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冬麻ハッピーラッキーLOVE作戦編6
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本当はデートなのに、こんなに長く一緒にいるのに、いまだに秘密の恋人だ。久我は「冬麻さえよければ公にしたい」と付き合う当初から言ってくれているが、悪いことが起こりそうで冬麻はその決心がつかない。
そしてダラダラとここまで来てしまった。
「このままの関係じゃダメ、だよな……」
「……冬麻?」
「へっ?」
久我に顔を覗き込まれて、咄嗟に変な返事をする。
「どうしたの? 暗い顔して……」
「いっ、いえ、なんでもないですっ」
危なかった。未来の不安はあっても今日くらいはそんなことも忘れて楽しく過ごしたいのに。
「久我さん、次行きましょう! そうだペンギン! ペンギン見たいです!」
冬麻がぐいっと久我の腕を引いて腕を組むようにして歩き出すと、久我が驚いた様子を見せる。外では冬麻が久我に手繋ぎや腕組み禁止令を出しているからだろう。
「……今だけ、っていうのはずるいですか?」
冬麻が腕を離さずに久我に上目遣いで訴えると、「喜んで」と久我が微笑む。
「冬麻からされるのはすごく嬉しいよ」
まただ。また、久我があの作りものの笑顔を向けてきた。その笑顔を見て冬麻の気持ちに影が落ちる。どうして楽しいデートに来ているのに、久我の中に不満があるのだろう。
何かいけないことをしたのかと考えてみるものの、心当たりがない。
冬麻は絡ませた久我の腕を、縋りつくように抱きしめる。
急に不安になったからだ。このまま何も言わずにいなくなられたらどうしよう。魔法が解けたみたいに、夢から醒めるみたいに、久我の気持ちが冷めてしまって「別れてくれるかな」とあのよそ行きの笑顔で冷たく言い放たれたら。
もっと頑張らなきゃ。
ずっと好きでいてもらえるように、努力しなくちゃいけない。
これからのこと。ふたりのルール。今夜聞けたら久我に聞いてみよう。話し合って、もっと良くしていこう。
大切な人を失ってからでは遅いから。
◆◆◆
「楽しかったですね」
水族館を出てから、外の冷たい風吹かれながら冬麻は髪をかき上げる。
「そうだね」
ふたりですっかり暗くなった展望デッキ前の道を歩く。冬麻の横を歩く久我の髪も風で揺れている。
「ねぇ、冬麻、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかな」
久我がぴたと動きを止めたので、つられて冬麻も足を止めた。
「なんの話ですか?」
別に隠し事をしたつもりはない。いったいなんのことだろうか。
「冬麻は、俺とこのままの関係じゃいられないんでしょ?」
さっき呟いたことを久我はしっかり聞いていたのだ。結構距離があったのに。
久我はいつも本当にこちらをよく見ているし、聞いていないようで、めちゃくちゃ聞いているのだ。
「最近の冬麻はおかしい。俺に優しすぎるんだ。そんなに俺のご機嫌取りをして、いったい何を誤魔化そうとしてるの?」
「えっ?」
「恋人が急に優しくなる理由はひとつ。浮気してることを隠すためでしょ?」
「ちょっ……! 考えすぎですって!」
「冬麻は俺のことを嫌いになったわけじゃないから、こうやってそばにいて、取り繕うために優しくしてくれてるんだよね? 二番としてキープしておきたいの? それとも金払いがいいから? 冬麻も知ってのとおり、俺は冬麻のためならなんでもする。金なんかで一緒にいてくれるならいくらでも払うし、冬麻が望むなら浮気相手とのホテル代を俺が払ったっていい」
「久我さん何を……!」
「冬麻が俺に飽きて他の男とも関係を持ちたくなる気持ちも理解できる。でもそれは一時的な気の迷いだって信じてる。いつかは俺の元に帰ってきてくれるよね?」
久我に本気の目で懇願されても、冬麻にはどうしようもない。
だって浮気なんてしていないし、これっぽっちも考えてないのだから。
「久我さん、どうしてそんな考えになっちゃったんですか?」
久我の思考は相変わらずぶっ飛んでいる。被害妄想もいいところだ。
「久我さん、酷いです。俺が簡単に他に行くわけないです。それに、久我さんのこと二番だなんてそんな扱いはしません。俺をどれだけ信用してないんですか? 俺だって、俺なりに頑張ろうって思っただけなのに……」
