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48.レストランでの攻防
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レストランに入って席についたあと、梶ヶ谷に再び名前を聞かれて、冬麻はそれに答えた。
「二ノ坂冬麻くんか……冬麻くんって呼んでいい?」
「嫌です」
「そんなに警戒するなって。俺は君と親しくなりたいだけなんだから」
警戒するに決まってる。梶ヶ谷は久我のライバルなんだから。冬麻が久我の秘書と聞いて、きっと何か久我の情報を冬麻から聞き出そうと思っているに違いない。
「俺と仲良くしても、社長のことは何も知りません。みてのとおり新米秘書ですから」
「やだなぁ。違うよ。久我くんのことは置いといて、普通に仲良くなりたいだけ。ね、冬麻くんは年はいくつ?」
下の名前で呼ぶなと言ったのに……。
「二十二歳です」
まぁ、来月には二十三歳になるが。
「じゃあお酒も飲めるってことだよな……何が好き?」
「アルコールは苦手なんで、ソフトドリンクがいいです」
久我とだったら、美味しく赤ワインでも飲んでいたに違いない。でも、こんな状況で酔っ払いたくなかった。
「そうなの? わかった。食べ物は何を頼もうか。ステーキは美味しいからとりあえず食べてみる?」
梶ヶ谷が手渡してきたメニューを見るが、さすが高級店だ。どのメニューもそこそこの値が張る。
「梶ヶ谷さん、こんばんは。ご来店ありがとうございます」
白いコックコートを着た中年男性が梶ヶ谷のもとにやってきて、頭を下げた。
「三島社長! まだ現場手伝ってるんですか?!」
グラビティの社長の名前は三島だ。ということはこの男はきっと冬麻が会いたいと思っていたグラビティ社長・三島なのではないか。
「そうです。私はどうやら経営よりも料理のほうが好きなようです」
ニカっと笑う三島は見た目はすっかり中年でも、どこか夢を追う少年みたいに見えた。きっと好きなことをしているからなのだろう。
「物好きだなぁ。料理人よりも会社経営のほうが金になりますよ」
「そうですね。でも私は安定した環境で料理をしたいから自分で経営しているようなものですから」
確かに雇われでは、自分の思うような料理を気ままに作ることはできない。
だからといっていざ店を持つと、売り上げ、雇用など気にすることも多く、料理だけに集中していればいいというものではない。
5店舗も経営しながら、自ら現場で調理に携わるのは大変なことだろう。
「今日は、実は特別な牛肉が手に入ったんです。梶ヶ谷さんにお出ししてもいいですか?」
「あー、嬉しいな! 是非お願いします。特に今日はひとりじゃなくてツレがいるから」
冬麻としてはその『特別な牛肉』がいったいいくらするものなのか気になったが、梶ヶ谷は値段も聞かずに即答だ。
「梶ヶ谷さんのご友人さま。本日はご来店ありがとうございます。私はこの店のオーナーの三島です」
「二ノ坂です。三島さんは梶ヶ谷さんとどういった知り合いなんですか?」
「ああ。私の弟の友人が梶ヶ谷さんなんです」
「弟?!」
櫂堂から渡された資料には、三島には兄弟はいないと記載されていた。だからつい、驚いてしまった。
「びっくりしますよね。私は五十過ぎで、梶ヶ谷さんは私よりもかなり若いですものね」
よかった……。年齢差で驚いたと思ってもらえて……。
「弟といっても異母兄弟なんです。私もずっと自分に弟がいるなんて知らなくて、母が亡くなる前に教えてもらい、弟を捜しました」
「そうなんですか……」
「で、弟に会えたんですが、向こうは私を毛嫌いしてます。でも弟の友人の梶ヶ谷さんはこうして時々ウチの店に遊びに来て、弟の話を聞かせてくれるので、感謝してますよ」
兄は弟に会いたいと思って捜したのに、弟は兄のことをよく思っていないのか。こんなに人の良さそうな社長なのに。
「あいつは元気にしてますよ」
梶ヶ谷がそういうと「よかった」と三島が微笑んだ。
「二ノ坂さん、急に私の話をしてしまって申し訳なかったです」
「いえいえっ!」
実はあなたのことを調べていて、とても有益な話を聞かせてもらえました、とは言えない。
「おふたりで話しているところ、お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ」
三島は礼儀正しく頭を下げた。
「冬麻くんは彼女いるの?」
「えっ?!」
食事をしながらいきなりのプライベートな質問に冬麻はたじろいだ。
「いませんよっ」
「ふーん。じゃあ、彼氏は?」
「はい?!」
普通男にそんなこと聞かないだろ。なんなんだよ!
