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66.許されない行為
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久我の運転するランボルギーニの車内は、しんと静まり返っている。
久我に聞きたいことも、話したいこともある。だが、いったい何からどう切りだしたらいいのかわからず、冬麻は助手席に座り、うつむいたままだ。
久我も何も話しかけてこない。梶ヶ谷にも激怒していたが、きっと冬麻にも怒っているに違いない。
あんな男のバカな策略におめおめと引っかかって、自らを危険に晒すような真似をして、久我はほとほと呆れているだろう。
梶ヶ谷にも冬麻は隙だらけだと言われた。冬麻自身も自分が駄目な奴だとわかっている。頭も良くないし、嘘をつくのも苦手だ。
久我みたいに冷静で完璧にできたらいいのにと思うが、冬麻には無理だ。
きっとこれからも久我に迷惑をかけて、久我の足を引っ張り続けることになる。
梶ヶ谷から奪った、久我のワイロの件についての証拠が入っているはずの茶封筒の中身はすべて白紙だった。
梶ヶ谷はずっとハッタリを言っていて、久我について何も情報を掴んでいなかったのかもしれない。
冬麻が、久我は悪いことなどしていないと信じられれば梶ヶ谷と会う必要などそもそもなかったのだ。
なのに冬麻は心のどこかでそういうことをするかもしれないと久我を疑って、信じきれなかった。「俺のことを信じないで梶ヶ谷の言葉を信じたのか?!」と久我に責められても仕方のない状況だ。
自分のことを信じてくれない恋人なんて嫌だろう。これは捨てられても文句は言えない。
車はものの数分で久我のマンションに到着した。
冬麻はマンションの部屋に入り、いつもの風景を見た途端、なぜか涙が溢れてきた。
ソファに腰を下ろし、静かに泣いた。冬麻は自分がなぜ泣いているのかもわからない。
安堵の涙なのか、自分が情けなくて泣いているのか、久我に嫌われたのではないかと怯えて泣いているのか。
「冬麻……」
久我が冬麻のすぐそばにきて、膝を折り、じっとこちらを見つめている。その愛しい恋人の顔を見たら、胸がキューッと苦しくなった。
「久我さん、俺っ……本当は怖くて、あんな奴大嫌いで……久我さんが来てくれたとき、助かったって思って……」
しゃくりながら、久我に訴える。久我は優しい目で冬麻の話をじっと聞いてくれている。
「久我さん、ごめんなさい。あの……久我さんは悪い人じゃないって信じてるんです。信じてはいるんですが、ワイロの証拠があるとか言われて、久我さんが逮捕されちゃったら嫌だし……。それで、あの、別に久我さんより、あいつを信用してるってわけじゃなくて、俺はバカだし、脅されるとすぐに怖くなっちゃって……とにかく謝ります。反省してますから……あの……俺のこと、き、嫌いにならないで……」
「俺が冬麻を嫌いになるわけない。悪いのは俺だよ。こんなことになったのは全部俺のせいだ……」
「えっ……?」
冬麻には意味がわからない。むしろ久我は梶ヶ谷の手から冬麻を助けてくれたのに。
「梶ヶ谷とは昔から仲が悪かった。あいつは俺に嫌がらせをするために冬麻を狙ったんだ。俺に対する攻撃だけならいい。でもそれが冬麻に向けられる可能性もあると俺は想定できていたんだから、冬麻をそばに置くなら、全力で冬麻を守らなきゃいけなかったんだ。なのに俺はこのザマだ。冬麻を泣かせるなんて絶対にしちゃいけないことなのに……」
久我はうなだれている。冬麻からみたら、久我が悪いことなどないのに、なにもかもを自分のせいにして、きっと胸を痛めている。
「冬麻はあいつに脅されてたんだね?」
「はい……」
冬麻はコクンと頷いた。
「俺と寝ないと久我さんの悪事を全部バラすって……」
「あいつ最悪だな。冬麻を誘惑するだけじゃなくそんなことまで……俺がもっと早く気付いてあげられたらよかった。それで、冬麻は脅されて、俺のためにって、あいつに抱かれようとしたの?」
「はい……ごめんなさい……っ」
久我には梶ヶ谷とホテルにいるところまで見られてしまった。今さら言い訳などできない。
「謝ることじゃない。でもこんなこと、二度としちゃ駄目だ。例え俺が目の前で殺されても冬麻は自分を守るんだよ。性的に乱暴されることは死ぬより辛いときがあるんだから」
「久我さん……」
冬麻は久我の胸に身体を寄せる。久我はそっと冬麻の背に腕を回して冬麻を受け入れてくれた。
久我の腕の中に包み込まれると、すごく安心する。不甲斐ない自分を許してもらえたこと、再びここに戻ってこられたことに安堵したせいか、冬麻の目からブワッと涙が溢れてきた。
「冬麻は俺を守ろうとひとりですごく頑張ってたんだね……」
