上 下
84 / 124

72.独占欲

しおりを挟む
「久我さん。俺のこと好きですか?」

 夜の情事を終えたあと久我が冬麻を抱き締めてきたので、冬麻はその抱擁を受け入れながら久我に訊ねる。

「うん。大好き」

 久我は迷いなく答える。

「俺は、これからもずっと久我さんの一番でいられますか?」
「もちろん。俺が冬麻を嫌いになることなんて絶対にない。ずっと冬麻を好きでいる」

 久我は冬麻の身体をさらに強く抱き締めてきた。


「俺、久我さんのその言葉、信じてます。だから久我さんは結婚していいですよ」
「冬麻?!」

 久我が慌てて冬麻の顔を覗き込んできた。

「遠波さんにプロポーズしたらどうですか? ホテルの令嬢さんでもいいです。久我さんなら絶対に上手くいきますよ」
「ちょっと待って、意味がわからない。なんで俺は冬麻が好きなのに他の人と結婚しなきゃいけないの?」
「久我さんは普通の人じゃないです。イケメンだし、仕事の才能もあるし、お金持ちだし、優しくて気遣いもできて、そんな人の相手が俺だけなんてもったいないです。ステキな女の人と結婚して、優秀な遺伝子を子供に引き継いだほうがいいんじゃないですか?」
「冬麻……」
「家族を大切にしてくれてもいいですから、俺のことも忘れずに時々構ってください。で、俺に会うときはいつも『冬麻が一番だ』って言ってください。そしたら俺は頑張れますから」

 きっと久我なら冬麻のことをないがしろにすることなんてない。会いたいと言えばきっと会いに来てくれるはずだ。

「遠波さんも、久我さんに誰か恋人がいるんじゃないかって勘づいてました。梶ヶ谷さんにも俺のせいですぐにバレちゃいましたし、いつか全部バレてしまう前に、久我さんが遠波さんと結婚しちゃえばいいんですよ。そしたらそれ以上は誰も詮索したりしませんって」

 遠波と久我をシェアしていけばいい。遠波の存在は冬麻を隠してくれる。久我が望むなら実の子を持つこともできる。



「冬麻にそんな酷いことを言わせてるのは俺? 俺が悪かったんだよね?」

 久我は冬麻の肩に触れた。

「俺、冬麻の願いはなんでも叶えてあげたいと思ってたけど、他の人と結婚しろっていうのは無理だ。できない。他の人と関係を持って子供を作れも無理だ。冬麻以外の人とする気なんてない」

 結婚してもいいと自分で言っておきながら、久我にそれを否定されて嬉しいと思うなんて、すごく面倒くさい性格だ。

「ごめん冬麻。謝るよ。俺が冬麻を不安にさせた。彼女には二度と会わない。だから冬麻のそばにいさせて」

 まただ。遠波に二度と会わないと言われてやっぱり嬉しいと思っている。
 なんて嫌な恋人なんだろうと冬麻は自己嫌悪に陥る。



「それだけじゃ足りない? 俺の予定は秘書になってから全部冬麻は把握できてるわけだし、あとは、俺に首輪をつける?」

 久我に言われて気がついた。これはきっと独占欲だ。

 結婚してもいいだなんて思ってもみないことを言って久我の気持ちを試すような真似をして……。

 さっき「冬麻が許してくれるなら俺は結婚したい。冬麻には新しい家を買うからこのマンションを出て行ってくれる? 結婚しても時々冬麻に会いに行くね」と久我に言われたらショックで泣きだすくせに。

「久我さん……っ!」

 冬麻は久我に抱きついた。
 いつの間にこんなに好きになってたんだろう。それこそ最初は久我に執着されてたはずなのに、気がついたら冬麻のほうが久我がいないと駄目になっている。

「冬麻は可愛い。俺、本当に冬麻のこと大好きだ」

 久我に上を向かされたあと、唇にキスをされる。

「安心して。俺の全部を冬麻にあげるから」

 久我は再び冬麻にキスをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け 《あらすじ》 高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。 桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。 蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。

え?なんでオレが犯されてるの!?

四季
BL
目が覚めたら、超絶イケメンに犯されてる。 なぜ? 俺なんかしたっけ? ってか、俺男ですけど?

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

ウケ狙いのつもりだったのに気づいたら襲われてた

よしゆき
BL
仕事で疲れている親友を笑わせて元気付けようと裸エプロンで出迎えたら襲われてめちゃくちゃセックスされた話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

処理中です...