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3.片想い 〜翔side〜
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「なぁ、翔。お前、やっぱり俺と付き合えないって一体どういうことなんだ?!」
慶介に詰め寄られる。この展開は翔が予想していた通りの展開だった。
「だから、そういう意味だよ。俺はもう他に好きな人が出来たんだ」
自分でも信じられないことだが、今の翔が好きなのは慶介ではなかった。あんなにも長い間片想いをしていた相手なのに、心変わりするとは想像すらできなかった。
「だってさ、お前、ちょっと前までは俺にべったりでさ、三ヶ月前は付き合ってくれって俺に告白してきただろ?! それがなんで俺がお前を好きになった途端にさ……」
慶介は心底驚いているようだ。無理もない。翔自身ですら驚いているのだから。
「慶介。お前は俺のことなんて好きじゃない。きっとただの独占欲だよ」
三ヶ月前、翔が慶介に告白した時に慶介が受け入れてくれていれば、今頃なんの問題もなく二人は恋人同士になれていただろう。だが、もう遅い。
本当に不思議だ。二週間前は、慶介と付き合う気満々で諒平と別れたというのに。
「なぁ、翔。考え直してくれよ。俺がバカだった。お前に好かれて当然だってどこか調子に乗ってたんだ。それが急にお前が諒平なんかと付き合い出してマジでびっくりしたわ。でもどうせお前、俺に振られた腹いせに諒平と付き合いだしたんだろ?」
翔は「そうだ」と頷く。
翔は諒平の純粋な恋心を利用したのだ。
諒平はいつも翔の傍にいた。
大学に入ってからすぐに諒平は何かと翔に話しかけてきた。翔がいくら邪険に扱ってもいつも笑顔で「翔はいい奴だ」と褒めてくれた。
翔が遅刻魔なのを知って、翔は一限の授業がある時は駅で原付に乗って翔のことを待っていた。「俺を待つな。お前まで遅刻するぞ」というと「偶然居合わせたんだよ」と言う。でもあれは絶対に偶然などではないと断言できる。
諒平は、翔に「お前が好きだ。付き合ってほしい」と告白してきた。だが翔はずっと慶介に片想いをしていたので、諒平の告白を断った。それなのに「友達でもいいからそばにいたい」と翔から離れようとしなかった。
そして翔は三ヶ月前、慶介についに告白した。少しの自信はあった。サークル内に限れば、慶介と最も仲が良いのは自分だという自負があったし、何より慶介は一度きりだが、酔って翔を「好きだ」と抱き締めてきたことがあったからだ。
それなのに慶介は「俺はお前と付き合う気はない」と言ったのだ。
ショックだった。きっぱりと断られ、心もプライドも全てがズタズタに引き裂かれるような思いだった。
悲しくて、悔しくて、なんで受け入れてくれないんだと怒りにも似た感情まであった。
そんな感情の中、再び翔に告白してきたのが諒平だった。自暴自棄になっていた翔は半ば投げやり、俺を振って後悔しろと慶介に対する当て付けで、諒平との交際を受け入れたのだ。
諒平とはもともと友人関係だったので、二人の関係性にほぼ変化はなかった。翔はそれも計算尽くだ。翔と諒平は男同士なので、恋人同士としての行為さえなければただの友達と変わらない。ただ諒平が誘ってくるので二人で遊びに行ったりする回数が増えたくらいだった。
翔が最も困ったのは諒平の部屋で二人きりになった時だ。二人きりになると諒平は翔を抱き締めたいだの、キスをしたいだのと恋人っぽいことを求めてきた。だが翔は「恥ずかしいから」と拒否し続けた。それを受けて諒平はそれ以上無理矢理に何かを仕掛けてくることはなく、毎回なんとなくその場を取り繕って終わった。
性的な接触は何も無くても、諒平は常に翔に対して優しかった。翔が会いたいと言えばいつでも来てくれるし、LINEの返信も早い。翔が体調を崩せば甲斐甲斐しく世話もしてくれた。はっきり言って一緒にいて居心地が良かった。
翔と諒平が別れる前日の出来事だ。
いつも諒平の家にいても終電までには家に帰るのだが、その日はつい遅くなってしまい終電を逃した。
「翔、泊まってけば?」
