上 下
86 / 124

74.良い知らせと悪い知らせ

しおりを挟む
「そうだ。冬麻にいいお知らせがある。グラビティのM&Aが決まったよ」
「よかったですね!」

 色々あったからその後どうなったか気になっていた。上手くいったのならなによりだ。

「経営権は俺が持って、実際に経営に深く関与する。三島社長は立場上は経営者ではなくなるけど彼の思うような方針で経営ができたらなとは思っている。今は従業員の待遇の細かいすり合わせをしてるよ。残りたい人は全員、俺の会社の社員になってもらうんだけど、給与体系が変わるから、できるだけ損のないようにしなきゃね」
「そうですね……」
「これを機にインセンティブを増やそうかと思ってる。基本給の他に、報奨金を貰えるチャンスを増やせば社員のモチベーション向上にもなると思うし、M&Aによる多少の給与の差異を埋めるために利用することもできる」
「秘書課もインセンティブが貰えるチャンスがあるんですか?」
「えっ……」

 久我が目をしばたかせている。

「か、考えておくよ」
「久我さん? どうしたんですか?」

 急に様子がおかしくなった……? 久我はどうしたのだろう。

「なんでもない。社長としてあるまじきよからぬことを考えた。冬麻を秘書にしたとき、俺は他の社員と公平に扱うと決めたんだ。でも本音を言うと冬麻を特別扱いしたい。……いや、でも俺からしたら冬麻がそばにいてくれることで俺の仕事はかなりはかどってる。つまり会社経営の効率を上げることに冬麻は大いに貢献しているんだから、最高のインセンティブを与えてもおかしくないと思う。そう考えれば特別扱いにはならない……?」
「い、いやあの……是非、櫂堂さんに相談してください……」

 冬麻の評価が異常によかったらきっとそれは実力ではなく、社長の仕業だと思うことにしよう。



「うわっ。これ可愛いですね!」

 メインの食事が終わり、最後にハッピーバースデーと文字の描かれたデザートプレートが冬麻の目の前に置かれる。イチゴなどの季節のフルーツに、フォンダンショコラやバニラアイス。モンブランタルト、クレームブリュレなど冬麻の好きなものが映える感じで盛られている。

「どうだろう。冬麻の好きなものだけになるように少し無理を言って用意してもらったんだけど」
「はい! 完璧です!」

 久我の冬麻リサーチ力は最強だ。冬麻の好物は全部把握しているんじゃないかと思う。
 遠慮なくデザートプレートに手をつけて、甘々を堪能しているとき、久我の視線を感じて冬麻は顔を上げる。
 久我は紅茶を飲みつつ冬麻を眺めてひとり満足そうだ。

「——なんですか? ニヤニヤして」
「え? なんでもないよ。ただ幸せなだけ」

 まったく。久我はさっきから顔が緩みっぱなしだ。それでもイケメンなのが憎らしい。

「もう……」

 秘書にこんなにデレデレしてたらおかしいだろと思うのに、冬麻も冬麻でさっきから自慢の恋人に惚れ惚れしているので文句は言えない。

 久我は本当にかっこいい。あーもう見ていて好きの二文字しか浮かばない。今すぐ抱きつきたいくらいに大大大好きだ。




「冬麻。来週から俺、海外出張なんだけどさ」
「そうでしたね……」

 思い出した。冬麻が全てのチケットを手配したのだから旅程も把握している。来週は一週間ほど久我とは離れ離れになるのか。

「俺、久我さんに電話かけてもいいですか? フランスとの時差はどのくらいでしたっけ……」
「マイナス7時間。東京が深夜十二時ならパリは夕方の十七時だ」
「その頃久我さんはまだお仕事中ですね……。じゃあ俺は早起きします。そしたら夜に俺と電話で話してくれますか?」

 マイナス7時間なら、五時に起きれば夜十時の久我と話ができる。それならお互いに負担が少ないのではないか。

「冬麻。それはできないな……」

 久我は難しい顔になる。

「そ、そうですね。レストランの営業時間が終わってから話をしたりすることもあるかもですね……。な、なんでもないです、忘れてください……」

 レストランが終わるのが夜の十時くらいだ。久我の仕事はきっと深夜にまで及ぶのだろう。

 電話がダメならメールもあるし、会えないのもせいぜい一週間。別に大したことじゃないと冬麻は自分に言い聞かせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

え?なんでオレが犯されてるの!?

四季
BL
目が覚めたら、超絶イケメンに犯されてる。 なぜ? 俺なんかしたっけ? ってか、俺男ですけど?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

ウケ狙いのつもりだったのに気づいたら襲われてた

よしゆき
BL
仕事で疲れている親友を笑わせて元気付けようと裸エプロンで出迎えたら襲われてめちゃくちゃセックスされた話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

処理中です...