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9.ゲーム終了
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次の日の朝、早坂は俺を迎えに来なかった。
その理由は登校したらわかった。
学校では、波田野と羽並が付き合うことになったと噂が大々的に流れていたからだ。
早坂は告白ゲームに負けたんだな。
どうやらゲームの勝者は波田野で、勝負がついたから、早坂は俺を追いかけることをやめたのだろう。
それにしてもあっさり終わったな。
あんなにグイグイ来てたくせに、早坂はぱったり俺を構うことをやめた。なんてわかりやすい奴なんだ。
「なぁ、乃木。早坂となんかあったの?」
放課後になり、石井が心配そうに俺に声をかけてきた。
「うん。ちょっとな。もう早坂は俺のところには来ないよ」
今朝、ひとりきりで登校したときすごく寂しかった。
メールも今朝から一通もこない。
学校でもひと言も話しかけてこなかった。
早坂と目が合えば笑ってくれたのに、今日は早坂を見ていても一度も目が合わなかった。
全部、告白ゲームをする前の生活に戻っただけだ。
それなのにこの喪失感はなんなんだろう。早坂のことを考えるだけで胸がちくりと痛むのはどうしてだろう。
「あ、いたいた! 乃木っ!」
俺に駆け寄ってきたのは波田野だった。
「乃木、あのさ、ちょっとだけ話がしたいんだけどいいかな?」
波田野がおれになんの話があるというのだろう。まったく身に覚えがないぞ。
「悪い話じゃない、ちょっと聞きたいことがあるだけ! お前を責めたりしないから」
「……わかった。いいよ」
首をかしげつつも、波田野はいったい何を話したいのかが気になって、俺は波田野についていくことにした。
波田野に連れてこられたのは空き教室だった。
波田野とふたり、教壇の前にある机を二つ並べてくっつけたあと、その机の椅子に座り向き合った。
「乃木さぁ、やっぱ男は無理だった?」
「なんの話だ?!」
開口一番、なんだよ波田野は!
「まさかあの早坂が振られるとはなぁ。ちょっと前に会ったときはお前ら手ェ繋いで歩いてたじゃん」
「あっ、あれはその、変な成り行きで……」
あれは早坂に無理難題を押しつけたつもりが、手を繋がれてしまっただけだ。
「何? 成り行きって」
波田野はさらに突っ込んできた。
「だから、俺は全部知ってたんだよ。告白ゲームは波田野の勝ちってことだよな?」
「告白ゲーム?」
「俺、実は波田野たちの話を聞いてたんだ。最初にぶつかった奴に告白して、一番にオーケーもらえた奴が勝ちっていうゲームをしてたんだろ? それで、俺はたまたま早坂とぶつかったから早坂の攻略対象になって、波田野は羽並を狙ってて、それで波田野が勝ったんだろ?」
俺の言葉になぜか波田野は怪訝な顔をする。
言い出したのは波田野のくせに、まさか知らないとは言わせないぞ!
「乃木、あの話を聞いてたのか?!」
波田野がひどく驚いている。俺にバレていないと思ってたみたいだ。
「あぁ。聞いてた」
「マジかよ! お前あのとき勉強してて俺たちのほうなんて気にもしちゃいなかっただろ?!」
「ふりだよ。勉強するふりして、実は聞き耳立ててた」
「うっわ、あれ聞かれてたんだ……」
三人はなかなかの声量で話してたように思うが、がっつり聞き耳を立てていないと話の筋まではわからなかったとは思う。
「そうだよ、だから早坂に嫌がらせをして追っ払ったんだ」
「乃木、お前、なんでそんな勘違いをしたんだよ! 聞き耳立てるなら最後まで聞いてけよ!」
「え?」
最後まで、とはどういうことだ……?
