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40.真実
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「待ってください。久我さんは俺を陽向くんの身代わりにして、毎年、俺の写真を見ながら陽向くんの誕生日を祝ってたんですよね?」
冬麻としては、この写真は8月3日に撮影されたもので、久我が冬麻を眺めながら実は陽向のことを想っていたという揺るぎない証拠だとばかり思っていた。
「いいえ、違います。この写真は私が撮りました。7月24日、社長の誕生日当日に冬麻さまの写真を撮って、その日のうちにプリントして『Happy birthday』と文字を添えて社長にプレゼントしました」
この写真は久我の誕生日7月24日に撮影されたもの。しかもメッセージは櫂堂が久我宛てに書いたものだったのか。久我の誕生日を祝うために。
「社長は『陽向の代わり』だと冬麻さまに嘘をついたんじゃないでしょうか。冬麻さまと別れようと決心され、あなたに嫌われようとしたんでしょうね」
「嘘……ですか……?」
「はい。あなたがこの写真をみて身代わりにされたと勘違いなさったのを利用して、思ってもないことを口にしたのだと思います。だって社長はこの写真が私からのプレゼントだと当然ご存じですから」
「それじゃあ……」
櫂堂の言うことが真実ならば、久我は冬麻のことを陽向の代わりだなんて思っていなかったということなのか。
久我は冬麻を見て純粋に冬麻のことを想ってた……?
「社長は冬麻さまのことを陽向の代わりだなんて一度も思ったことはない。私は社長をずっと近くで見ていてそのように思いますが」
信じられないことだが、十年前、陽向の代わりなんかじゃなく、久我は冬麻に一目惚れ状態で好意を持った。そしてそこから十年間ずっと冬麻のことだけを好きでいてくれた。
それなのに、冬麻と別れる決心をしたために嘘をついたのだ。「冬麻を見て陽向を思い出していた」なんて、冬麻が久我のことをより嫌いになるための嘘を。
不意にガチャリと鍵が解除された音が遠くから聞こえた。
「おい、櫂堂!! いるのか?!」
この声は久我の声だ。思わず櫂堂と目を合わせて驚く。櫂堂も自分が迎えに行くつもりの久我が帰ってくるとは思っていなかったようだ。
「冬麻さま。どうか私の極秘任務にお付き合いください」
櫂堂は小声で冬麻に訴えてきた。
「いいですか。冬麻さまは今から社長のベッドの中に隠れてください。できるだけ頭まで身を隠していてください」
「えっ……」
「あなたは等身大の人形になったつもりで絶対に動かないでください。社長がいない時は動いても構いませんが、社長がそばにいる時は絶対に動かないでください。もちろん声も発してはいけません」
「ど、どういうことでしょう……」
櫂堂は何を考えているんだ……?
「とにかくお願いします。『等身大冬麻くん人形』になりきってください」
「へっ……?!」
全然話がわからない。なんだよ『等身大冬麻くん人形』って……。
「櫂堂!!」
再び久我の声が聞こえた。さっきよりも距離は近い。
「早く隠れてくださいっ!」
冬麻はわけのわからないまま、久我のベッドに潜り込んだ。
「櫂堂。ここにいたのか」
久我の部屋のドアが開けられた音がして、そのあと久我の声が聞こえた。
冬麻は久我のベッドの中にすっぽりと隠れている。そのため音や声は聞こえるが、それ以外はわからない。
「社長! お疲れ様ですっ」
櫂堂が久我に応えている。
「お前が俺の連絡を無視するなんてどうしたんだ……? 何かあったのかと心配して帰ってきた」
「社長、申し訳ございませんでした。少しトラブルがあり社長からの連絡に気がつけませんでした。しかしもう解決いたしました。今やっと例のものを社長のベッドの中に置かせていただいたところです」
例のもの……? ベッドの中に置いた……?
それはまさか……。
「そうか。ありがとう」
「いいえ」
「後で確認するよ」
「はい。よろしくお願いします。そして社長、大変申し訳ありませんがバスルームをお借りしました。トラブルがあったもので……」
「え……? まぁ、お前なら構わないけど、何があった……?」
「明日、必ず社長に説明いたします。今日は私はこれで失礼させていただいてもよろしいですか?」
「ああ……構わないが……」
「ありがとうございます。それと——」
バタンと部屋の扉が閉まる音がした。久我と櫂堂のふたりは話をしながらこの部屋を出て行ったようだ。
部屋に誰もいないようなので、冬麻は布団から顔を出した。さすがにずっと潜りっぱなしでは息苦しい。
——この状況はなんなんだ……? 俺はいつまでここに隠れていればいいんだよ……。
あれから久我が全然この部屋にこない。なので、冬麻はベッドに寝転がりながら、アルバムの写真を眺めていた。
アルバムにある写真の九割以上が盗撮で、冬麻の横顔や遠くから撮影した引き目の写真ばかり。冬麻、冬麻、冬麻。このアルバムの中は全て冬麻の写真だ。
盗撮でないものは、冬麻と恋人同士だった僅かの期間に撮られた写真だけ。
いまだに信じられない。あんな人が十年間もずっと冬麻だけを想っていただなんて……。
——足音が近づいてくる。
冬麻は慌ててアルバムをもとの位置に戻してベッドの中に潜り込んだ。頭からつま先まで全てを隠して。
ガチャリと扉が開く音。そして扉が閉まる音。
人の気配を感じる。
すぐそばに久我がいる。
冬麻は息を殺してじっと動かない。
ギシリ、とベッドが軋んだ。どうやら久我がベッドに腰をかけたようだ。
「冬麻に会いたい……」
久我の独り言だ。久我は今ここに冬麻がいることに気がついていない……?