「俺、男ですよ。ふざけないでください!」
そう咄嗟に誤魔化したものの、冬麻には彼氏がいる。超ド級に冬麻に付きまとい、めちゃくちゃ愛してくれる彼氏が。
でも梶ヶ谷にだけは、久我との本当の関係を知られてはいけない。
「それ、どういう意味?」
梶ヶ谷は冬麻の様子を伺っている。
「つまり恋人はいないってこと?」
「え……」
一瞬戸惑ったが、ここで恋人がいるなんて言えるはずがない。
「……いません」
「そっか、そっか、俺と同じじゃん。俺も今フリーなんだ」
梶ヶ谷はやけにニコニコしている。恋人がいないのだから、喜ばしいことではないんじゃないのか……?
「三島社長の弟さんて、どんな人なんですか?」
話題を変えよう。冬麻の目的は、グラビティについての調査なのだから。
「あー。ひと言でいうとドラ息子? 三十三にもなって仕事もしてないし、クラブで遊んでるチャラい奴だよ」
「え!」
「でも、それにはあいつなりの理由があるんだ」
「なんですか……?」
「俺からは言えない。本人に会ってみる? あいつが自分で話すなら問題ないじゃん?」
どうしようか。会って話せば三島社長の件をより深く知ることができるかもしれないが……。
「冬麻くんの連絡先、教えて。あいつに会うときに連絡するから。俺と一緒に会いに行こうよ」
梶ヶ谷はスマホを取り出して、冬麻に連絡先を訊ねてきた。
これは仕事だ。有力な情報を掴めば、久我の手助けになるかもしれない。
「はい。お願いします」
冬麻もスマホを取り出し梶ヶ谷と互いの連絡先を交換した。
「二ノ坂冬麻くんか……冬麻くんって呼んでいい?」
「嫌です」
「そんなに警戒するなって。俺は君と親しくなりたいだけなんだから」
警戒するに決まってる。梶ヶ谷は久我のライバルなんだから。冬麻が久我の秘書と聞いて、きっと何か久我の情報を冬麻から聞き出そうと思っているに違いない。
「俺と仲良くしても、社長のことは何も知りません。みてのとおり新米秘書ですから」
「やだなぁ。違うよ。久我くんのことは置いといて、普通に仲良くなりたいだけ。ね、冬麻くんは年はいくつ?」
下の名前で呼ぶなと言ったのに……。
「二十二歳です」
まぁ、来月には二十三歳になるが。
「じゃあお酒も飲めるってことだよな……何が好き?」
「アルコールは苦手なんで、ソフトドリンクがいいです」
久我とだったら、美味しく赤ワインでも飲んでいたに違いない。でも、こんな状況で酔っ払いたくなかった。
「そうなの? わかった。食べ物は何を頼もうか。ステーキは美味しいからとりあえず食べてみる?」
梶ヶ谷が手渡してきたメニューを見るが、さすが高級店だ。どのメニューもそこそこの値が張る。
「梶ヶ谷さん、こんばんは。ご来店ありがとうございます」
白いコックコートを着た中年男性が梶ヶ谷のもとにやってきて、頭を下げた。
「三島社長! まだ現場手伝ってるんですか?!」
グラビティの社長の名前は三島だ。ということはこの男はきっと冬麻が会いたいと思っていたグラビティ社長・三島なのではないか。
「そうです。私はどうやら経営よりも料理のほうが好きなようです」
ニカっと笑う三島は見た目はすっかり中年でも、どこか夢を追う少年みたいに見えた。きっと好きなことをしているからなのだろう。
「物好きだなぁ。料理人よりも会社経営のほうが金になりますよ」
「そうですね。でも私は安定した環境で料理をしたいから自分で経営しているようなものですから」
確かに雇われでは、自分の思うような料理を気ままに作ることはできない。
だからといっていざ店を持つと、売り上げ、雇用など気にすることも多く、料理だけに集中していればいいというものではない。
5店舗も経営しながら、自ら現場で調理に携わるのは大変なことだろう。