「俺は早坂からなんでこの高校に転校してきたかを聞いて、お節介かもしれないけど、告白ゲームをしようって言ったんだ」
「どういうことだ?」
「三ヶ月経ってもろくに話もできないって早坂が言うから、告白ゲームってことにすれば早坂もやりやすいかなと思って、あんなことを言って早坂を突き飛ばして乃木にぶつけたの!」
「ん?!」
「でもさ、すぐに『そんな乃木を騙すようなゲームはしたくない』って早坂に断られた。『自力で頑張るから』って早坂が言うからゲームの話はなくなったんだよ」
「えっ……」
告白ゲームじゃなかった。
ということは、早坂は本心で俺に近づいてきていたのか……?
一緒に帰ろうって声をかけてきたのも、ゲームの攻略のためじゃなく、本当に俺と一緒に帰りたかったから?
「可愛い」
「乃木のこともっと知りたい」
「好きだ」
あのとき繋いだ手も、キスも、告白だって全部ゲームのためじゃなかった……?
「嘘だろ……?!」
早坂は真摯に向き合ってくれたのに、それに対して俺は何をした?
スポドリ買ってこいと早坂をパシるところから始まって、毎日迎えに来いだの、メール寄越せだの、何を偉そうに……。
早坂は相当辛かったんじゃないのか?!
それなのに、俺に「好きだ」って告白してくれた。
その告白すら、俺はきっぱり拒絶した。あのとき早坂はどう思ったのだろう。
「嘘だろ……」
早坂に悪いことをした。謝っても許されないくらい、酷いことを。
告白ゲームは初めからなかった。
それなのに今日、早坂は俺を迎えに来なかった。そのことが、早坂の答えに違いない。
早坂は俺のことをついに嫌いになったんだ。
嫌われて当然だ。あんなに早坂に意地悪ばかりして、いくら優しい早坂でも限界ってものがある。
「波田野、俺どうしよう……。早坂に酷いことをした。だって、だって全部告白ゲームのためにやってるんだって思ってたから……あんないい奴を俺は振り回して傷つけて……」
波田野に言っても意味のないことなのに、どうしても懺悔したかった。
「俺、早坂に嫌われた……本当は、本当は俺、早坂のこと……」
自分がやってしまったことも、時間も戻らない。
つい昨日まで、早坂は俺のそばにいてくれたのに。
その理由は登校したらわかった。
学校では、波田野と羽並が付き合うことになったと噂が大々的に流れていたからだ。
早坂は告白ゲームに負けたんだな。
どうやらゲームの勝者は波田野で、勝負がついたから、早坂は俺を追いかけることをやめたのだろう。
それにしてもあっさり終わったな。
あんなにグイグイ来てたくせに、早坂はぱったり俺を構うことをやめた。なんてわかりやすい奴なんだ。
「なぁ、乃木。早坂となんかあったの?」
放課後になり、石井が心配そうに俺に声をかけてきた。
「うん。ちょっとな。もう早坂は俺のところには来ないよ」
今朝、ひとりきりで登校したときすごく寂しかった。
メールも今朝から一通もこない。
学校でもひと言も話しかけてこなかった。
早坂と目が合えば笑ってくれたのに、今日は早坂を見ていても一度も目が合わなかった。
全部、告白ゲームをする前の生活に戻っただけだ。
それなのにこの喪失感はなんなんだろう。早坂のことを考えるだけで胸がちくりと痛むのはどうしてだろう。
「あ、いたいた! 乃木っ!」
俺に駆け寄ってきたのは波田野だった。
「乃木、あのさ、ちょっとだけ話がしたいんだけどいいかな?」
波田野がおれになんの話があるというのだろう。まったく身に覚えがないぞ。
「悪い話じゃない、ちょっと聞きたいことがあるだけ! お前を責めたりしないから」
「……わかった。いいよ」
首をかしげつつも、波田野はいったい何を話したいのかが気になって、俺は波田野についていくことにした。
波田野に連れてこられたのは空き教室だった。
波田野とふたり、教壇の前にある机を二つ並べてくっつけたあと、その机の椅子に座り向き合った。
「乃木さぁ、やっぱ男は無理だった?」
「なんの話だ?!」
開口一番、なんだよ波田野は!