諒平の言うことは最もだった。だって一応翔と諒平は恋人同士になって三ヶ月になろうとしていたところだったし、今思えば、その頃の翔の気持ちには少し変化が起きていた。
「そーするわ。悪りぃな、諒平」
翔はシャワーや服を諒平から借りて、当然のようにベッドも借りた。諒平は床で寝ようとしていたので、つい声をかけた。
「諒平。一緒に寝ようぜ、俺は構わないから」
翔がそう言うと、諒平は自分のベッドなのに「すまない」と言い、ベッドに潜り込んできた。二人で初めて同じベッドで寝た夜だった。
その頃、翔が諒平と付き合っていることを知った慶介は、翔の思惑通りにやたら翔にアピールしてきた。自分で振ったくせにいざ他の男のものになったと聞いた途端に翔のことが惜しくなったのだろう。実際に「お前を振ったことを今更後悔している」とまで翔に言ってきた。
翔は心の中でガッツポーズだ。まんまと自分の策略に引っかかって、慶介の気を引くことができた。あとは諒平と別れて慶介と付き合うだけだ。
多分、今回が諒平と一緒に同じベッドで寝る、最初で最後の夜だ。そう思うと、散々自分に尽くしてくれた諒平に対して「まぁ少しはご褒美でもやってもいいか」という随分と傲慢な気持ちが沸いてきたのだ。
「いつもありがとな、諒平」
そう言って自分に背を向けて端っこで申し訳なさそうに寝ていた諒平の背中にそっと身体を寄せた。
それにピクッと諒平が反応したのがわかった。
「なんだよ、気持ち悪りぃな、いつも礼なんか言わねぇのに」
諒平はこちらに背を向けたまま言った。
「マジでお前はいい奴だよ」
本当にそう思う。恋人となった翔に触れることを一切拒否されても笑顔で尽くしてくれた。そして明日の朝には翔に「他に好きな人がいるから」と振られる運命だ。
「なぁ、翔」
諒平はぽつり話を始めた。
「ん?」
「俺さ、お前と手を繋いで寝てもいいかな?」
諒平が真剣にそんな可愛い小さな願い事を言うので、思わず吹き出しそうになった。仮にも恋心同士なのに付き合って三ヶ月、手を繋ぐことすらなかったなと今さら振り返る。
「いいよ」
翔が了承すると諒平はこちらを向き、おずおずと手を握ってきた。
「ありがとう、翔」
その時の諒平は嬉しさのあまりなのか、嗚咽を漏らし、泣いていた。
慶介に詰め寄られる。この展開は翔が予想していた通りの展開だった。
「だから、そういう意味だよ。俺はもう他に好きな人が出来たんだ」
自分でも信じられないことだが、今の翔が好きなのは慶介ではなかった。あんなにも長い間片想いをしていた相手なのに、心変わりするとは想像すらできなかった。
「だってさ、お前、ちょっと前までは俺にべったりでさ、三ヶ月前は付き合ってくれって俺に告白してきただろ?! それがなんで俺がお前を好きになった途端にさ……」
慶介は心底驚いているようだ。無理もない。翔自身ですら驚いているのだから。
「慶介。お前は俺のことなんて好きじゃない。きっとただの独占欲だよ」
三ヶ月前、翔が慶介に告白した時に慶介が受け入れてくれていれば、今頃なんの問題もなく二人は恋人同士になれていただろう。だが、もう遅い。
本当に不思議だ。二週間前は、慶介と付き合う気満々で諒平と別れたというのに。
「なぁ、翔。考え直してくれよ。俺がバカだった。お前に好かれて当然だってどこか調子に乗ってたんだ。それが急にお前が諒平なんかと付き合い出してマジでびっくりしたわ。でもどうせお前、俺に振られた腹いせに諒平と付き合いだしたんだろ?」
翔は「そうだ」と頷く。
翔は諒平の純粋な恋心を利用したのだ。
諒平はいつも翔の傍にいた。
大学に入ってからすぐに諒平は何かと翔に話しかけてきた。翔がいくら邪険に扱ってもいつも笑顔で「翔はいい奴だ」と褒めてくれた。
翔が遅刻魔なのを知って、翔は一限の授業がある時は駅で原付に乗って翔のことを待っていた。「俺を待つな。お前まで遅刻するぞ」というと「偶然居合わせたんだよ」と言う。でもあれは絶対に偶然などではないと断言できる。
諒平は、翔に「お前が好きだ。付き合ってほしい」と告白してきた。だが翔はずっと慶介に片想いをしていたので、諒平の告白を断った。それなのに「友達でもいいからそばにいたい」と翔から離れようとしなかった。
