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七夕の願い3
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「ほら、久我さんっ! 早くっ!」
来てみてわかった。めちゃくちゃ楽しい。乗り物に乗っても楽しいし、ワゴンで売ってるものを食べているだけでも楽しい。今は、アトラクションを利用できる権利を買った乗り物の列に並ぼうとしているところだ。
アトラクションは逃げないけれど、少しでも時間短縮していろんなものを楽しみたい気持ちから、つい足早になる。
「スニーカーで来ればよかった。こんなに冬麻について走らされるとは思わなかったよ」
列に並びながら久我が溜め息をついた。冬麻は制服勤務のため普段着だが、久我はバリバリのスーツ姿だ。
「頑張ってついて来てくださいね。俺の中でタイムプランが出来上がってるんですから。あ、耳が曲がってますよ。ちょっとしゃがんでください、直してあげますから」
素直に屈んでくれた久我の頭についているキャラクターカチューシャを直す。
「久我さん、頭が小さいからすぐにズレちゃうんですね」
キャラクターカチューシャを直しながら思う。黒くて丸い耳がついていてもやっぱり久我はかっこいい。
「違う。冬麻が走らせるからだよ」
「違います。久我さんが美形すぎるからですよ」
「可愛いのは冬麻だ」
ふにっと頬をつねられる。
「ひはいはすっ! ふはさんへしょ?」
「なんて言ってるの、冬麻」
久我は笑うが、頬をつねっているのは誰だと文句を言ってやりたい。
「冬麻といると何をしてても楽しいよ」
心なしか、今日は久我も笑っていることが多い気がする。仕事じゃなくて、家とも違って、こうやってデートするのもたまにはいいかな、なんて思ってしまった。
すっかり暗くなったころ、人混みに紛れてパレードを観る。
子どものころ、見たくても家に帰ると親に言われてしまい、叶わなかった夜のパレードだ。
「久我さんのおかげで、俺の七夕の願いが叶いました」
久我と付き合うようになってから、このようなサプライズの目に遭うことにも慣れた。久我は社長業で忙しいから予定が変わることも多いのだろうが、こうして冬麻のために時間をきちんと割いてくれるところは好きだ。
「久我さんは? そういえば久我さんもパレード初めてですか?」
暗がりの中、隣にいる久我に訊くと「そうだよ」と優しく微笑まれた。
「俺にはこういう思い出は何もないな。高校卒業して、起業して、そのあとは必死で働いてきたから」
「そうですよね……」
久我の人生は、はたからみると煌びやかにみえる。けれどもその裏では久我が失ったものも多くあるのだということを最近わかってきた。
「じゃ、これから俺といろんなことをしましょう。久我さんは俺のやりたいことをいつも叶えてくれるから、今度は久我さんのやりたいことに俺を巻き込んでください。なんだって付き合いますよ」
久我とはやっとわかり合えたばかりだ。うまくいけばこれから何十年も一緒にいることになるかもしれない。その間に、今日みたいな思い出を重ねていけたらいいなと密かに思う。
「ありがとう。冬麻。嘘でも嬉しいよ」
「嘘じゃないです……」
「そうなの? だったら嬉しいな」
久我は背後から冬麻の首に両腕を回してきた。やんわりとバックハグされているみたいだ。
また人前でスキンシップをされて、腕を振り払おうか迷ったが、あたりは暗いし、周りの人たちの視線は目の前のキラキラパレードにむけられている。
だから、少しくらいならいいか、と思ってしまった。
せっかく「これからたくさん遊びに行きましょう」と誘ったのに、「嘘でも嬉しい」と、冬麻の言葉をどこか信じてもらえなかったことも寂しかったから。
◆◆◆
スイートルームは広すぎる。この広い部屋で過ごす時間の大半は、どうせベッドの上になるのだから、もったいないなと冬麻は思う。