気持ちが全然伝わってないことが悔しくて、ジャケットの裾をぎゅっと掴む。
「こんなに一緒にいたのに、まだ信用できませんか? 俺のこと簡単に浮気する奴だって思ってるってことですよね? 普段は恥ずかしくて久我さんみたいに好き好きたくさん言えませんけど、俺なりに伝えてるつもりです。それが、こんな……」
涙が滲んできた。裏切られた気持ちだった。こっちはこれからも一緒にいたいから、一生懸命に頑張ったつもりなのに、なにが「冬麻が望むなら浮気相手とのホテル代を出してもいい」だ。そんなことありえない。
浮気を疑われただけでも辛いのに、それを容認するようなことまで言うとは。「浮気しないで俺だけを見て」と言ってくれたらまだよかったのに。
「冬麻、ごめん。俺が言い過ぎた。俺、冬麻がいないと生きていけないから、何かあるたび不安になるんだ」
久我が慌てて冬麻の顔を覗き込むようにして訴えてきた。久我が病的に不安症なのは知っているが、最近は落ち着いていると思っていたのに。
「浮気なんてしてませんよ」
ここは外だし、通行人がいるのもわかっている。周りに視線をやれば、さっき水槽の場所を譲ったときの母子の姿もあった。
それでも構わない、と思った。
冬麻は目の前にある久我の唇に、唇を寄せ、素早くキスをする。
「俺の気持ち、わかりました?」
冬麻が久我の反応を確認すると、久我は驚き固まっている。人前でこんなことをしたことがないから、予想外だったのかもしれない。
もういい、周りなんて見えなくなってきて、冬麻は久我に抱きついた。勢いよく抱きついてしまったのに、久我はそれをしっかりと受け止めてくれた。
「好きです」
気持ちがどうしても抑えられなかった。こんなところを知り合いに見られたら大変だと思っているのに、久我にくっつきたくて仕方がなかった。
「俺のこと、信用してください……」
「冬麻……」
寒空の下、久我の優しい腕が冬麻の身体を包み込む。
「疑ってごめん。俺が間違ってた。こんなダメな男なのに冬麻は……」
久我は愛おしそうに冬麻の背中を撫でる。
「好きだよ、好き。冬麻が好き。心から愛してる……」
久我と抱き合ったまではいいものの、それも束の間。女の子の「あれもお仕事ー?」のひと声で、さすがに恥ずかしくなってどちらともなく身体を離すこととなった。
そしてダラダラとここまで来てしまった。
「このままの関係じゃダメ、だよな……」
「……冬麻?」
「へっ?」
久我に顔を覗き込まれて、咄嗟に変な返事をする。
「どうしたの? 暗い顔して……」
「いっ、いえ、なんでもないですっ」
危なかった。未来の不安はあっても今日くらいはそんなことも忘れて楽しく過ごしたいのに。
「久我さん、次行きましょう! そうだペンギン! ペンギン見たいです!」
冬麻がぐいっと久我の腕を引いて腕を組むようにして歩き出すと、久我が驚いた様子を見せる。外では冬麻が久我に手繋ぎや腕組み禁止令を出しているからだろう。
「……今だけ、っていうのはずるいですか?」
冬麻が腕を離さずに久我に上目遣いで訴えると、「喜んで」と久我が微笑む。
「冬麻からされるのはすごく嬉しいよ」
まただ。また、久我があの作りものの笑顔を向けてきた。その笑顔を見て冬麻の気持ちに影が落ちる。どうして楽しいデートに来ているのに、久我の中に不満があるのだろう。
何かいけないことをしたのかと考えてみるものの、心当たりがない。
冬麻は絡ませた久我の腕を、縋りつくように抱きしめる。
急に不安になったからだ。このまま何も言わずにいなくなられたらどうしよう。魔法が解けたみたいに、夢から醒めるみたいに、久我の気持ちが冷めてしまって「別れてくれるかな」とあのよそ行きの笑顔で冷たく言い放たれたら。
もっと頑張らなきゃ。
ずっと好きでいてもらえるように、努力しなくちゃいけない。
これからのこと。ふたりのルール。今夜聞けたら久我に聞いてみよう。話し合って、もっと良くしていこう。
大切な人を失ってからでは遅いから。
◆◆◆
「楽しかったですね」
水族館を出てから、外の冷たい風吹かれながら冬麻は髪をかき上げる。
「そうだね」
ふたりですっかり暗くなった展望デッキ前の道を歩く。冬麻の横を歩く久我の髪も風で揺れている。