そして翔は三ヶ月前、慶介についに告白した。少しの自信はあった。サークル内に限れば、慶介と最も仲が良いのは自分だという自負があったし、何より慶介は一度きりだが、酔って翔を「好きだ」と抱き締めてきたことがあったからだ。
それなのに慶介は「俺はお前と付き合う気はない」と言ったのだ。
ショックだった。きっぱりと断られ、心もプライドも全てがズタズタに引き裂かれるような思いだった。
悲しくて、悔しくて、なんで受け入れてくれないんだと怒りにも似た感情まであった。
そんな感情の中、再び翔に告白してきたのが諒平だった。自暴自棄になっていた翔は半ば投げやり、俺を振って後悔しろと慶介に対する当て付けで、諒平との交際を受け入れたのだ。
諒平とはもともと友人関係だったので、二人の関係性にほぼ変化はなかった。翔はそれも計算尽くだ。翔と諒平は男同士なので、恋人同士としての行為さえなければただの友達と変わらない。ただ諒平が誘ってくるので二人で遊びに行ったりする回数が増えたくらいだった。
翔が最も困ったのは諒平の部屋で二人きりになった時だ。二人きりになると諒平は翔を抱き締めたいだの、キスをしたいだのと恋人っぽいことを求めてきた。だが翔は「恥ずかしいから」と拒否し続けた。それを受けて諒平はそれ以上無理矢理に何かを仕掛けてくることはなく、毎回なんとなくその場を取り繕って終わった。
性的な接触は何も無くても、諒平は常に翔に対して優しかった。翔が会いたいと言えばいつでも来てくれるし、LINEの返信も早い。翔が体調を崩せば甲斐甲斐しく世話もしてくれた。はっきり言って一緒にいて居心地が良かった。
翔と諒平が別れる前日の出来事だ。
いつも諒平の家にいても終電までには家に帰るのだが、その日はつい遅くなってしまい終電を逃した。
「翔、泊まってけば?」
諒平の言うことは最もだった。だって一応翔と諒平は恋人同士になって三ヶ月になろうとしていたところだったし、今思えば、その頃の翔の気持ちには少し変化が起きていた。
「そーするわ。悪りぃな、諒平」
翔はシャワーや服を諒平から借りて、当然のようにベッドも借りた。諒平は床で寝ようとしていたので、つい声をかけた。
「諒平。一緒に寝ようぜ、俺は構わないから」
翔がそう言うと、諒平は自分のベッドなのに「すまない」と言い、ベッドに潜り込んできた。二人で初めて同じベッドで寝た夜だった。
その頃、翔が諒平と付き合っていることを知った慶介は、翔の思惑通りにやたら翔にアピールしてきた。自分で振ったくせにいざ他の男のものになったと聞いた途端に翔のことが惜しくなったのだろう。実際に「お前を振ったことを今更後悔している」とまで翔に言ってきた。
翔は心の中でガッツポーズだ。まんまと自分の策略に引っかかって、慶介の気を引くことができた。あとは諒平と別れて慶介と付き合うだけだ。
多分、今回が諒平と一緒に同じベッドで寝る、最初で最後の夜だ。そう思うと、散々自分に尽くしてくれた諒平に対して「まぁ少しはご褒美でもやってもいいか」という随分と傲慢な気持ちが沸いてきたのだ。
「いつもありがとな、諒平」
そう言って自分に背を向けて端っこで申し訳なさそうに寝ていた諒平の背中にそっと身体を寄せた。
それにピクッと諒平が反応したのがわかった。
「なんだよ、気持ち悪りぃな、いつも礼なんか言わねぇのに」
諒平はこちらに背を向けたまま言った。
「マジでお前はいい奴だよ」
本当にそう思う。恋人となった翔に触れることを一切拒否されても笑顔で尽くしてくれた。そして明日の朝には翔に「他に好きな人がいるから」と振られる運命だ。
「なぁ、翔」
諒平はぽつり話を始めた。
「ん?」
「俺さ、お前と手を繋いで寝てもいいかな?」
諒平が真剣にそんな可愛い小さな願い事を言うので、思わず吹き出しそうになった。仮にも恋心同士なのに付き合って三ヶ月、手を繋ぐことすらなかったなと今さら振り返る。
「いいよ」
翔が了承すると諒平はこちらを向き、おずおずと手を握ってきた。
「ありがとう、翔」
その時の諒平は嬉しさのあまりなのか、嗚咽を漏らし、泣いていた。
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