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9.一途に

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「尚紘の代わりでもなくて、償いでもなくて、そばにいてほしい。恋人として、パートナーとして、一緒にいたい。俺は佐原が好きなんだから——」

 突然、佐原に身体を引っ張られ腕の中に閉じ込められる。身体が軋むくらいの強い力で抱き締められて、佐原の想いの強さを感じて、心が震えた。

「さ、はらぁ……」

 名前を呼ぶのが精一杯で、声にならない。言いたいことは胸いっぱいにあるのに、口を開いても言葉が出てこない。
 ただ、佐原の背中に腕を回して強く抱き締め返すだけ。

 和泉を抱き締める佐原の身体が震えている。こめかみに冷たさを感じて、佐原が泣いていると知った。



「和泉が、俺のことを好きだなんて信じられない」

 佐原の腕に固く抱き締められて、その想いの強さを知る。佐原の頬を伝う涙を知って、今までどれだけ佐原が抑圧されていたのかを知る。
 ずっと、ずっと佐原は想いを抱えたまま、それでも和泉の幸せを願ってくれていたのだろう。



「本当に、俺だけを見てくれる?」

 佐原が腕の力を緩めて和泉の腰を抱き、和泉の顔をじっと覗き込んできた。

「あぁ。佐原が好きだ。好きだよ」

 和泉も見つめ返す。大好きな佐原の漆黒の瞳を目を逸らすことなく真っ直ぐに。

「嘘みたいだ。和泉が俺を見てる」
「なんだよ。見ちゃいけないのか?」
「プレイ以外のときは、いつも目を逸らしてたくせに」
「あれは、会社でお前のグレアにやられたら嫌だから……だよ」
「下手な言い訳だな……ダメだ。もう何を言われても和泉が可愛く思えて仕方がない」

 あの佐原が、頬を緩ませている。さっきまで泣いてたくせに、急にニヤニヤして喜ばないでほしい。こっちまで嬉しくなって、同じように頬が緩んでしまうから。

「和泉が、俺のパートナーになってくれるのか?」

 佐原に熱量のある瞳で見つめられる。
 すでに佐原のグレアをひしひしと感じるのは、わざとだろうか。それとも無意識なのだろうか。

「なる。なりたい。佐原に全部を任せたい。お前の支配なら、なんでも受け入れられるんだ。俺の身体は全部佐原のものだし、気持ちも、心も佐原にある。佐原のこと、本当に好きだから」

 本当に好きだ。大好きだ。
 何をしていたって佐原のことばかり想う。
 いいことがあったとき、話を聞いてもらいたいと思うのは佐原で、困難に直面したときにそばにいてもらいたいと思うのも佐原だ。
 ひとり寝の夜に、この身体を抱き締めてもらいたいと思うのも佐原で、このごろは佐原のことばかり考えている。



「和泉に好きと言われると、たまらないよ」

 潤んだ瞳のまま、佐原は優しく微笑む。

「和泉、パートナーになろう。偽物なんかじゃない。本当の、胸を張ってパートナーだと言える関係になりたい」
「うん」

 和泉が頷くと、佐原がお互いの額が触れるくらいの距離まで近づいてきた。

「俺、絶対に和泉のこと離さない」
「そうしてくれよ、SubはDomがいないと体調が悪くなるから」
「そうする。体調不良になんかさせない。和泉といっぱいプレイしてやる」
「佐原がしたいこと全部、俺にしてくれていい。乱暴でもいいよ、佐原のためなら頑張れるから」
「バカ。そんなことするか。大事にするに決まってるだろ」

 佐原がぎゅっと抱き締める腕に力を込めてきた。

「和泉。好きだよ、たまらなく大好きだ」

 佐原が突然和泉の唇を奪う。和泉がお返しの愛の言葉を言う隙もないほどだった。

「んっ……はぁっ……」

 食らいつくようなキスに呼吸ができないくらいだったが、和泉は懸命に応える。息が苦しいと言ったら、優しい佐原はキスを止めてしまう。どうしてもここで佐原にキスをやめてほしくなかった。

「はぁっ……和泉、好きだ」

 キスの呼吸の合間に愛を囁き、佐原は激しいキスを続けながら和泉の服の中に手を入れ、肌に触れてきた。佐原の熱い手に触れられて、興奮していく自分がいる。

「和泉。今からベッドに連れて行ってもいいか?」
 佐原の魅惑的な誘いに、身体が熱くなる。

 和泉が静かに頷き、佐原の胸に頭を寄せると、急にぐいっと身体を持ち上げられ、横抱きにされた。

 これからこの身は最愛のDomに支配される。それを期待するだけで、胸がドキドキと高鳴っていく。
 うるさくなった心音が、すぐそばにいる佐原に伝わってしまうのではと恥ずかしくなった。
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