「ねぇ、冬麻、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかな」
久我がぴたと動きを止めたので、つられて冬麻も足を止めた。
「なんの話ですか?」
別に隠し事をしたつもりはない。いったいなんのことだろうか。
「冬麻は、俺とこのままの関係じゃいられないんでしょ?」
さっき呟いたことを久我はしっかり聞いていたのだ。結構距離があったのに。
久我はいつも本当にこちらをよく見ているし、聞いていないようで、めちゃくちゃ聞いているのだ。
「最近の冬麻はおかしい。俺に優しすぎるんだ。そんなに俺のご機嫌取りをして、いったい何を誤魔化そうとしてるの?」
「えっ?」
「恋人が急に優しくなる理由はひとつ。浮気してることを隠すためでしょ?」
「ちょっ……! 考えすぎですって!」
「冬麻は俺のことを嫌いになったわけじゃないから、こうやってそばにいて、取り繕うために優しくしてくれてるんだよね? 二番としてキープしておきたいの? それとも金払いがいいから? 冬麻も知ってのとおり、俺は冬麻のためならなんでもする。金なんかで一緒にいてくれるならいくらでも払うし、冬麻が望むなら浮気相手とのホテル代を俺が払ったっていい」
「久我さん何を……!」
「冬麻が俺に飽きて他の男とも関係を持ちたくなる気持ちも理解できる。でもそれは一時的な気の迷いだって信じてる。いつかは俺の元に帰ってきてくれるよね?」
久我に本気の目で懇願されても、冬麻にはどうしようもない。
だって浮気なんてしていないし、これっぽっちも考えてないのだから。
「久我さん、どうしてそんな考えになっちゃったんですか?」
久我の思考は相変わらずぶっ飛んでいる。被害妄想もいいところだ。
「久我さん、酷いです。俺が簡単に他に行くわけないです。それに、久我さんのこと二番だなんてそんな扱いはしません。俺をどれだけ信用してないんですか? 俺だって、俺なりに頑張ろうって思っただけなのに……」
気持ちが全然伝わってないことが悔しくて、ジャケットの裾をぎゅっと掴む。
「こんなに一緒にいたのに、まだ信用できませんか? 俺のこと簡単に浮気する奴だって思ってるってことですよね? 普段は恥ずかしくて久我さんみたいに好き好きたくさん言えませんけど、俺なりに伝えてるつもりです。それが、こんな……」
涙が滲んできた。裏切られた気持ちだった。こっちはこれからも一緒にいたいから、一生懸命に頑張ったつもりなのに、なにが「冬麻が望むなら浮気相手とのホテル代を出してもいい」だ。そんなことありえない。
浮気を疑われただけでも辛いのに、それを容認するようなことまで言うとは。「浮気しないで俺だけを見て」と言ってくれたらまだよかったのに。
「冬麻、ごめん。俺が言い過ぎた。俺、冬麻がいないと生きていけないから、何かあるたび不安になるんだ」
久我が慌てて冬麻の顔を覗き込むようにして訴えてきた。久我が病的に不安症なのは知っているが、最近は落ち着いていると思っていたのに。
「浮気なんてしてませんよ」
ここは外だし、通行人がいるのもわかっている。周りに視線をやれば、さっき水槽の場所を譲ったときの母子の姿もあった。
それでも構わない、と思った。
冬麻は目の前にある久我の唇に、唇を寄せ、素早くキスをする。
「俺の気持ち、わかりました?」
冬麻が久我の反応を確認すると、久我は驚き固まっている。人前でこんなことをしたことがないから、予想外だったのかもしれない。
もういい、周りなんて見えなくなってきて、冬麻は久我に抱きついた。勢いよく抱きついてしまったのに、久我はそれをしっかりと受け止めてくれた。
「好きです」
気持ちがどうしても抑えられなかった。こんなところを知り合いに見られたら大変だと思っているのに、久我にくっつきたくて仕方がなかった。
「俺のこと、信用してください……」
「冬麻……」
寒空の下、久我の優しい腕が冬麻の身体を包み込む。
「疑ってごめん。俺が間違ってた。こんなダメな男なのに冬麻は……」
久我は愛おしそうに冬麻の背中を撫でる。
「好きだよ、好き。冬麻が好き。心から愛してる……」
久我と抱き合ったまではいいものの、それも束の間。女の子の「あれもお仕事ー?」のひと声で、さすがに恥ずかしくなってどちらともなく身体を離すこととなった。
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