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番外編 冬麻ハッピーラッキーLOVE作戦編1

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「マンネリ……かぁ……」

 冬麻は久我お勧めの青山のメンズサロンで髪を整えられながら、手渡されたiPadで雑誌の電子書籍を読みつつ呟いた。

 久我と恋人同士になり、一緒に暮らすようになって二年八ヶ月。仲良く過ごしているつもりでも、変わり映えのない毎日に久我は退屈しているかもしれない。

「マンネリって本当に厄介なんすよね……」

 美容師の駒崎こまざきが冬麻の髪を切り整えながら冬麻の呟きに反応してきた。
 駒崎は、この店の副店長で有名人のご指名も多数抱えているイケメン美容師だ。イケメンといっても久我のほうが何倍もかっこいいなと冬麻は常々思っているが。

「俺、二年八ヶ月付き合った彼女と別れたんすよね……」
「えっ???」

 駒崎がぽろっと呟いたことがタイムリー過ぎて、冬麻は思わず振り返りそうになり、「ハサミ使ってますって!」と駒崎に制された。

「すみません……でも、その話よかったら聞かせてもらえませんか? なんで別れることになっちゃったんですか? 二年八ヶ月も一緒にいたのに……」
「二ノ坂さん。聞いてくれますか。俺、今でも引きずってるんです……別れて一週間、まだ別れた実感なんてないですよ、結婚を前提に同棲までしてたのに」
「一緒に暮らしてたんですかっ?」

 自分と境遇が似過ぎていて聞き捨てならない。

「そうです。それがよくなかったんですかね。この仕事、結構ハードで、彼女は優しいから『疲れてるでしょ』って、いつも朝晩ご飯を用意したり、掃除や洗濯を嫌な顔せずに引き受けてくれてたんですよね……それに甘えてしまったのが悪かったのかなと思います。彼女だって正社員でしたから」

 それを聞いて、これはまずいと思った。主に家事を引き受けてくれているのは久我だ。いつも嫌な顔ひとつしないで「料理は好きなんだ」と朝晩作ってくれるが、実は疲れてやりたくない日も無理をしてやってくれているのかもしれない。久我は上場企業の社長で、多忙なのだから。

「デートもなんとなく家にいてばかりで、それってよくなかったですよね……一緒に暮らしてるんだから、たまには休みを揃えて外に出かければよかったんですよ」

 それも同じだ。休みの日は久我とふたりでダラダラと家で過ごすことが多い。なんの刺激もない、日常の延長線上にあるような日を過ごしているが、積極的に外デートをしたほうが適度な刺激になるのかもしれない。

「一緒に暮らしてると、自分のひとりの時間がなくなっちゃうんですよね。常に同じ空間にいるって気疲れしちゃって、そのせいでイライラしてケンカになったこともあります。もっと離れればよかったな」

 駒崎は大きな溜め息をついた。彼女と別れてからいろいろ思うところがあるらしい。

「彼女にしてみれば、いろいろと物珍しさがなくなっちゃったんでしょうね、きっと」
「物珍しさ、ですか……」

 恋人と同棲する期間が長くなれば、キスだの抱き合うだのといった特別なことが、当たり前のことのようになってしまう。

 仕事をして帰ってきて、食事をして、一緒のベッドに入り、いつものルーティンみたいに抱き合って眠る。もしかしたら久我は冬麻に最初の頃みたいに色気なんて感じてくれてなくて、今やただの性欲発散のための相手と思ってるかもしれない。


「二ノ坂さんも、もしかしてマンネリで悩まれてるとかですか?」

 駒崎に質問されて、ハッとする。駒崎は久我のことも担当していて、冬麻は久我の秘書という立場で、「うちの秘書の髪も担当してもらえるかな」と久我の紹介で知り合った間柄だ。
 だから久我のことは知っているが、まさか冬麻と久我がただならぬ関係だということは知らないはずだ。冬麻のことは久我の秘書としか思っていないだろう。

「え、ええ……まぁ、そんなところです……」
「二ノ坂さんもお付き合いの長いかたがいるんですね。その人、大事にしたほうがいいですよ、俺みたいになったらきっと後悔しますから。いなくなられてから何とかしようとしても、もう彼女は俺と別れるって心に決めちゃった感じで、どうしようもないんです」
「本当の本当にダメなんですかっ?」
「諦め悪くメール送っても返信ないし、電話も出ないんです。今どこに暮らしてるのかもわかんないから、これ、もう完全終わってますよね……」
「一緒にいてくれるうちに、何とかしなきゃダメなんですかね……」

 日頃の自分の怠惰に情けなくなる。いつも恋人に甘えてばかりで、何もしない。心を入れ替えないといつか久我に飽きられる日が来るに違いない。

 執着がひどいところはちょっと難ありだけど、あんなに愛してくれて、尽くしてくれる恋人は他にいない。

 親しき仲にも礼儀あり。一番身近にいる恋人こそ大切にするべきだ。もっと感謝の気持ちを持って尽くさなければと冬麻は猛反省した。
 
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