「まさかあの早坂が振られるとはなぁ。ちょっと前に会ったときはお前ら手ェ繋いで歩いてたじゃん」
「あっ、あれはその、変な成り行きで……」
あれは早坂に無理難題を押しつけたつもりが、手を繋がれてしまっただけだ。
「何? 成り行きって」
波田野はさらに突っ込んできた。
「だから、俺は全部知ってたんだよ。告白ゲームは波田野の勝ちってことだよな?」
「告白ゲーム?」
「俺、実は波田野たちの話を聞いてたんだ。最初にぶつかった奴に告白して、一番にオーケーもらえた奴が勝ちっていうゲームをしてたんだろ? それで、俺はたまたま早坂とぶつかったから早坂の攻略対象になって、波田野は羽並を狙ってて、それで波田野が勝ったんだろ?」
俺の言葉になぜか波田野は怪訝な顔をする。
言い出したのは波田野のくせに、まさか知らないとは言わせないぞ!
「乃木、あの話を聞いてたのか?!」
波田野がひどく驚いている。俺にバレていないと思ってたみたいだ。
「あぁ。聞いてた」
「マジかよ! お前あのとき勉強してて俺たちのほうなんて気にもしちゃいなかっただろ?!」
「ふりだよ。勉強するふりして、実は聞き耳立ててた」
「うっわ、あれ聞かれてたんだ……」
三人はなかなかの声量で話してたように思うが、がっつり聞き耳を立てていないと話の筋まではわからなかったとは思う。
「そうだよ、だから早坂に嫌がらせをして追っ払ったんだ」
「乃木、お前、なんでそんな勘違いをしたんだよ! 聞き耳立てるなら最後まで聞いてけよ!」
「え?」
最後まで、とはどういうことだ……?
「俺は早坂からなんでこの高校に転校してきたかを聞いて、お節介かもしれないけど、告白ゲームをしようって言ったんだ」
「どういうことだ?」
「三ヶ月経ってもろくに話もできないって早坂が言うから、告白ゲームってことにすれば早坂もやりやすいかなと思って、あんなことを言って早坂を突き飛ばして乃木にぶつけたの!」
「ん?!」
「でもさ、すぐに『そんな乃木を騙すようなゲームはしたくない』って早坂に断られた。『自力で頑張るから』って早坂が言うからゲームの話はなくなったんだよ」
「えっ……」
告白ゲームじゃなかった。
ということは、早坂は本心で俺に近づいてきていたのか……?
一緒に帰ろうって声をかけてきたのも、ゲームの攻略のためじゃなく、本当に俺と一緒に帰りたかったから?
「可愛い」
「乃木のこともっと知りたい」
「好きだ」
あのとき繋いだ手も、キスも、告白だって全部ゲームのためじゃなかった……?
「嘘だろ……?!」
早坂は真摯に向き合ってくれたのに、それに対して俺は何をした?
スポドリ買ってこいと早坂をパシるところから始まって、毎日迎えに来いだの、メール寄越せだの、何を偉そうに……。
早坂は相当辛かったんじゃないのか?!
それなのに、俺に「好きだ」って告白してくれた。
その告白すら、俺はきっぱり拒絶した。あのとき早坂はどう思ったのだろう。
「嘘だろ……」
早坂に悪いことをした。謝っても許されないくらい、酷いことを。
告白ゲームは初めからなかった。
それなのに今日、早坂は俺を迎えに来なかった。そのことが、早坂の答えに違いない。
早坂は俺のことをついに嫌いになったんだ。
嫌われて当然だ。あんなに早坂に意地悪ばかりして、いくら優しい早坂でも限界ってものがある。
「波田野、俺どうしよう……。早坂に酷いことをした。だって、だって全部告白ゲームのためにやってるんだって思ってたから……あんないい奴を俺は振り回して傷つけて……」
波田野に言っても意味のないことなのに、どうしても懺悔したかった。
「俺、早坂に嫌われた……本当は、本当は俺、早坂のこと……」
自分がやってしまったことも、時間も戻らない。
つい昨日まで、早坂は俺のそばにいてくれたのに。
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