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七夕の願い2
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久我はエンジンをかけて車を発進させる。
「さっき、外苑前の店でついた俺の嘘、どうだった? あれなら冬麻を迎えに行っても不自然じゃなかったでしょ?」
ハンドルを握りながら当然のように言うから、冬麻はすかさずツッコミを入れる。
「いや、思いっきり不自然です!」
この世のどこに、社長が平社員に対してピンポイントに「これからの時間を俺にくれないか」と声をかけてくる社長がいるというのだろう。
「そう? 冬麻はたまたま取引先の息子に顔が似てたのかって思われるだけで、まさか俺のデート相手にされてるとは誰も思ってないんじゃないかな?」
「久我さんは俺にかまい過ぎですよ。この前、俺が配属になってから外苑前に社長がよく来るようになったって言われました。それで今回みたいに誘われたら、俺のことを社長が特別に思ってるって思われそうです……」
「そっか。ごめんごめん。でも俺としてはいつバレてくれても構わないんだけどな」
「ダメです!」
久我は自分の立場をわきまえてほしい。こんな平凡で男の自分が恋人だと知られたら、損をするのは久我だ。
「わかったよ。冬麻は相変わらず厳しいな」
久我は拗ねたように言うが、冬麻は意地でも久我との交際は隠しとおしたいと思っているので、それを許すわけにはいかない。
「で、俺を商談に連れて行くなんて嘘だったんですよね? だったら俺になんの用なんですか? こんなことしなくても、夜には会えるのに」
「だって冬麻の願いは全部叶えなくちゃ」
「……え?」
「TDLで夜のパレード、見たいんでしょ?」
「なんで、それ……!」
そうだ。久我のサーチ能力は最強で、冬麻が社内レクリエーションで書いた願い事の情報くらいは簡単に手に入れてしまうのだろう。
「冬麻の仕事終わりを待ってたら間に合わないから。だから強硬手段にでたんだ」
「そんなことしてくれなくたっていいです! こんな、くだらないこと……」
「いいんだよ。俺が叶えられることはすべて叶えてあげる」
「だからってありえないでしょ。社長特権を振りかざしてするようなことじゃないですって!」
「冬麻の願いはなんだっていい。俺が冬麻と一緒に過ごす理由がほしかっただけ。そう言えばいいの?」
「もう……」
久我はいつも強引で、なんとしてでも自分のやりかたを突き通してくる。それは今日みたいに、冬麻の願いを叶えようとするものだから、ついつい言い返す言葉を失ってしまう。
「チケットと近くのオフィシャルホテルは押さえたよ。急だったからスイートしか空いてなかった」
「え! スイート……」
こんな思いつきでテーマパークの近くのホテルのスイートを予約してしまうとは。
「まぁ、大は小を兼ねるからいいよね」
金持ちのとんでもない発想は庶民の冬麻には理解できないが、「冬麻の着替えも家から持ってきたから」と用意周到、準備されてはまたまた言い返せない。
それにテーマパーク近くのオフィシャルホテルには、本音を言うと一度泊まってみたかった。
冬麻はチラリと久我の横顔をのぞき見る。
久我は相変わらずのかっこよさだ。
この最強イケメンヤンデレ彼氏の手にかかったら、デロデロに甘やかされすぎてしまいそうだ。
「ん? 冬麻? どうしたの?」
久我が視線に気がつき、こちらに一瞬視線を向けた。
「他にもしたいことがあった?」
「いえ……あの……」
「何?」
「わ、笑わないんですか?」
「何を?」
「俺の夢ですよ。子どもみたいだなって、可笑しかったんじゃないですか?」
自分でも書きながら小学生みたいだなと思ったのだ。でも、冬麻にとっては、叶えたい小さな夢だった。
「全然。可愛いなって思っただけ。それに、俺は冬麻のためならなんでもする」
「じゃあ、一緒に耳つきカチューシャつけてくれます?」
「えっ……?!」
「だってなんでもしてくれるんですよね?」
「でもさ、冬麻もそういうの嫌いなタイプじゃない?!」
「普段は無理ですよ? でも、あそこは夢の国なんです。夢の国に行ったら話は別ですよ」
