくなったよ? だから、俺と結婚してくれるよね?」
「ちょ、ちょっと待て。色々おかしいだろ?!」

 俺のものになる=結婚、なのか?!

「そうだよね。俺たちまだ十七歳だからね。とりあえず婚約ってことにしなくちゃダメだよね」

 違う違う。根本的におかしいところがあるだろ!

「ちょっと待て水李葉っ」
「あ? 指輪? 用意してあるよ。今すぐ欲しいの?」
「おい……」

 水李葉の頭の中はどうなってるんだ。吉良には全く理解出来ない。

「水李葉。お前には悪いけど、俺はお前とそんな約束をしたことすら憶えてないっ!」

 吉良は水李葉の手を振り払った。

「お前は子供の頃の些細なことまで憶えてるんだな。俺の事をよーく憶えていてくれてありがとう、水李葉」

 吉良に手を振り払われたままの状態から微動だにせず、水李葉は吉良を驚いた顔で見ている。

「さっ、つまんない冗談は終わりにしようぜ。水李葉、早く席に戻れっ、授業始まるぞ!」

 まったく水李葉は久しぶりの再会なのに、びっくりするような冗談をかましてきたな。
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