久我に頭を撫でられる。そんなふうに久我に優しくされるたび、なぜか涙が溢れ出る。
久我に聞きたいことも、話したいこともある。だが、いったい何からどう切りだしたらいいのかわからず、冬麻は助手席に座り、うつむいたままだ。
久我も何も話しかけてこない。梶ヶ谷にも激怒していたが、きっと冬麻にも怒っているに違いない。
あんな男のバカな策略におめおめと引っかかって、自らを危険に晒すような真似をして、久我はほとほと呆れているだろう。
梶ヶ谷にも冬麻は隙だらけだと言われた。冬麻自身も自分が駄目な奴だとわかっている。頭も良くないし、嘘をつくのも苦手だ。
久我みたいに冷静で完璧にできたらいいのにと思うが、冬麻には無理だ。
きっとこれからも久我に迷惑をかけて、久我の足を引っ張り続けることになる。
梶ヶ谷から奪った、久我のワイロの件についての証拠が入っているはずの茶封筒の中身はすべて白紙だった。
梶ヶ谷はずっとハッタリを言っていて、久我について何も情報を掴んでいなかったのかもしれない。
冬麻が、久我は悪いことなどしていないと信じられれば梶ヶ谷と会う必要などそもそもなかったのだ。
なのに冬麻は心のどこかでそういうことをするかもしれないと久我を疑って、信じきれなかった。「俺のことを信じないで梶ヶ谷の言葉を信じたのか?!」と久我に責められても仕方のない状況だ。
自分のことを信じてくれない恋人なんて嫌だろう。これは捨てられても文句は言えない。
車はものの数分で久我のマンションに到着した。
冬麻はマンションの部屋に入り、いつもの風景を見た途端、なぜか涙が溢れてきた。
ソファに腰を下ろし、静かに泣いた。冬麻は自分がなぜ泣いているのかもわからない。
安堵の涙なのか、自分が情けなくて泣いているのか、久我に嫌われたのではないかと怯えて泣いているのか。
「冬麻……」
久我が冬麻のすぐそばにきて、膝を折り、じっとこちらを見つめている。その愛しい恋人の顔を見たら、胸がキューッと苦しくなった。
「久我さん、俺っ……本当は怖くて、あんな奴大嫌いで……久我さんが来てくれたとき、助かったって思って……」
しゃくりながら、久我に訴える。久我は優しい目で冬麻の話をじっと聞いてくれている。
「久我さん、ごめんなさい。あの……久我さんは悪い人じゃないって信じてるんです。信じてはいるんですが、ワイロの証拠があるとか言われて、久我さんが逮捕されちゃったら嫌だし……。それで、あの、別に久我さんより、あいつを信用してるってわけじゃなくて、俺はバカだし、脅されるとすぐに怖くなっちゃって……とにかく謝ります。反省してますから……あの……俺のこと、き、嫌いにならないで……」
「俺が冬麻を嫌いになるわけない。悪いのは俺だよ。こんなことになったのは全部俺のせいだ……」
「えっ……?」
冬麻には意味がわからない。むしろ久我は梶ヶ谷の手から冬麻を助けてくれたのに。
「梶ヶ谷とは昔から仲が悪かった。あいつは俺に嫌がらせをするために冬麻を狙ったんだ。俺に対する攻撃だけならいい。でもそれが冬麻に向けられる可能性もあると俺は想定できていたんだから、冬麻をそばに置くなら、全力で冬麻を守らなきゃいけなかったんだ。なのに俺はこのザマだ。冬麻を泣かせるなんて絶対にしちゃいけないことなのに……」
久我はうなだれている。冬麻からみたら、久我が悪いことなどないのに、なにもかもを自分のせいにして、きっと胸を痛めている。
「冬麻はあいつに脅されてたんだね?」
「はい……」
冬麻はコクンと頷いた。
「俺と寝ないと久我さんの悪事を全部バラすって……」
「あいつ最悪だな。冬麻を誘惑するだけじゃなくそんなことまで……俺がもっと早く気付いてあげられたらよかった。それで、冬麻は脅されて、俺のためにって、あいつに抱かれようとしたの?」
「はい……ごめんなさい……っ」
久我には梶ヶ谷とホテルにいるところまで見られてしまった。今さら言い訳などできない。
「謝ることじゃない。でもこんなこと、二度としちゃ駄目だ。例え俺が目の前で殺されても冬麻は自分を守るんだよ。性的に乱暴されることは死ぬより辛いときがあるんだから」
「久我さん……」
冬麻は久我の胸に身体を寄せる。久我はそっと冬麻の背に腕を回して冬麻を受け入れてくれた。
久我の腕の中に包み込まれると、すごく安心する。不甲斐ない自分を許してもらえたこと、再びここに戻ってこられたことに安堵したせいか、冬麻の目からブワッと涙が溢れてきた。
「冬麻は俺を守ろうとひとりですごく頑張ってたんだね……」
久我に頭を撫でられる。そんなふうに久我に優しくされるたび、なぜか涙が溢れ出る。
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