久我が予約していたルームサービスのシェフおすすめ料理を食べて、お互いシャワーを浴びた。
そのあと冬麻は備えつけのルームウェアを着て、ドラマでも観てから寝ようと思ったのに、観ている間じゅう、隣の恋人が抱きついてきたり、キスをしてきたりして全然集中できない。
「久我さんてば」
「冬麻、さみしい。テレビ消して俺のほうを見てよ」
「いまいいところなんです、ちょっとだけ待ってくださいっ!」
「やだ。待てない。そんなの見逃し配信で家で観ればいい」
久我は構わず冬麻の身体に抱きついてくる。
「あっ……!」
という間にソファーに押し倒され、強引に唇を奪われた。
「冬麻、好き……好きだ……」
久我の手は冬麻の服を乱し、冬麻の身体を這いまわってくる。
「久我さ……こらっ、あっ……」
久我はずるい。冬麻を性急に感じさせようと、冬麻の足を開かせ、その中心に触れてくる。
「だめ……待って」
「無理だ。さっきからずっと待ってたのに、冬麻はテレビの中の男ばっかり見てるのがすごくイライラする。冬麻は俺よりあいつのことが好きなの?」
「えっ?!」
いや、ただドラマを観てただけ。別に俳優がどうこうってこともないし、このドラマの主演俳優は、嫌いではないが特別好きということもない。
「俺、あいつに会ったことある。ろくに挨拶もできない、事務所がゴリ推ししてるだけの俳優だよ。だからやめたほうがいい。冬麻が俺じゃなくて他の男を選ぶ日がいつかくるかもしれないけど、今は冬麻は俺の恋人なんだから浮気は絶対に許さない」
「これが浮気とかおかしいでしょ?!」
「冬麻の視線を釘付けにするなんて許せない」
「別に変な気持ちになんてなってません!」
嫉妬深いにもほどがある。冬麻が見るもの触れるもの全部に嫉妬するつもりなのだろうか。
「じゃあ俺を見て。こっちをむいてほしい」
見ろと言われて目の前にいる久我を見る。久我は本気で嫉妬にまみれた男の顔をしている。
「今すぐ抱くから。いいよね?」
久我は乱暴な動きでリモコンでテレビの電源を切り、冬麻の身体を横抱きに抱えた。そのままベッドルームへと連れて行く気のようだ。
来てみてわかった。めちゃくちゃ楽しい。乗り物に乗っても楽しいし、ワゴンで売ってるものを食べているだけでも楽しい。今は、アトラクションを利用できる権利を買った乗り物の列に並ぼうとしているところだ。
アトラクションは逃げないけれど、少しでも時間短縮していろんなものを楽しみたい気持ちから、つい足早になる。
「スニーカーで来ればよかった。こんなに冬麻について走らされるとは思わなかったよ」
列に並びながら久我が溜め息をついた。冬麻は制服勤務のため普段着だが、久我はバリバリのスーツ姿だ。
「頑張ってついて来てくださいね。俺の中でタイムプランが出来上がってるんですから。あ、耳が曲がってますよ。ちょっとしゃがんでください、直してあげますから」
素直に屈んでくれた久我の頭についているキャラクターカチューシャを直す。
「久我さん、頭が小さいからすぐにズレちゃうんですね」
キャラクターカチューシャを直しながら思う。黒くて丸い耳がついていてもやっぱり久我はかっこいい。
「違う。冬麻が走らせるからだよ」
「違います。久我さんが美形すぎるからですよ」
「可愛いのは冬麻だ」
ふにっと頬をつねられる。
「ひはいはすっ! ふはさんへしょ?」
「なんて言ってるの、冬麻」
久我は笑うが、頬をつねっているのは誰だと文句を言ってやりたい。
「冬麻といると何をしてても楽しいよ」
心なしか、今日は久我も笑っていることが多い気がする。仕事じゃなくて、家とも違って、こうやってデートするのもたまにはいいかな、なんて思ってしまった。
すっかり暗くなったころ、人混みに紛れてパレードを観る。
子どものころ、見たくても家に帰ると親に言われてしまい、叶わなかった夜のパレードだ。
「久我さんのおかげで、俺の七夕の願いが叶いました」
