9 / 69
五月 親衛隊は推しを好きになってしまったら自動的に加入させられるルール
4.
しおりを挟む
夜。昼間の学校でのことが気になり、吉良は学生寮の小田切の部屋を訪ねた。
「え?! 吉良、どうした?!」
小田切はかなり驚いている。学校でこそいつも一緒にいるが、棟の違う小田切の部屋を訪ねたことなどなかった。
「ごめん、急に」
「いや、全然構わないけど」
「ちょっと、学校でのことが気になってさ……」
「そうか。まぁ、入れよ」
小田切は吉良を部屋に誘導し、小田切と同室の奴は「小田切、ゆっくり話していい」と気を利かせたようなことを言い、「風呂に行ってくる」と部屋を出て行ってしまった。
「あのさ、昼間、黒田と話してただろ?」
吉良は早速話を切り出した。
「あー、なんだ、黒田の話……」
小田切の機嫌が少し悪くなった気がする。ヤバい。黒田の話はあまりしたくないのかもしれない。二人はいがみ合っているようだったから。
「黒田と小田切って、何かあったのか? 黒田ってもしかしてお前のこと恨んでる……?」
黒田はクラスに「許せない奴」がいるようだった。それがもしかしたら小田切ではないかと思ったのだ。
小田切は、はぁとため息をついた後、「まぁ座れ」と吉良に机の椅子を促してきた。
「あいつ、くだらねぇよ? この高校入ったばっかりの頃、俺、部活やろうかなと思って見学に行ったんだよ」
そういえば小田切は結局何も部活をしていない。でもやろうとしていたこともあったのか。
「そん時にさ、空手部行ったときに、あいつが『俺最強』みたいにいうから、ちょっとぶっ飛ばしてやろうかなと思って練習試合したら俺、あいつに勝っちゃってさ」
確か黒田は空手の腕に覚えがあったはずだ。そんな奴を小田切は軽くぶっ飛ばしたのか。
「そっからあいつ、俺に勝負を挑んできてさ、柔道でも剣道でも俺が勝ったから、あいつは面白くなかったんだろうな」
黒田は小田切に全敗したのか。
「昔からずっと俺に張り合おうとしてくる奴なんだよ。大したことねぇくせに」
小田切はなんでもできる。黒田だって何もできない奴じゃない。黒田はこの辺りでは「喧嘩が強い半グレ」として悪名高いのだから。
なのにあらゆるものに負けて黒田のプライドはズタボロになったのかもしれない。
「黒田は相手が悪かったな。お前じゃたしかに勝てねぇよ……。小田切が誰かと勝負して負けることなんてないもんな」
吉良だって小田切と勝負して勝てるものなど一つもないだろう。
「そうだな……。俺は負けることに慣れてないのかもしれないな……」
「なんだそれ、負け続けてる俺に対する嫌味か?」
冗談混じりに言ってやる。
まったく……。いくつも持ってる奴はいいよな。
「最初から負けるとわかってる勝負には出ないから負けないだけだ」
「お前が負ける勝負なんてないだろ」
小田切が勝てないことなどあるわけない。運動、勉強、喧嘩、歌も絵も上手い。顔もスタイルもいいから美男コンテストでも優勝できそうだ。
「あるんだよ。俺はずっとそいつの1番になりたいと願ってるんだけど、その勝負には勝てそうにない」
小田切がこんな寂しそうな顔をするなんて珍しい。
怒った小田切。「好きな人」の話をする小田切。今日は珍しい小田切の表情ばかり見てきた気がする。
「小田切。お前には俺や岩野達もいるんだから、大丈夫だ。助けが必要ならいつでも言ってくれよ、俺、できる限りのことはするからさ」
小田切でも弱気になることなんてあるんだな。今日はいろんな小田切の知らない一面を知れて良かったなと思った。
「じゃ、『選んで』くれよ……」
小田切が何か呟いた。が、あまりに声が小さくて吉良にはよく聞こえないくらいだった。
「え?」
「なんでもない……。わざわざ俺のとこに来たくせに、結局、黒田の話がしたかっただけなんだろ? 用が済んだらさっさと帰れよっ」
「ご、ごめん……。嫌な話をさせて……迷惑かけたな」
小田切は静かだが、これはきっと内心かなり怒ってる。やっぱり黒田の話なんてしたくなかったんだろう。
「せっかく部屋で休んでたのに、急に来て悪かった。もうこんなことはしない。これからはお前とは学校で話すようにするよ。じゃあ、おやすみ」
そう言って吉良が部屋のドアに手をかけた時だった。
「待て、吉良っ」
呼び止められて、振り返る。
「あの……来て、いいから」
「え?」
「俺の部屋に、また、来てよ」
少しバツが悪そうに言う小田切は、さっき怒鳴った事をもう謝ろうとしてくれてる。やっぱり小田切は優しい奴だ。
「ありがとう、小田切。じゃあまた来るよ。今度は手ぶらじゃなくて、なんか持ってくるから」
笑顔で小田切と別れ、自分の寮に戻る途中、吉良のスマホが鳴った。見ると学校からの「本日の体育祭についてのお知らせ」とある。