「今日は特に冬麻に会いたかったな……。こんな日にひとりでいるのは嫌だ……」
これは久我の本音なのか。冬麻も今日この日だけは久我に会いたいと思っていたけど、同じことを想ってくれていた……?
冬麻には「祝う気にならないから約束は忘れてくれていい」なんて言っていたくせに。
「冬麻を忘れるなんて無理だ……」
久我はまだ冬麻のことを忘れてはいない……?
いつか久我が冬麻の仕事を手伝ってくれた日の飲み会の時に「もう終わったことだから」なんてみんなの前で言い切ってたくせに。
「冬麻くん、ありがとう。俺の話を黙って聞いてくれて」
またギシリとベッドが軋んだ。久我がこちらに近づいてきたようだ。かなり近いのかレモングラス&カフィルライムの精油の香りがする。懐かしいボディソープの香りだ。
でも冬麻は久我に背を向けてベッドの布団の中に全身潜り込んでいるのではっきりとした状況はわからない。
それにしても『冬麻くん』っていったいなんだ……?
「本物の冬麻には、新しい恋人ができたみたいなんだ。冬麻は幸せそうだったよ。冬麻のほうがあいつに夢中になってるみたいだった」
冬麻に新しい恋人……?
まさか晴翔のことか?!
「良かった。俺の大好きな冬麻が幸せになってくれて。でも俺はどうしたらいいんだろう……。今ごろ冬麻があの男と過ごしてるんじゃないかって思っただけで、すごく心が苦しくなる……」
なんてことをする人なんだ。冬麻さえ幸せなら自分の気持ちを蔑ろにしても、それで良かっただなんて……。
「冬麻くん。俺を癒してよ」
久我が布団をめくりあげ、中に侵入してきた。そしてそのままベッドの中で冬麻を背後から抱き締める——。
冬麻としては、この写真は8月3日に撮影されたもので、久我が冬麻を眺めながら実は陽向のことを想っていたという揺るぎない証拠だとばかり思っていた。
「いいえ、違います。この写真は私が撮りました。7月24日、社長の誕生日当日に冬麻さまの写真を撮って、その日のうちにプリントして『Happy birthday』と文字を添えて社長にプレゼントしました」
この写真は久我の誕生日7月24日に撮影されたもの。しかもメッセージは櫂堂が久我宛てに書いたものだったのか。久我の誕生日を祝うために。
「社長は『陽向の代わり』だと冬麻さまに嘘をついたんじゃないでしょうか。冬麻さまと別れようと決心され、あなたに嫌われようとしたんでしょうね」
「嘘……ですか……?」
「はい。あなたがこの写真をみて身代わりにされたと勘違いなさったのを利用して、思ってもないことを口にしたのだと思います。だって社長はこの写真が私からのプレゼントだと当然ご存じですから」
「それじゃあ……」
櫂堂の言うことが真実ならば、久我は冬麻のことを陽向の代わりだなんて思っていなかったということなのか。
久我は冬麻を見て純粋に冬麻のことを想ってた……?
「社長は冬麻さまのことを陽向の代わりだなんて一度も思ったことはない。私は社長をずっと近くで見ていてそのように思いますが」
信じられないことだが、十年前、陽向の代わりなんかじゃなく、久我は冬麻に一目惚れ状態で好意を持った。そしてそこから十年間ずっと冬麻のことだけを好きでいてくれた。
それなのに、冬麻と別れる決心をしたために嘘をついたのだ。「冬麻を見て陽向を思い出していた」なんて、冬麻が久我のことをより嫌いになるための嘘を。
不意にガチャリと鍵が解除された音が遠くから聞こえた。
「おい、櫂堂!! いるのか?!」
この声は久我の声だ。思わず櫂堂と目を合わせて驚く。櫂堂も自分が迎えに行くつもりの久我が帰ってくるとは思っていなかったようだ。
「冬麻さま。どうか私の極秘任務にお付き合いください」
櫂堂は小声で冬麻に訴えてきた。
「いいですか。冬麻さまは今から社長のベッドの中に隠れてください。できるだけ頭まで身を隠していてください」
「えっ……」
「あなたは等身大の人形になったつもりで絶対に動かないでください。社長がいない時は動いても構いませんが、社長がそばにいる時は絶対に動かないでください。もちろん声も発してはいけません」
「ど、どういうことでしょう……」
櫂堂は何を考えているんだ……?
