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五月 親衛隊は推しを好きになってしまったら自動的に加入させられるルール

4.

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 夜。昼間の学校でのことが気になり、吉良は学生寮の小田切の部屋を訪ねた。

「え?! 吉良、どうした?!」

 小田切はかなり驚いている。学校でこそいつも一緒にいるが、棟の違う小田切の部屋を訪ねたことなどなかった。

「ごめん、急に」
「いや、全然構わないけど」
「ちょっと、学校でのことが気になってさ……」
「そうか。まぁ、入れよ」

 小田切は吉良を部屋に誘導し、小田切と同室の奴は「小田切、ゆっくり話していい」と気を利かせたようなことを言い、「風呂に行ってくる」と部屋を出て行ってしまった。


「あのさ、昼間、黒田と話してただろ?」

 吉良は早速話を切り出した。

「あー、なんだ、黒田の話……」

 小田切の機嫌が少し悪くなった気がする。ヤバい。黒田の話はあまりしたくないのかもしれない。二人はいがみ合っているようだったから。

「黒田と小田切って、何かあったのか? 黒田ってもしかしてお前のこと恨んでる……?」

 黒田はクラスに「許せない奴」がいるようだった。それがもしかしたら小田切ではないかと思ったのだ。

 小田切は、はぁとため息をついた後、「まぁ座れ」と吉良に机の椅子を促してきた。

「あいつ、くだらねぇよ? この高校入ったばっかりの頃、俺、部活やろうかなと思って見学に行ったんだよ」

 そういえば小田切は結局何も部活をしていない。でもやろうとしていたこともあったのか。

「そん時にさ、空手部行ったときに、あいつが『俺最強』みたいにいうから、ちょっとぶっ飛ばしてやろうかなと思って練習試合したら俺、あいつに勝っちゃってさ」

 確か黒田は空手の腕に覚えがあったはずだ。そんな奴を小田切は軽くぶっ飛ばしたのか。

「そっからあいつ、俺に勝負を挑んできてさ、柔道でも剣道でも俺が勝ったから、あいつは面白くなかったんだろうな」

 黒田は小田切に全敗したのか。

「昔からずっと俺に張り合おうとしてくる奴なんだよ。大したことねぇくせに」

 小田切はなんでもできる。黒田だって何もできない奴じゃない。黒田はこの辺りでは「喧嘩が強い半グレ」として悪名高いのだから。
 なのにあらゆるものに負けて黒田のプライドはズタボロになったのかもしれない。


「黒田は相手が悪かったな。お前じゃたしかに勝てねぇよ……。小田切が誰かと勝負して負けることなんてないもんな」

 吉良だって小田切と勝負して勝てるものなど一つもないだろう。

「そうだな……。俺は負けることに慣れてないのかもしれないな……」
「なんだそれ、負け続けてる俺に対する嫌味か?」

 冗談混じりに言ってやる。

 まったく……。いくつも持ってる奴はいいよな。

「最初から負けるとわかってる勝負には出ないから負けないだけだ」
「お前が負ける勝負なんてないだろ」

 小田切が勝てないことなどあるわけない。運動、勉強、喧嘩、歌も絵も上手い。顔もスタイルもいいから美男コンテストでも優勝できそうだ。

「あるんだよ。俺はずっとそいつの1番になりたいと願ってるんだけど、その勝負には勝てそうにない」

 小田切がこんな寂しそうな顔をするなんて珍しい。
 怒った小田切。「好きな人」の話をする小田切。今日は珍しい小田切の表情ばかり見てきた気がする。

「小田切。お前には俺や岩野達もいるんだから、大丈夫だ。助けが必要ならいつでも言ってくれよ、俺、できる限りのことはするからさ」

 小田切でも弱気になることなんてあるんだな。今日はいろんな小田切の知らない一面を知れて良かったなと思った。

「じゃ、『選んで』くれよ……」

 小田切が何か呟いた。が、あまりに声が小さくて吉良にはよく聞こえないくらいだった。

「え?」
「なんでもない……。わざわざ俺のとこに来たくせに、結局、黒田の話がしたかっただけなんだろ? 用が済んだらさっさと帰れよっ」
「ご、ごめん……。嫌な話をさせて……迷惑かけたな」

 小田切は静かだが、これはきっと内心かなり怒ってる。やっぱり黒田の話なんてしたくなかったんだろう。

「せっかく部屋で休んでたのに、急に来て悪かった。もうこんなことはしない。これからはお前とは学校で話すようにするよ。じゃあ、おやすみ」

 そう言って吉良が部屋のドアに手をかけた時だった。

「待て、吉良っ」

 呼び止められて、振り返る。

「あの……来て、いいから」
「え?」
「俺の部屋に、また、来てよ」

 少しバツが悪そうに言う小田切は、さっき怒鳴った事をもう謝ろうとしてくれてる。やっぱり小田切は優しい奴だ。

「ありがとう、小田切。じゃあまた来るよ。今度は手ぶらじゃなくて、なんか持ってくるから」

 笑顔で小田切と別れ、自分の寮に戻る途中、吉良のスマホが鳴った。見ると学校からの「本日の体育祭についてのお知らせ」とある。

 その場に立ち止まり、お知らせを読んだついでに、なんとなく気になり『親衛隊サイト』を確認してみる。

 先月見たときは吉良の親衛隊は28人というあり得ない数字だった。今でもあれは何かのバグじゃないかと思っている。今見たら、きっと修正されているかもしれない。






 
 吉良 琉平   親衛隊 29人


 嘘だろ……。なんで1人増えてるんだよ……。
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