その場に立ち止まり、お知らせを読んだついでに、なんとなく気になり『親衛隊サイト』を確認してみる。
先月見たときは吉良の親衛隊は28人というあり得ない数字だった。今でもあれは何かのバグじゃないかと思っている。今見たら、きっと修正されているかもしれない。
吉良 琉平 親衛隊 29人
嘘だろ……。なんで1人増えてるんだよ……。
「え?! 吉良、どうした?!」
小田切はかなり驚いている。学校でこそいつも一緒にいるが、棟の違う小田切の部屋を訪ねたことなどなかった。
「ごめん、急に」
「いや、全然構わないけど」
「ちょっと、学校でのことが気になってさ……」
「そうか。まぁ、入れよ」
小田切は吉良を部屋に誘導し、小田切と同室の奴は「小田切、ゆっくり話していい」と気を利かせたようなことを言い、「風呂に行ってくる」と部屋を出て行ってしまった。
「あのさ、昼間、黒田と話してただろ?」
吉良は早速話を切り出した。
「あー、なんだ、黒田の話……」
小田切の機嫌が少し悪くなった気がする。ヤバい。黒田の話はあまりしたくないのかもしれない。二人はいがみ合っているようだったから。
「黒田と小田切って、何かあったのか? 黒田ってもしかしてお前のこと恨んでる……?」
黒田はクラスに「許せない奴」がいるようだった。それがもしかしたら小田切ではないかと思ったのだ。
小田切は、はぁとため息をついた後、「まぁ座れ」と吉良に机の椅子を促してきた。
「あいつ、くだらねぇよ? この高校入ったばっかりの頃、俺、部活やろうかなと思って見学に行ったんだよ」
そういえば小田切は結局何も部活をしていない。でもやろうとしていたこともあったのか。
「そん時にさ、空手部行ったときに、あいつが『俺最強』みたいにいうから、ちょっとぶっ飛ばしてやろうかなと思って練習試合したら俺、あいつに勝っちゃってさ」
確か黒田は空手の腕に覚えがあったはずだ。そんな奴を小田切は軽くぶっ飛ばしたのか。
「そっからあいつ、俺に勝負を挑んできてさ、柔道でも剣道でも俺が勝ったから、あいつは面白くなかったんだろうな」
黒田は小田切に全敗したのか。
「昔からずっと俺に張り合おうとしてくる奴なんだよ。大したことねぇくせに」
小田切はなんでもできる。黒田だって何もできない奴じゃない。黒田はこの辺りでは「喧嘩が強い半グレ」として悪名高いのだから。
なのにあらゆるものに負けて黒田のプライドはズタボロになったのかもしれない。
「黒田は相手が悪かったな。お前じゃたしかに勝てねぇよ……。小田切が誰かと勝負して負けることなんてないもんな」
吉良だって小田切と勝負して勝てるものなど一つもないだろう。
「そうだな……。俺は負けることに慣れてないのかもしれないな……」
「なんだそれ、負け続けてる俺に対する嫌味か?」
冗談混じりに言ってやる。
まったく……。いくつも持ってる奴はいいよな。
「最初から負けるとわかってる勝負には出ないから負けないだけだ」
「お前が負ける勝負なんてないだろ」
小田切が勝てないことなどあるわけない。運動、勉強、喧嘩、歌も絵も上手い。顔もスタイルもいいから美男コンテストでも優勝できそうだ。
「あるんだよ。俺はずっとそいつの1番になりたいと願ってるんだけど、その勝負には勝てそうにない」
小田切がこんな寂しそうな顔をするなんて珍しい。
怒った小田切。「好きな人」の話をする小田切。今日は珍しい小田切の表情ばかり見てきた気がする。
「小田切。お前には俺や岩野達もいるんだから、大丈夫だ。助けが必要ならいつでも言ってくれよ、俺、できる限りのことはするからさ」
小田切でも弱気になることなんてあるんだな。今日はいろんな小田切の知らない一面を知れて良かったなと思った。
「じゃ、『選んで』くれよ……」
小田切が何か呟いた。が、あまりに声が小さくて吉良にはよく聞こえないくらいだった。
「え?」
「なんでもない……。わざわざ俺のとこに来たくせに、結局、黒田の話がしたかっただけなんだろ? 用が済んだらさっさと帰れよっ」
「ご、ごめん……。嫌な話をさせて……迷惑かけたな」
小田切は静かだが、これはきっと内心かなり怒ってる。やっぱり黒田の話なんてしたくなかったんだろう。
「せっかく部屋で休んでたのに、急に来て悪かった。もうこんなことはしない。これからはお前とは学校で話すようにするよ。じゃあ、おやすみ」
そう言って吉良が部屋のドアに手をかけた時だった。
「待て、吉良っ」
呼び止められて、振り返る。
「あの……来て、いいから」
「え?」
「俺の部屋に、また、来てよ」
少しバツが悪そうに言う小田切は、さっき怒鳴った事をもう謝ろうとしてくれてる。やっぱり小田切は優しい奴だ。