「とにかくお願いします。『等身大冬麻くん人形』になりきってください」
「へっ……?!」
全然話がわからない。なんだよ『等身大冬麻くん人形』って……。
「櫂堂!!」
再び久我の声が聞こえた。さっきよりも距離は近い。
「早く隠れてくださいっ!」
冬麻はわけのわからないまま、久我のベッドに潜り込んだ。
「櫂堂。ここにいたのか」
久我の部屋のドアが開けられた音がして、そのあと久我の声が聞こえた。
冬麻は久我のベッドの中にすっぽりと隠れている。そのため音や声は聞こえるが、それ以外はわからない。
「社長! お疲れ様ですっ」
櫂堂が久我に応えている。
「お前が俺の連絡を無視するなんてどうしたんだ……? 何かあったのかと心配して帰ってきた」
「社長、申し訳ございませんでした。少しトラブルがあり社長からの連絡に気がつけませんでした。しかしもう解決いたしました。今やっと例のものを社長のベッドの中に置かせていただいたところです」
例のもの……? ベッドの中に置いた……?
それはまさか……。
「そうか。ありがとう」
「いいえ」
「後で確認するよ」
「はい。よろしくお願いします。そして社長、大変申し訳ありませんがバスルームをお借りしました。トラブルがあったもので……」
「え……? まぁ、お前なら構わないけど、何があった……?」
「明日、必ず社長に説明いたします。今日は私はこれで失礼させていただいてもよろしいですか?」
「ああ……構わないが……」
「ありがとうございます。それと——」
バタンと部屋の扉が閉まる音がした。久我と櫂堂のふたりは話をしながらこの部屋を出て行ったようだ。
部屋に誰もいないようなので、冬麻は布団から顔を出した。さすがにずっと潜りっぱなしでは息苦しい。
——この状況はなんなんだ……? 俺はいつまでここに隠れていればいいんだよ……。
あれから久我が全然この部屋にこない。なので、冬麻はベッドに寝転がりながら、アルバムの写真を眺めていた。
アルバムにある写真の九割以上が盗撮で、冬麻の横顔や遠くから撮影した引き目の写真ばかり。冬麻、冬麻、冬麻。このアルバムの中は全て冬麻の写真だ。
盗撮でないものは、冬麻と恋人同士だった僅かの期間に撮られた写真だけ。
いまだに信じられない。あんな人が十年間もずっと冬麻だけを想っていただなんて……。
——足音が近づいてくる。
冬麻は慌ててアルバムをもとの位置に戻してベッドの中に潜り込んだ。頭からつま先まで全てを隠して。
ガチャリと扉が開く音。そして扉が閉まる音。
人の気配を感じる。
すぐそばに久我がいる。
冬麻は息を殺してじっと動かない。
ギシリ、とベッドが軋んだ。どうやら久我がベッドに腰をかけたようだ。
「冬麻に会いたい……」
久我の独り言だ。久我は今ここに冬麻がいることに気がついていない……?
「今日は特に冬麻に会いたかったな……。こんな日にひとりでいるのは嫌だ……」
これは久我の本音なのか。冬麻も今日この日だけは久我に会いたいと思っていたけど、同じことを想ってくれていた……?
冬麻には「祝う気にならないから約束は忘れてくれていい」なんて言っていたくせに。
「冬麻を忘れるなんて無理だ……」
久我はまだ冬麻のことを忘れてはいない……?
いつか久我が冬麻の仕事を手伝ってくれた日の飲み会の時に「もう終わったことだから」なんてみんなの前で言い切ってたくせに。
「冬麻くん、ありがとう。俺の話を黙って聞いてくれて」
またギシリとベッドが軋んだ。久我がこちらに近づいてきたようだ。かなり近いのかレモングラス&カフィルライムの精油の香りがする。懐かしいボディソープの香りだ。
でも冬麻は久我に背を向けてベッドの布団の中に全身潜り込んでいるのではっきりとした状況はわからない。
それにしても『冬麻くん』っていったいなんだ……?
「本物の冬麻には、新しい恋人ができたみたいなんだ。冬麻は幸せそうだったよ。冬麻のほうがあいつに夢中になってるみたいだった」
冬麻に新しい恋人……?
まさか晴翔のことか?!
「良かった。俺の大好きな冬麻が幸せになってくれて。でも俺はどうしたらいいんだろう……。今ごろ冬麻があの男と過ごしてるんじゃないかって思っただけで、すごく心が苦しくなる……」
なんてことをする人なんだ。冬麻さえ幸せなら自分の気持ちを蔑ろにしても、それで良かっただなんて……。
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久我が布団をめくりあげ、中に侵入してきた。そしてそのままベッドの中で冬麻を背後から抱き締める——。
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