久我と付き合うようになってから、このようなサプライズの目に遭うことにも慣れた。久我は社長業で忙しいから予定が変わることも多いのだろうが、こうして冬麻のために時間をきちんと割いてくれるところは好きだ。
「久我さんは? そういえば久我さんもパレード初めてですか?」
暗がりの中、隣にいる久我に訊くと「そうだよ」と優しく微笑まれた。
「俺にはこういう思い出は何もないな。高校卒業して、起業して、そのあとは必死で働いてきたから」
「そうですよね……」
久我の人生は、はたからみると煌びやかにみえる。けれどもその裏では久我が失ったものも多くあるのだということを最近わかってきた。
「じゃ、これから俺といろんなことをしましょう。久我さんは俺のやりたいことをいつも叶えてくれるから、今度は久我さんのやりたいことに俺を巻き込んでください。なんだって付き合いますよ」
久我とはやっとわかり合えたばかりだ。うまくいけばこれから何十年も一緒にいることになるかもしれない。その間に、今日みたいな思い出を重ねていけたらいいなと密かに思う。
「ありがとう。冬麻。嘘でも嬉しいよ」
「嘘じゃないです……」
「そうなの? だったら嬉しいな」
久我は背後から冬麻の首に両腕を回してきた。やんわりとバックハグされているみたいだ。
また人前でスキンシップをされて、腕を振り払おうか迷ったが、あたりは暗いし、周りの人たちの視線は目の前のキラキラパレードにむけられている。
だから、少しくらいならいいか、と思ってしまった。
せっかく「これからたくさん遊びに行きましょう」と誘ったのに、「嘘でも嬉しい」と、冬麻の言葉をどこか信じてもらえなかったことも寂しかったから。
◆◆◆
スイートルームは広すぎる。この広い部屋で過ごす時間の大半は、どうせベッドの上になるのだから、もったいないなと冬麻は思う。
久我が予約していたルームサービスのシェフおすすめ料理を食べて、お互いシャワーを浴びた。
そのあと冬麻は備えつけのルームウェアを着て、ドラマでも観てから寝ようと思ったのに、観ている間じゅう、隣の恋人が抱きついてきたり、キスをしてきたりして全然集中できない。
「久我さんてば」
「冬麻、さみしい。テレビ消して俺のほうを見てよ」
「いまいいところなんです、ちょっとだけ待ってくださいっ!」
「やだ。待てない。そんなの見逃し配信で家で観ればいい」
久我は構わず冬麻の身体に抱きついてくる。
「あっ……!」
という間にソファーに押し倒され、強引に唇を奪われた。
「冬麻、好き……好きだ……」
久我の手は冬麻の服を乱し、冬麻の身体を這いまわってくる。
「久我さ……こらっ、あっ……」
久我はずるい。冬麻を性急に感じさせようと、冬麻の足を開かせ、その中心に触れてくる。
「だめ……待って」
「無理だ。さっきからずっと待ってたのに、冬麻はテレビの中の男ばっかり見てるのがすごくイライラする。冬麻は俺よりあいつのことが好きなの?」
「えっ?!」
いや、ただドラマを観てただけ。別に俳優がどうこうってこともないし、このドラマの主演俳優は、嫌いではないが特別好きということもない。
「俺、あいつに会ったことある。ろくに挨拶もできない、事務所がゴリ推ししてるだけの俳優だよ。だからやめたほうがいい。冬麻が俺じゃなくて他の男を選ぶ日がいつかくるかもしれないけど、今は冬麻は俺の恋人なんだから浮気は絶対に許さない」
「これが浮気とかおかしいでしょ?!」
「冬麻の視線を釘付けにするなんて許せない」
「別に変な気持ちになんてなってません!」
嫉妬深いにもほどがある。冬麻が見るもの触れるもの全部に嫉妬するつもりなのだろうか。
「じゃあ俺を見て。こっちをむいてほしい」
見ろと言われて目の前にいる久我を見る。久我は本気で嫉妬にまみれた男の顔をしている。
「今すぐ抱くから。いいよね?」
久我は乱暴な動きでリモコンでテレビの電源を切り、冬麻の身体を横抱きに抱えた。そのままベッドルームへと連れて行く気のようだ。
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