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4.届かない
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大学のキャンパス内。対峙する翔と慶介の間に、10月の涼しい風が吹き抜けた。
「そうだよ、だって慶介に振られてマジでムカついて、あの時の俺は、お前にヤキモチ焼いて振り向いてもらいたくて諒平と付き合ったんだよ!!」
当初の目的はそうだった。
「だろ? だったら今俺がお前の望み通り告白してんだから、俺と付き合えよ」
当初の狙いもそれだった。
「そうなんだけどさ……。俺、諒平と別れてみて気づいちまったんだよ……」
自分から意気揚々と諒平と別れたくせに、いざ諒平を失ってみると生活が一変した。
同じ授業を受けていても諒平は全く話しかけて来なくなった。
一限の朝は諒平が迎えに来ないので遅刻した。
翔が飲み過ぎても誰も迎えに来ない。
暇な時に気軽に呼べる相手がいない。
愛の言葉が並べられたLINEも来ない。
授業のない日、翔の家に来て昼と夜と料理を作ってくれる人もいない。
「これお前好きそうだから」とプレゼントを貰うこともない。
「お前が俺の恋人だなんて夢みたいだよ」といつも隣で笑ってくれていた人もいなくなった。
皮肉なことに、諒平を失ってみて初めて翔は諒平の大切さに気づけたのだ。
そしてこの時になってやっと、自分が好きなのはもはや慶介ではなく、諒平だったとわかった。この三ヶ月、擬似ではあったが諒平と一緒にいて、その優しさを享受して、そして失ってみて気がついた。
——俺は諒平と一緒にいたい。諒平がいないとダメなんだ。
そのため、慶介の告白を断って、諒平のもとに戻ろうと思ったのだ。
「え?! 翔、お前まさか?! 俺じゃなくて諒平のことを——」
慶介がそう言いかけた時だった。
「おいっ! 翔! 今の話どういうことだよっ!」
翔と慶介、二人の会話に乱入してきたのは諒平だった。
「え?!」
突然の諒平の登場に腰が抜けるくらいに驚いた。
「お前って奴は……。そうだよな、俺もおかしいと思ってたんだ。急に俺の告白を受け入れてくれたし、付き合ってからもお前は俺のことを大切に思ってる感じはなかった。どうせ都合の良い男だったんだろ? 決定的なのは、俺がお前に触れようとする度に翔、お前は逃げた! 『恥ずかしいから』っていうお前の言葉を本気で信じた俺がバカだった。今になってわかった。お前、俺のことが好きじゃないのに俺の恋人になったんだな? だからっ! だからっ……」
諒平は思いの丈を捲し立て、涙を流している。
「お前の狙い通り、慶介が振り向いてくれたんだな?! 俺を利用して……。『好きな人ができたから別れてくれ』って二週間前にお前、俺に言ったよな?! あれって嘘だったんだろ?! 最初から、俺と付き合ってる時だって、翔の心の中は慶介でいっぱいだったんだろ?! ずっと慶介の事しか考えてなかったんだろ?!」
諒平は止まらない。
「俺、お前と付き合えたなんて浮かれて馬鹿みたいだ……。翔は俺の事なんてなんとも思ってなかったのに……」
「落ち着け、諒平っ! そうじゃない。最初は確かにそう思ってお前と付き合ったんだ。でも今は違う。今の俺が好きなのは——」
「翔! 認めたな! 俺を利用して慶介の気を引きたかった。そして上手いこと慶介に告白されたんだろ? そりゃ、俺のことなんてゴミみたいに捨てるよな? でも翔、あんまりだ……。俺は本当にお前の事が好きだったのに……。こんな……」
諒平は錯乱状態に陥っている。
好きな人と付き合えたと思ったら実はそれがフェイクで、自分は利用されていただけだと知ったらそれは怒りと悲しみで精神が崩壊するだろう。
でも。
翔には諒平に伝えたい気持ちがある。
今の翔は、フェイクで付き合っていたはずの諒平のことを本当に好きになってしまったのだから。
「諒平、聞いてくれよっ」
「嫌だ! もう何も聞きたくない! 誰も信じられねぇよ!!」
「諒平!」
諒平は、その場を走り去ってしまった。嘘で付き合っていたという事実だけを知り、今の本当の翔の気持ちを知らないまま。
「翔、あいつヤベェぞ。マジで翔のこと好きだったもんな……」
わざわざ言うなよ、慶介。
そんなことは翔自身が一番よくわかっている。
「なんであいつがここに来んだよ……」
翔が諒平を利用していた事実さえ隠し通せれば、「ごめん、やっぱり諒平お前が好きだった」と今さらながらも戻れたかもしれない。そして今度こそ本当の恋人同士として諒平と一緒にいられたかもしれない。
「翔、あれはもう無理だ。諒平を諦めて俺と付き合えよ」
その場に座り込んでいた翔の肩を慶介がぽんと叩く。
「ふざけんな……。俺は三ヶ月前の俺じゃない。諒平に謝り倒して許して貰うしかねぇんだよ……」
今の翔は諒平のことが好きだ。
たとえ今さっき、翔の悪事がバレた瞬間に諒平に嫌われてしまったとしても。
「そうだよ、だって慶介に振られてマジでムカついて、あの時の俺は、お前にヤキモチ焼いて振り向いてもらいたくて諒平と付き合ったんだよ!!」
当初の目的はそうだった。
「だろ? だったら今俺がお前の望み通り告白してんだから、俺と付き合えよ」
当初の狙いもそれだった。
「そうなんだけどさ……。俺、諒平と別れてみて気づいちまったんだよ……」
自分から意気揚々と諒平と別れたくせに、いざ諒平を失ってみると生活が一変した。
同じ授業を受けていても諒平は全く話しかけて来なくなった。
一限の朝は諒平が迎えに来ないので遅刻した。
翔が飲み過ぎても誰も迎えに来ない。
暇な時に気軽に呼べる相手がいない。
愛の言葉が並べられたLINEも来ない。
授業のない日、翔の家に来て昼と夜と料理を作ってくれる人もいない。
「これお前好きそうだから」とプレゼントを貰うこともない。
「お前が俺の恋人だなんて夢みたいだよ」といつも隣で笑ってくれていた人もいなくなった。
皮肉なことに、諒平を失ってみて初めて翔は諒平の大切さに気づけたのだ。
そしてこの時になってやっと、自分が好きなのはもはや慶介ではなく、諒平だったとわかった。この三ヶ月、擬似ではあったが諒平と一緒にいて、その優しさを享受して、そして失ってみて気がついた。
——俺は諒平と一緒にいたい。諒平がいないとダメなんだ。
そのため、慶介の告白を断って、諒平のもとに戻ろうと思ったのだ。
「え?! 翔、お前まさか?! 俺じゃなくて諒平のことを——」
慶介がそう言いかけた時だった。
「おいっ! 翔! 今の話どういうことだよっ!」
翔と慶介、二人の会話に乱入してきたのは諒平だった。
「え?!」
突然の諒平の登場に腰が抜けるくらいに驚いた。
「お前って奴は……。そうだよな、俺もおかしいと思ってたんだ。急に俺の告白を受け入れてくれたし、付き合ってからもお前は俺のことを大切に思ってる感じはなかった。どうせ都合の良い男だったんだろ? 決定的なのは、俺がお前に触れようとする度に翔、お前は逃げた! 『恥ずかしいから』っていうお前の言葉を本気で信じた俺がバカだった。今になってわかった。お前、俺のことが好きじゃないのに俺の恋人になったんだな? だからっ! だからっ……」
諒平は思いの丈を捲し立て、涙を流している。
「お前の狙い通り、慶介が振り向いてくれたんだな?! 俺を利用して……。『好きな人ができたから別れてくれ』って二週間前にお前、俺に言ったよな?! あれって嘘だったんだろ?! 最初から、俺と付き合ってる時だって、翔の心の中は慶介でいっぱいだったんだろ?! ずっと慶介の事しか考えてなかったんだろ?!」
諒平は止まらない。
「俺、お前と付き合えたなんて浮かれて馬鹿みたいだ……。翔は俺の事なんてなんとも思ってなかったのに……」
「落ち着け、諒平っ! そうじゃない。最初は確かにそう思ってお前と付き合ったんだ。でも今は違う。今の俺が好きなのは——」
「翔! 認めたな! 俺を利用して慶介の気を引きたかった。そして上手いこと慶介に告白されたんだろ? そりゃ、俺のことなんてゴミみたいに捨てるよな? でも翔、あんまりだ……。俺は本当にお前の事が好きだったのに……。こんな……」
諒平は錯乱状態に陥っている。
好きな人と付き合えたと思ったら実はそれがフェイクで、自分は利用されていただけだと知ったらそれは怒りと悲しみで精神が崩壊するだろう。
でも。
翔には諒平に伝えたい気持ちがある。
今の翔は、フェイクで付き合っていたはずの諒平のことを本当に好きになってしまったのだから。
「諒平、聞いてくれよっ」
「嫌だ! もう何も聞きたくない! 誰も信じられねぇよ!!」
「諒平!」
諒平は、その場を走り去ってしまった。嘘で付き合っていたという事実だけを知り、今の本当の翔の気持ちを知らないまま。
「翔、あいつヤベェぞ。マジで翔のこと好きだったもんな……」
わざわざ言うなよ、慶介。
そんなことは翔自身が一番よくわかっている。
「なんであいつがここに来んだよ……」
翔が諒平を利用していた事実さえ隠し通せれば、「ごめん、やっぱり諒平お前が好きだった」と今さらながらも戻れたかもしれない。そして今度こそ本当の恋人同士として諒平と一緒にいられたかもしれない。
「翔、あれはもう無理だ。諒平を諦めて俺と付き合えよ」
その場に座り込んでいた翔の肩を慶介がぽんと叩く。
「ふざけんな……。俺は三ヶ月前の俺じゃない。諒平に謝り倒して許して貰うしかねぇんだよ……」
今の翔は諒平のことが好きだ。
たとえ今さっき、翔の悪事がバレた瞬間に諒平に嫌われてしまったとしても。
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