冬麻は正直、どっちでもいいと思っているが、この人にキャラクターカチューシャをつけさせることができるのは自分だけかもしれないと、だんだんそっちが面白くなってきた。
「ダメですか、こんなに俺が頼んでも?」
久我が本気で悩み始めた。これはあとひと押しで、久我は浮かれた耳つきカチューシャを夢の国でつけるかもしれない。
「……わかった」
言った! たしかに言った! 久我の返答に冬麻は密かににやけてしまう。どうやら冬麻が頼めば久我は恥ずかしいことでもオッケーをくれるらしい。
「いいよ。ただし冬麻とお揃いがいい」
久我は本当にやる気だ。もう笑いをこらえきれない。
「あはは、もう久我さんたら、さすがに断ってくれていいのにっ」
「…………」
「『そんなことするわけないだろっ!』って言ってくださいよ。まったく変なとこだけ真面目なんだから……」
冬麻が笑っているのに、久我はまったく笑わない。
「あれ? 怒ってます……?」
冬麻が訊いても、久我からの返答がない。
「……ガチですか?」
やばい。変にからかうようなことを言ったから、機嫌を損ねてしまったのだろうか。
「冬麻。もしかして俺の扱いに慣れてきた?」
「えっ?」
「冬麻に言われたら俺はなんでもする。冬麻の気持ちを離さないために精一杯の努力をする。会社では俺のほうが立場は上だけど、ふたりきりになると逆転するんだなって思った。俺は冬麻の下僕だよ」
「は?!」
「まぁ、俺が冬麻のために生きていることは間違いないし、俺は一生冬麻のものだ。煮るなり焼くなり好きにしていい」
「な、なにを……」
バカな話をして笑っていたのに、急に真面目になられても対応に困る。
「それに、俺はちゃんと冬麻からご褒美ももらえてるからね」
「ご褒美……?」
どういうことだろう。本当に申し訳ないが、ふたりの生活費のすべては久我がまかなっている。冬麻は久我に対してプレゼントの類いを贈るのは、誕生日や記念日くらいのものだ。
「そうだよ。だから俺はじゅうぶん幸せだ。あ、もうすぐ着くよ。ホテルの駐車場に荷物と車を置いていこうか」
「は、はい……」
やっぱり久我のペースに巻き込まれる。まぁ、それでもいいかと思えるのはどうしてだろう。
この人のことが好きだから、かな。
「さっき、外苑前の店でついた俺の嘘、どうだった? あれなら冬麻を迎えに行っても不自然じゃなかったでしょ?」
ハンドルを握りながら当然のように言うから、冬麻はすかさずツッコミを入れる。
「いや、思いっきり不自然です!」
この世のどこに、社長が平社員に対してピンポイントに「これからの時間を俺にくれないか」と声をかけてくる社長がいるというのだろう。
「そう? 冬麻はたまたま取引先の息子に顔が似てたのかって思われるだけで、まさか俺のデート相手にされてるとは誰も思ってないんじゃないかな?」
「久我さんは俺にかまい過ぎですよ。この前、俺が配属になってから外苑前に社長がよく来るようになったって言われました。それで今回みたいに誘われたら、俺のことを社長が特別に思ってるって思われそうです……」
「そっか。ごめんごめん。でも俺としてはいつバレてくれても構わないんだけどな」
「ダメです!」
久我は自分の立場をわきまえてほしい。こんな平凡で男の自分が恋人だと知られたら、損をするのは久我だ。
「わかったよ。冬麻は相変わらず厳しいな」
久我は拗ねたように言うが、冬麻は意地でも久我との交際は隠しとおしたいと思っているので、それを許すわけにはいかない。
「で、俺を商談に連れて行くなんて嘘だったんですよね? だったら俺になんの用なんですか? こんなことしなくても、夜には会えるのに」
「だって冬麻の願いは全部叶えなくちゃ」
「……え?」
「TDLで夜のパレード、見たいんでしょ?」
「なんで、それ……!」
そうだ。久我のサーチ能力は最強で、冬麻が社内レクリエーションで書いた願い事の情報くらいは簡単に手に入れてしまうのだろう。
「冬麻の仕事終わりを待ってたら間に合わないから。だから強硬手段にでたんだ」
「そんなことしてくれなくたっていいです! こんな、くだらないこと……」
「いいんだよ。俺が叶えられることはすべて叶えてあげる」
「だからってありえないでしょ。社長特権を振りかざしてするようなことじゃないですって!」
「冬麻の願いはなんだっていい。俺が冬麻と一緒に過ごす理由がほしかっただけ。そう言えばいいの?」
「もう……」
久我はいつも強引で、なんとしてでも自分のやりかたを突き通してくる。それは今日みたいに、冬麻の願いを叶えようとするものだから、ついつい言い返す言葉を失ってしまう。
「チケットと近くのオフィシャルホテルは押さえたよ。急だったからスイートしか空いてなかった」
「え! スイート……」
こんな思いつきでテーマパークの近くのホテルのスイートを予約してしまうとは。
「まぁ、大は小を兼ねるからいいよね」
金持ちのとんでもない発想は庶民の冬麻には理解できないが、「冬麻の着替えも家から持ってきたから」と用意周到、準備されてはまたまた言い返せない。
それにテーマパーク近くのオフィシャルホテルには、本音を言うと一度泊まってみたかった。
冬麻はチラリと久我の横顔をのぞき見る。
久我は相変わらずのかっこよさだ。
この最強イケメンヤンデレ彼氏の手にかかったら、デロデロに甘やかされすぎてしまいそうだ。
「ん? 冬麻? どうしたの?」
久我が視線に気がつき、こちらに一瞬視線を向けた。
「他にもしたいことがあった?」
「いえ……あの……」
「何?」
「わ、笑わないんですか?」
「何を?」
「俺の夢ですよ。子どもみたいだなって、可笑しかったんじゃないですか?」
自分でも書きながら小学生みたいだなと思ったのだ。でも、冬麻にとっては、叶えたい小さな夢だった。
「全然。可愛いなって思っただけ。それに、俺は冬麻のためならなんでもする」
「じゃあ、一緒に耳つきカチューシャつけてくれます?」
「えっ……?!」
「だってなんでもしてくれるんですよね?」
「でもさ、冬麻もそういうの嫌いなタイプじゃない?!」
「普段は無理ですよ? でも、あそこは夢の国なんです。夢の国に行ったら話は別ですよ」
冬麻は正直、どっちでもいいと思っているが、この人にキャラクターカチューシャをつけさせることができるのは自分だけかもしれないと、だんだんそっちが面白くなってきた。
「ダメですか、こんなに俺が頼んでも?」
久我が本気で悩み始めた。これはあとひと押しで、久我は浮かれた耳つきカチューシャを夢の国でつけるかもしれない。
「……わかった」
言った! たしかに言った! 久我の返答に冬麻は密かににやけてしまう。どうやら冬麻が頼めば久我は恥ずかしいことでもオッケーをくれるらしい。
「いいよ。ただし冬麻とお揃いがいい」
久我は本当にやる気だ。もう笑いをこらえきれない。
「あはは、もう久我さんたら、さすがに断ってくれていいのにっ」
「…………」
「『そんなことするわけないだろっ!』って言ってくださいよ。まったく変なとこだけ真面目なんだから……」
冬麻が笑っているのに、久我はまったく笑わない。
「あれ? 怒ってます……?」
冬麻が訊いても、久我からの返答がない。
「……ガチですか?」
やばい。変にからかうようなことを言ったから、機嫌を損ねてしまったのだろうか。
「冬麻。もしかして俺の扱いに慣れてきた?」
「えっ?」
「冬麻に言われたら俺はなんでもする。冬麻の気持ちを離さないために精一杯の努力をする。会社では俺のほうが立場は上だけど、ふたりきりになると逆転するんだなって思った。俺は冬麻の下僕だよ」
「は?!」
「まぁ、俺が冬麻のために生きていることは間違いないし、俺は一生冬麻のものだ。煮るなり焼くなり好きにしていい」
「な、なにを……」
バカな話をして笑っていたのに、急に真面目になられても対応に困る。
「それに、俺はちゃんと冬麻からご褒美ももらえてるからね」
「ご褒美……?」
どういうことだろう。本当に申し訳ないが、ふたりの生活費のすべては久我がまかなっている。冬麻は久我に対してプレゼントの類いを贈るのは、誕生日や記念日くらいのものだ。
「そうだよ。だから俺はじゅうぶん幸せだ。あ、もうすぐ着くよ。ホテルの駐車場に荷物と車を置いていこうか」
「は、はい……」
やっぱり久我のペースに巻き込まれる。まぁ、それでもいいかと思えるのはどうしてだろう。
この人のことが好きだから、かな。
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