「ありがとう、小田切。じゃあまた来るよ。今度は手ぶらじゃなくて、なんか持ってくるから」
笑顔で小田切と別れ、自分の寮に戻る途中、吉良のスマホが鳴った。見ると学校からの「本日の体育祭についてのお知らせ」とある。
その場に立ち止まり、お知らせを読んだついでに、なんとなく気になり『親衛隊サイト』を確認してみる。
先月見たときは吉良の親衛隊は28人というあり得ない数字だった。今でもあれは何かのバグじゃないかと思っている。今見たら、きっと修正されているかもしれない。
吉良 琉平 親衛隊 29人
嘘だろ……。なんで1人増えてるんだよ……。
45
お気に入りに追加
812
あなたにおすすめの小説
俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
父が腐男子で困ってます!
あさみ
BL
父子家庭に育った尾崎リョウは16歳の誕生日に、若くてイケメンの父、宗親(ムネチカ)に腐男子である事をカミングアウトされる。
趣味に文句は言わないと思うリョウだったが、宗親のBL妄想はリョウの友人×リョウだった。
いつでも誰といても、友人×リョウで妄想されては聞かされるリョウは大迷惑。
しかも学校にいる美少年をチェックしては勧めてくる始末。
どう見ても自分と釣り合わない優等生や、芸能人の美少年まで攻キャラとして推してくる。
宗親本人は腐男子であるだけで、恋愛対象は美女だという事で、自分勝手にリョウだけを振り回す毎日。
友人達はみんな心が広く、宗親の趣味を受け入れたり、面白がったりで、今までよりもリョウの家に集まるようになる。
そんな中、宗親に感化されたかのように、自分も腐男子かもしれないと言いだす友人や、リョウの事を好きになったとストレートに伝えてくる友達まで現れてしまう。
宗親の思い通りにはなりたくないと思うリョウだが、友人達の事も気になりだして……。
腐男子の父親に振り回される、突っ込み系主人公総受けBLラブコメ。
多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。
突然現れたアイドルを家に匿うことになりました
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。
凪沢優貴(20)人気アイドル。
日向影虎(20)平凡。工場作業員。
高埜(21)日向の同僚。
久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。
身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく
かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話
※イジメや暴力の描写があります
※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません
※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください
pixivにて連載し完結した作品です
2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。
お気に入りや感想、本当にありがとうございます!
感謝してもし尽くせません………!
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
【完結・短編】game
七瀬おむ
BL
仕事に忙殺される社会人がゲーム実況で救われる話。
美形×平凡/ヤンデレ感あり/社会人
<あらすじ>
社会人の高井 直樹(たかい なおき)は、仕事に忙殺され、疲れ切った日々を過ごしていた。そんなとき、ハイスペックイケメンの友人である篠原 大和(しのはら やまと)に2人組のゲーム実況者として一緒にやらないかと誘われる。直樹は仕事のかたわら、ゲーム実況を大和と共にやっていくことに楽しさを見出していくが……。
とある隠密の受難
nionea
BL
普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。
銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密
果たして隠密は無事貞操を守れるのか。
頑張れ隠密。
負けるな隠密。
読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。
※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる