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5.疑惑 〜大河side〜
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大河side
——おかしいなと思ったんだ。最近すっかり笑顔が消えた陸斗が、急に俺の好物ばっかり並べてくるなんて。
大河の嫌な予感は的中した。喧嘩をするたびに、今度こそ陸斗から別れを突きつけられるのではないかと怯えていたが、それが遂に訪れたのだ。
覚悟はしていた。陸斗から「別れよう」と言われたらみっともなく縋り付いたりせずに潔く受け入れようと決めていた。
陸斗は優しいから「別れたくない! 俺と一緒にいて欲しい!」と大河が駄々をこねれば自分の本当の気持ちを押し殺してでも、大河がそばにいることを許してしまうかもしれないから。
陸斗の気持ちが大河から離れたことに気がついたのは、数ヶ月前の話だ。
「総務の小林って奴、知ってる?」
同僚二人の世間話が気になって、大河は仕事をしているふりをしながら聞き耳を立てた。なぜなら、大河の恋人、小林陸斗は総務部だからだ。
「小林がどうしたんだ?」
「俺見ちゃったんだよ。新井といい感じだと思ってたら、二人が腕組んでホテル街に向かうところ」
新井は大河と同じ営業部で大河と陸斗、二人の同期だ。新井はかなり容姿の整った奴で、愛想もいいし入社当初から明らかにモテた。それなのにいつまでも彼女を作らないので「新井はゲイなのか?」とあらぬ噂を立てられている。
「マジで?!」
同僚の会話を盗み聞きしている大河も一緒に心の中で「マジで?!」と叫んでいる。二人の会話に今すぐ加わって、根掘り葉掘り聞き出したい衝動に駆られるが、そんなことはできない。
会社内で、大河と陸斗二人の関係は秘密裏だ。二人の仲を疑われるような行動は微塵も許されない。大河は、会社では陸斗とアイコンタクトすら取らないようにしている。そしてそれは陸斗も同じだ。
——陸斗が、浮気?!
そんなこと陸斗に限ってありえない。絶対に違う、何かの間違いだ。
二人の話を中途半端に聞いてしまったがために、真相が気になって仕方がない。
それから数日後の昼休み、大河が社外に出ようとした時だ。
大河の少し前を歩く、陸斗と新井の姿を見つけた。二人はランチに連れ立ってるようだ。
——部署も違うのに二人で行くのかよ!
先日の噂話のせいもあり、自分でも抑えきれないくらいの嫉妬心が湧いてくる。
大河はさりげなく二人を追跡する。
少し歩いていったところで、新井は陸斗の肩に腕を回し上機嫌だ。まぁ、肩を組む行為くらいは友達でもやる。許してやるかと大河は上から目線。
だが、次に新井は組んでいた腕を下に下ろし、陸斗の背中を撫で、さらにその下、陸斗の尻まで触っている。
陸斗はすぐに新井の手をふり払ったが、その後も二人は仲良さそうに話している。
なんだ今のは。
絶対におかしいだろ。
なんで陸斗はあんな奴に笑顔を向けるんだよ! さっきのは完全にセクハラだ!
でも陸斗が新井のことを好きだったとしたら……?
同僚の噂話が本当だったとしたら……?
嘘だろ。信じたくない。陸斗が大河のもとから離れていくなんて——。
——おかしいなと思ったんだ。最近すっかり笑顔が消えた陸斗が、急に俺の好物ばっかり並べてくるなんて。
大河の嫌な予感は的中した。喧嘩をするたびに、今度こそ陸斗から別れを突きつけられるのではないかと怯えていたが、それが遂に訪れたのだ。
覚悟はしていた。陸斗から「別れよう」と言われたらみっともなく縋り付いたりせずに潔く受け入れようと決めていた。
陸斗は優しいから「別れたくない! 俺と一緒にいて欲しい!」と大河が駄々をこねれば自分の本当の気持ちを押し殺してでも、大河がそばにいることを許してしまうかもしれないから。
陸斗の気持ちが大河から離れたことに気がついたのは、数ヶ月前の話だ。
「総務の小林って奴、知ってる?」
同僚二人の世間話が気になって、大河は仕事をしているふりをしながら聞き耳を立てた。なぜなら、大河の恋人、小林陸斗は総務部だからだ。
「小林がどうしたんだ?」
「俺見ちゃったんだよ。新井といい感じだと思ってたら、二人が腕組んでホテル街に向かうところ」
新井は大河と同じ営業部で大河と陸斗、二人の同期だ。新井はかなり容姿の整った奴で、愛想もいいし入社当初から明らかにモテた。それなのにいつまでも彼女を作らないので「新井はゲイなのか?」とあらぬ噂を立てられている。
「マジで?!」
同僚の会話を盗み聞きしている大河も一緒に心の中で「マジで?!」と叫んでいる。二人の会話に今すぐ加わって、根掘り葉掘り聞き出したい衝動に駆られるが、そんなことはできない。
会社内で、大河と陸斗二人の関係は秘密裏だ。二人の仲を疑われるような行動は微塵も許されない。大河は、会社では陸斗とアイコンタクトすら取らないようにしている。そしてそれは陸斗も同じだ。
——陸斗が、浮気?!
そんなこと陸斗に限ってありえない。絶対に違う、何かの間違いだ。
二人の話を中途半端に聞いてしまったがために、真相が気になって仕方がない。
それから数日後の昼休み、大河が社外に出ようとした時だ。
大河の少し前を歩く、陸斗と新井の姿を見つけた。二人はランチに連れ立ってるようだ。
——部署も違うのに二人で行くのかよ!
先日の噂話のせいもあり、自分でも抑えきれないくらいの嫉妬心が湧いてくる。
大河はさりげなく二人を追跡する。
少し歩いていったところで、新井は陸斗の肩に腕を回し上機嫌だ。まぁ、肩を組む行為くらいは友達でもやる。許してやるかと大河は上から目線。
だが、次に新井は組んでいた腕を下に下ろし、陸斗の背中を撫で、さらにその下、陸斗の尻まで触っている。
陸斗はすぐに新井の手をふり払ったが、その後も二人は仲良さそうに話している。
なんだ今のは。
絶対におかしいだろ。
なんで陸斗はあんな奴に笑顔を向けるんだよ! さっきのは完全にセクハラだ!
でも陸斗が新井のことを好きだったとしたら……?
同僚の噂話が本当だったとしたら……?
嘘だろ。信じたくない。陸斗が大河のもとから離れていくなんて——。
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