「今日は、実は特別な牛肉が手に入ったんです。梶ヶ谷さんにお出ししてもいいですか?」
「あー、嬉しいな! 是非お願いします。特に今日はひとりじゃなくてツレがいるから」
冬麻としてはその『特別な牛肉』がいったいいくらするものなのか気になったが、梶ヶ谷は値段も聞かずに即答だ。
「梶ヶ谷さんのご友人さま。本日はご来店ありがとうございます。私はこの店のオーナーの三島です」
「二ノ坂です。三島さんは梶ヶ谷さんとどういった知り合いなんですか?」
「ああ。私の弟の友人が梶ヶ谷さんなんです」
「弟?!」
櫂堂から渡された資料には、三島には兄弟はいないと記載されていた。だからつい、驚いてしまった。
「びっくりしますよね。私は五十過ぎで、梶ヶ谷さんは私よりもかなり若いですものね」
よかった……。年齢差で驚いたと思ってもらえて……。
「弟といっても異母兄弟なんです。私もずっと自分に弟がいるなんて知らなくて、母が亡くなる前に教えてもらい、弟を捜しました」
「そうなんですか……」
「で、弟に会えたんですが、向こうは私を毛嫌いしてます。でも弟の友人の梶ヶ谷さんはこうして時々ウチの店に遊びに来て、弟の話を聞かせてくれるので、感謝してますよ」
兄は弟に会いたいと思って捜したのに、弟は兄のことをよく思っていないのか。こんなに人の良さそうな社長なのに。
「あいつは元気にしてますよ」
梶ヶ谷がそういうと「よかった」と三島が微笑んだ。
「二ノ坂さん、急に私の話をしてしまって申し訳なかったです」
「いえいえっ!」
実はあなたのことを調べていて、とても有益な話を聞かせてもらえました、とは言えない。
「おふたりで話しているところ、お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ」
三島は礼儀正しく頭を下げた。
「冬麻くんは彼女いるの?」
「えっ?!」
食事をしながらいきなりのプライベートな質問に冬麻はたじろいだ。
「いませんよっ」
「ふーん。じゃあ、彼氏は?」
「はい?!」
普通男にそんなこと聞かないだろ。なんなんだよ!
「俺、男ですよ。ふざけないでください!」
そう咄嗟に誤魔化したものの、冬麻には彼氏がいる。超ド級に冬麻に付きまとい、めちゃくちゃ愛してくれる彼氏が。
でも梶ヶ谷にだけは、久我との本当の関係を知られてはいけない。
「それ、どういう意味?」
梶ヶ谷は冬麻の様子を伺っている。
「つまり恋人はいないってこと?」
「え……」
一瞬戸惑ったが、ここで恋人がいるなんて言えるはずがない。
「……いません」
「そっか、そっか、俺と同じじゃん。俺も今フリーなんだ」
梶ヶ谷はやけにニコニコしている。恋人がいないのだから、喜ばしいことではないんじゃないのか……?
「三島社長の弟さんて、どんな人なんですか?」
話題を変えよう。冬麻の目的は、グラビティについての調査なのだから。
「あー。ひと言でいうとドラ息子? 三十三にもなって仕事もしてないし、クラブで遊んでるチャラい奴だよ」
「え!」
「でも、それにはあいつなりの理由があるんだ」
「なんですか……?」
「俺からは言えない。本人に会ってみる? あいつが自分で話すなら問題ないじゃん?」
どうしようか。会って話せば三島社長の件をより深く知ることができるかもしれないが……。
「冬麻くんの連絡先、教えて。あいつに会うときに連絡するから。俺と一緒に会いに行こうよ」
梶ヶ谷はスマホを取り出して、冬麻に連絡先を訊ねてきた。
これは仕事だ。有力な情報を掴めば、久我の手助けになるかもしれない。
「はい。お願いします」
冬麻もスマホを取り出し梶ヶ谷と互いの連絡先を交換した。
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