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そばにいて

3.

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「この世界で、俺が生涯愛するのは弦だけ。だから頼む。俺のそばにいてよ」

 ヒカルは弦の身体を引き寄せ、きつく抱き締めてきた。
 懐かしいヒカルからの抱擁に、弦の胸が熱くなる。

「弦。好きだ。好きだ。好きだっ」
「ヒカルっ……苦しいって……」

 息ができないくらいに抱き締められて、弦は思わず音を上げる。ヒカルはすぐに抱擁を解いてくれた。



「ヒカル。俺は恋人だったヒカルにあんな酷いことをしたのに、許してくれるの?」
「酷いこと?」
「うん。ヒカルは何も悪くなかったのに、俺は、ヒカルに『別れよう』だなんて言った」

 ヒカルは首を横に振る。

「酷いのは俺だ。弦は俺じゃなくて一真が好きになったから、俺を振ったのかと思ってた。でもそうじゃなかった。弦は俺を裏切ったりしてなかった。そんなこともわからないで、弦に冷たい言葉を散々浴びせた」
「当然だよ。ヒカルはちゃんと俺のこと好きだって伝えてくれてた。なのに……」
「いや、俺が悪い。一真に噛みついて、弦にも噛みついて、俺は心が狭いんだ。正しい目で見れば、一真を恐れる必要はなかったし、弦はちゃんと俺のことを見ててくれてた」
「違うよ、今度こそヒカルは悪くない。俺は今気がついた。二人に告白されて自惚れてたけど、一真もヒカルも俺が何もしなくたってきっと仲直りできてた。二人とも冷静になったらお互いを認め合ってるんだから。なのに、こんなヒカルを傷つけるような方法しか思いつかなくて……」
「弦は自惚れてなんかない。俺も本気。一真も本気。それだけは真実だから」

 本当に信じられないことだ。二人に愛されることになるなんて想像もしなかった。



「何度振られても、俺は何度でも弦に告白する。俺の全部は弦に捧げる。愛を返してくれなくても、弦に捧げる。それが俺の生まれてきた意味だと思うから」

 ヒカルの全部……。ヒカルならば弦のどんな願いも叶えてしまいそうだ。
 それを、愛も返さずに? それじゃまるでヒカルは弦の奴隷だ。こんな最強の従僕はいない。

「じゃあ、ヒカルは俺を許してくれるってこと……?」

 ヒカルのプライドを傷つけて、理不尽に振ったのにそれを許して復縁を願ってもいいのだろうか。

「許すもなにも、俺のせいだろ。謝るのは俺だ。ごめん。バカみたいに一真に嫉妬して、弦の気持ちを疑って、何も見えてなかった」

 どうしよう。目の前にいるヒカルに手を伸ばしてもいいのだろうか。
 兄弟二人が仲直りしたからって都合が良すぎるだろと心が躊躇する。
 でも、もし許されるならヒカルと一緒にいたい。ヒカルに愛されて、同じくらいの強さでヒカルを愛していけたなら。



「弦。もう一度、俺の恋人になってください。ダメですか?」

 ヒカルの手が弦の頬を伝う。愛おしそうに触れるヒカルの指先から、優しさを感じた。

「ヒカル……」

 もっとヒカルの声が聞きたい。もっとヒカルのことを理解したい。その手でもっと触れて欲しい——。

「俺、やっぱりヒカルのこと好きだ」

 弦のそのひと言を待っていたかのように、弦の唇にヒカルのキスが落ちてきた。



 ◆◆◆


 やばい。心の準備ってものがまったくできていなかった。
 ヒカルと再会するとも思っていなかったし、まさか寄りを戻すことになって、さらにはすっかりヒカルと話し込んでしまい、ヒカルの家に泊まることになるとも思わなかった。

 シャワーを済ませたあと、ヒカルに借りたヒカルの服はブカブカだ。もともと余裕のあるゆったりとしたスウェットだし、上下とも裾が余ってしまっているので、弦は端を折って着ている。

 そして弦が今いる場所はヒカルのベッドだ。バスルームに行く前のヒカルに「先に寝てろ」と言われて、間に受けたものの、この状況で眠れるわけがない!

 よくよく考えたら、恋人の部屋で、恋人の服を着てベッドにいる。これって無事じゃ済まない状況なんじゃないだろうか。



 ——足音が近づいてくる。

 ヒカルがこっちに来るかもしれない!
 弦は思わず布団の中に潜り込んだ。


 カチャリとドアが開く音がする。きっとヒカルだ。
 弦が布団の中でじっとしたまま動かないでいると、「はぁ……」というヒカルのため息が聞こえてきた。

「弦、起きてる?」

 もしかしてヒカルは弦が本当に文字どおり先に寝たと思っているのか……?!

「弦らしいな」

 弦が何も返事をせずにいたら、ヒカルがそう、ぽつり呟いた。

 クローゼットのドアを開ける音がしたり、部屋をうろつく足音がしたり、何をしているのだろう。ヒカルはいっこうに弦のいるベッドには近づいてこない。
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